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(中身アラフィフ、外見7歳もうすぐ8歳になる予定)
選定茶会で出会った子供たちの中に、ひときわ鋭い視線を向けてくる少年がいた。
黒髪に冷静な瞳。宰相家の嫡男、カイル・エルグラン。彼は、まるで論文でも読むかのような目つきで、私を見てきた。
「君は…アルフォート家の娘?文官の家系か。ふうん」
(ああ、典型的な“賢い子”ね。でも、こういう子ほど、知識に弱いのよ)
私は、前世で得た知識――経済や歴史の話を少しだけしてみた。
すると、彼の目が変わった。鋭さの中に、好奇心が混ざる。
「セレナ嬢、君…面白いね。もっとお互いに知っていることを話さないか?」
その瞬間、私は前世で出会った“頭でっかちの新人君”を思い出した。知識はあるけれど、現場の空気が読めない。
理屈ばかりで、周囲とぶつかってばかり。
けれど、そんな彼も、ちょっとした成功体験で変わっていった。
「カイル様の説明、とてもわかりやすかったです」
と言われた瞬間、目の色が変わったのを、今でも覚えている。
(カイルも、きっと同じ。知識だけじゃなく、経験が必要なんだ)
それ以来、カイルは私にだけ“素直な顔”を見せるようになった。
けれど、彼の世界は“机の上”に限られていた。
お茶会がおわりしばらくしてから、我が家の庭で、私がグレイと剣の構えを練習していたとき、カイルが遠巻きに見ていた。
「君たち、そんなにずっと動いていて…疲れないの?」
「カイルもやってみない?ちょっとだけでも、体を動かすと頭も冴えると思うよ」
「僕は…運動は好きじゃないんだ。何も得るものがないからね。疲れるし、汗かくし…意味がわからない」
(ああ、これは完全に“体育嫌いの秀才タイプ”だ)
でも私は知っている。こういう子ほど、ちょっとした成功体験で変わる。前世でも、文句ばかり言っていた新人が、現場で褒められた途端、目の色を変えて成長していった。
「じゃあ、まずは一緒に庭を歩いてみない?競争じゃなくて、並んで歩くだけ」
最初は渋々だったカイルも、少しずつ体力がついてきたのか、私たちのペースに慣れていった。
庭を一周するだけで息を切らしていたのに、数日後には「今日は二周いけるかも」と言い出すようになった。
「セレナ、僕…最近、体を動かすのが楽しくなってきた」
「でしょ?頭だけじゃなくて、体も使うと、もっと世界が広がるよ」
「…君といると、僕の“知らないこと”が減っていく気がする」
(それはね、カイル。“知識”じゃなくて“経験”っていうのよ)
彼は、少しずつ私になついていった。お茶の時間には隣に座りたがり、勉強の合間には「セレナ、今日の運動は何する?」と聞いてくる。
(もうね、かわいくて仕方ないのよ。ちょっと頑固だけど、根は素直で真面目。母親だったら、毎日ぎゅっと抱きしめたくなるタイプ)
ある日、彼がぽつりと呟いた。
「セレナ、僕…君といると、安心する。僕のこと、嫌だと思わない?」
「嫌じゃないよ。むしろ、すごく素敵だと思う。カイルは、誰よりも色々考えてるし、私に色々教えてくれるから」
「…ありがとう。僕、君のこと…友達だと思ってる」
「私もだよ。カイルは、私の大事な友達」
その言葉に、彼は照れくさそうに笑った。
その笑顔は、いつもの“賢い少年”の顔じゃなくて、年相応の“普通の男の子”の顔だった。
こうして、カイルとの友情は、知識と経験、そして心の交流を通じて、少しずつ育っていった。
学園に入る頃には、彼は「セレナがいないと、つまらない」と言うほどに、私を信頼してくれていた。
(頭でっかちでも、心は柔らかい。それを知れたのは、私にとっても宝物)




