2 トーマス
私は公爵家の次男だ。
魔力があったので魔法学校に入った。
初めは将来を嘱望されて、鳴り物入りで入学したのに3年も留年しておまけで卒業出来た。お、ま、け、で。
何という屈辱。一緒に入学した平民達は初め古代文字も読めず、馬鹿な子供達ばかりだったのに、学年が上がる度に追い越されて行く。
魔法使いの力は、魔力があることはもちろんだが、感覚で魔法を発動できなければ成らないそうだ。
初めは呪文を覚えて、基本が出来てきたら後の応用は各自で研鑽しなければならない。
私は呪文はきちんと唱えることは出来たが、その後の応用になると全く出来ない。
どう言うことだ?平民でさえ簡単に、次々と上級の魔法が放てる様になっていくのに。
公爵家では皆の視線が痛い。今は本宅から離れて一人でタウンハウスに召使いと居る。
最後の望みを掛けて、この講習に参加したのに、やることと言えば子供の遊びでは無いか。
人を馬鹿にするのもいい加減にしろ!
しかし、ヤーオイ導師の言っている通りにしようとしてもなかなか出来ない自分がいた。
右、左くらい分るはずだ。多分。
何時もはメイドにすべて任せているので、右側の袖口と言われてもどちらか分らない。何と言うことだ。今までやってこなかったことが、魔法の発現の妨げになっていたとは。
通りで平民が優秀なはずだ。彼等には召使いなどいないのだから、総て自分でしなければならない。
それが魔法にとってどれほど助けになっていたことか。
今はメイドに頼らず、自分で着替えが出来る様に練習している。どうだ、凄いことをして居ると思わないか?この私が着替えを一人で出来たんだぞ。
ヤーオイ導師に教えて貰わなければ知らなかったことだった。これからは導師の言うことを一言も聞き漏らすまい。私は、大魔法使いになってみせるぞ。
それにしても、ヤーオイ導師の魔法は何と繊細なんだ。
大魔法は力の有る魔法使いなら幾らでも放てるが、紙の鳥を自由自在に飛ばすなど見たことも聞いたことも無い。あれは何という魔法なのだろう。風の魔法か?それとも命を吹き込む光魔法なのだろうか。生きた鳥のように、自由に飛び回る素晴らしい魔法だ。若しかしたら、闇かも知れない。行き場の無い魂を取り込んで閉じ込め、操っているのかも知れない。
ヤーオイ導師は、恋人はいるのだろうか。私が大魔法使いになった暁には、公爵家に入って貰っても良いかもしれない。あれほどの力が有る魔法使いだ。例え平民であろうとも、父上は反対なさらないだろう。
導師も、私の側室ならば、文句は言うまい。ふ、まあ、もうすでに私に心を奪われているだろう。
仕方がない、側室では無く妻にしてやっても言い。ふ、ははは。