11 何処へ行こうか
国の外へ転移は出来ない。
葵が行った場所しかイメージが出来なかった。
葵は今、王領とマキシマス辺境伯領の境にいた。ここは通った事がある。ここから西へ何処までも行けば隣の国へ行けるはずだ。
この国からは出て行こう。誰も知らない場所へ行って新しく始めよう。六十年も元の世界へ帰れないのなら、この世界で生きて行くしか無い。
宿を取って、この世界で初めて一般の人達と触れあった。
宿の女主人は気さくな人で、女の一人旅を心配してくれた。
「あんたまだ子供だろう、親はどうした。後から来るのかい?」
「私は二十一歳です。大人の女です。」
「おや、済まないねえ。ちっちゃくて可愛いから十四歳くらいかと思ったよ。でもさ、危ないからローブを着て顔を隠した方が良いよ。」
そうかも知れない。人攫いもいると聞いて慌ててローブを買った。
でも、考えてみれば人攫いにあっても転移で逃げれば良いだけだった。魔法があるから何でもこいだ。
そう思っていた矢先に、後ろから腕を掴まれた。
「ヤーオイ導師!」
え?やば、もう見付かっちゃった。振り向くとそこに居たのは、サムエルだった。
ここは辺境伯領の端っこだし、サムエルがいても不思議は無いが、彼の格好はまるで兵士のようだ。
彼は話があるからと、近くの酒場へ葵を連れて行った。
「私は廃嫡の身ですから、村から出れば只の平民になります。」
「お父様に、魔法が使えることを言えば良かったのに。」
「いえ、あんな恐ろしいことをして言えるわけはありません。ヤーオイ導師に異常気象の原因が私だと言うことを隠して貰えなかったら、今頃は、牢の中でした。」
そうだった。余りにも影響が広がりすぎるだろうと、葵はだんまりを決め込んだのだった。
魔法が解けたのだから、異常気象はその内落ち着くだろう。誰にもわかりはしない。
「感謝しております。所で何故ヤーオイ導師はここへ入らしたのですか?ここは領内でも治安が悪い場所です。早く神殿へ帰った方が良いです。」
「私、神殿を出てきました。これから隣の国へ行こうと思って。」
「ほう、そうですか。では私が護衛をしましょう。あ、だめです。断ってもついて行きます。魔法で逃げても私には追いかけることが出来ます。諦めて下さい。」
く、サムエルは突然魔法が得意になって仕舞った。魔力が人一倍多いのでほぼ葵と同じ魔法が使えると考えて良いだろう。まあ、付いてきてくれるなら安心かも。
「でも、サムエルは兵士の仕事は辞めちゃって良いの?」
「私は兵士では無いですよ。冒険者です。何処でも自由に行ける立場です。」
何それ。面白そう。
「私にも出来る仕事?」
「ええ、ヤーオイ導師と一緒なら鬼に金棒ですよ。」