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1 折り紙を持って異世界へ来た

私は、神谷葵。

異世界に突然お呼ばれされて仕舞った。

海に面した崖の上に立つ白い大きな建物。広い窓からは、海鳥が気持ちよく飛んでいるのが見える。

ここはコンブ国の大神殿だそうだ。

黒いローブを着た神官が周りに立って私を取り囲んでいる。

お遊戯会の準備で、折り紙の一杯入った箱を持って、呆然と立っている私。

「ようこそ。異世界から招かれた方。よろしければお名前をお聞かせ下され。」

「えーと、神谷葵です。」

「エートカ・ミャーオイ?変わったお名前ですな。いや失礼しました。私は、この神殿の神官のノエル・ボッサムです。これからエートカ様にはゆっくりとしていただいて、その後エートカ様に降りていただいた理由を説明させていただきます。」

何が何だか分らない内に、別室に案内されてそこで休むように言われた。

新卒で、私設の保育所に勤め始めて、楽しく子供達と過ごして居たのに。何故に私はここに居るのだろう。

「ああ、院長先生に折り紙を渡していない!もう直ぐお遊戯会があると言うのに準備が間に合わなくなる。」

傍らに置いた段ボール箱一杯の折り紙。これから色々作らなければ成らなかったのに。頭を抱えてうずくまってしまった。

神官達が葵をまた呼び出し、別室で説明を聞いた。

「エートカ様、」

「あの、私の名前は、カミヤ・アオイです。アオイと呼んで頂けませんか?」

「これは失礼いたしました。では、ヤーオイ様、われわれのお願いをを聞いて頂けますでしょうか。我らの国には、近年気候変動がございまして、それを抑えるために多くの魔法使いが必要になりました。」

ヤーオイじゃないのに。面倒になって仕舞った。ここで葵を知っている人などいないから、諦めてヤーオイで妥協しよう。この際エートカでもどっちでも良い。

彼等の話を要約すると、この国の魔法使いが足りなくなって、3級の力の無い魔法使いも、駆り出さなければならなくなってしまったとか。それを葵に教育して欲しいと言うことらしい。

「あの私、魔法など使ったことが無いのですが。大丈夫ですか?」

「はい、異世界からいらした方は、総て器用で何でも出来てしまうそうです。過去には大魔法を作り出した方までいらっしゃいました。」

地味な神官服を着た初老の神官が眼鏡を押し上げながら説明している。

そこに立派な神官服を着たでっぷりと太った神官がかぶせるように付け足した。

「ヤーオイ様。心配はいりません。けしてヤーオイ様には危険な場所には行って頂かない。出来損ないの魔法使い達を鍛えて頂くだけで良いのです。どうか受けてくださいませんか?」

そんなことを言ったって、魔法使いを教育することなどやったことは無い。不器用な人や子供は結構知っているけど、そういう子供を教える感じで良いのかしら。

だったら、丁度折り紙もある事だし、指先を鍛えてあげれば良いのかも。ぶきっちょさんが旨く魔法を使えるようになったら、直ぐに元の世界へ返して貰えるらしい。

だったら、やってみようかしら。


葵の部屋には立派なベッドと、応接セットが置かれていた。

一人になって、これからのことを考えてみる。

この世界に居れば、彼方の世界では時間が止っているのだとか。元の世界へ帰れば、元の時間軸に戻れて仕舞うので、焦らなくても良いと言われた。何十年でも大丈夫なのだそうだ。

冗談じゃあ無い。直ぐにでも帰りたいのに、でも焦っても帰れない。

段ボール箱から、折り紙を出して折り鶴を折ってみる。

「折り鶴は難易度が高いかな。初心者には、オルガンか、朝顔あたりが良いかも。それとも、まずは二つ折りからかな。」

おり上がった折り鶴にフーッと空気を入れて膨らますと、鶴がパタパタと飛んでいる。

「へっ?」

葵の折った鶴は、魔法のようにずっと飛び続けていて壁にぶつかりそうになれば、方向転換してまた飛んでいる。

「流石魔法の国だわ。紙で作った物がまるで生きているように飛んでいる。」

面白くなって、葵は色々な折り紙の動物を作ってみた。

周りには葵が折った紙の動物たちが、歩いたり跳ねたりしている。

「面白い。これを子供達が見たら喜ぶだろうな。」

「でも、折り紙は使って仕舞えば無くなってしまう。他に何か器用にする方法は無いかな。」

お箸を使わせてみるのも良いかもしれない。

右利きの人に左手を使わせてみるのも良いかも。

色々カリキュラムを組んでみないと。ポケットには手帳が入っていたので、書き込んで行く。


不器用な魔法使い達が、葵の所にやってきた。

取り敢えず3人が選ばれてきたらしい。一人は十四歳の女の子でルメラ。もう一人は十八歳のトーマス。最後の一人はゴツイ大男で十六歳と言っているバッカス。

「私、何も知らされていなくて、貴方たちは皆魔法使いなのですよね。」

「はい、魔法学校を卒業したての新人ですが。よろしく御願いいたします。」

一番年長のトーマスが答えた。痩せ型の不健康そうな男だ。十四歳から十八歳まで年齢の開きがあるようだ。皆同じ卒業と言う事は十四歳の女の子は優秀なのでは無いだろうか。何故ここに来たのかしら。

「ルメラちゃんは、十四歳なのに皆と一緒に卒業なの?凄く優秀なのね。」

「わ、わ、私は、す、凄く人見知りで・・人前に出るのがに、苦手で・・」

ああ、そう言う人っているね。優秀でも実力が本番で出せない人。これはぶきっちょというよりは、自信を付けさせてあげなければダメなタイプだ。

十八歳はまあ、置いておいて、この十六歳は魔法使いというよりは騎士か兵士の方が合っている気がする。職場を間違えてしまったタイプ。

「では、まず皆さんにこの折り紙を渡しますので、私と同じように折って下さい。」

皆テーブルについてそれぞれ折り紙を折り始める。

十四歳の女の子はまあまあ折れているようだ。

十八歳のトーマスは、折り紙を持ったまま固まっている。

十六歳のバッカスは太い指で、必要以上の力を入れて紙が破れて仕舞っている。

バッカスはその内にイライラし始めて、

「ウオーッ!指が思うように動かない。頭の中がぐちゃぐちゃだ。こんな事出来るかぁー!」

思うように行かなくてかんしゃくを起こしてしまった。トーマスは、こんな子供だましには付き合っていられないとばかりに、そっぽを向いている。

仕方がないので、葵が折った折り鶴に空気を入れて飛ばして見せた。

「きちんと折れるようになれば、こんな風に飛ばせますよ。」

3人とも、口をあんぐりと開いて折り鶴を見ていた。

ルメラの折った鶴は、飛ばすまでにはいっていない。まだまだ細かいところが全然出来ていないからだ。

やはり、鶴は難易度が高かったか。

それからは、紙をきちんと半分に折るところから教えて行った。

帰る頃には肩が凝って仕舞ったのか、皆身体がコチンコチンになっていた。この分では先が長そうだ。


今日は旗揚げをしよう。「右あげて、左をあげて、右下げないで左下げる。」

誰も出来ない・・・。子供達でも出来るスピードでやっているのに。右と左がバラバラ。

運動神経が悪いと言うよりは身体と頭がバラバラな感じだ。頭で理解した命令が身体に旨く素早く伝達できていないようだ。これは難問だ。

「では皆さん。左手にリンゴを持って下さい。」

なんとか出来ている。おーい、ここからやらないといけないカー。大変だ。

それからは、地道に右と左を教えて行く。

彼等は、文字は読めている。不思議だ。魔法の為の古代文字が読めるのに右左が分らないとは。



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