明日は未定
午前2時。コンビニの自動ドアがかすかな機械音を立てて閉まる。
カイトはレジで買ったばかりのスティックパンと缶コーヒーを片手に、コンビニの脇にある喫煙スペースへと歩く。
風は冷たいが、街は静かで、なんとなく落ち着く。
ポケットからくたびれた煙草の箱を取り出し、1本だけを選んで火をつける。
「1日1本。これが俺の“贅沢”」
カイトはゆっくりと吐きながら、自分の影が地面に伸びているのをぼんやり見つめていた。
スマホの画面には、今日のUber配達の売り上げ。
貯金残高は、2万4570円。
明日の天気は雨。きっと稼げるけど、身体は冷えるだろうなーー
そんなことを考えながら、カイトはスティックパンをひと口かじった。
乾いた味が、妙にリアルだった。
午前2時。
街は眠っているようで、完全に眠り切れない。
パトカーの遠いサイレンが、時折その眠りをかすかにかき乱す。
俺はコンビニのレジで買ったばかりのスティックパンと缶コーヒーを片手に、店の脇にある喫煙スペースへと足を運んだ。
「1日1箱」とかじゃない。俺のルールは、「1日1本」。
どんなに辛くても、どんなに腹が減ってても、煙草だけは1日1本だけと決めている。
火をつける。
安物のライターがカチリと音を立て、先端がじんわりとオレンジに染まる。
煙を吸い込むたびに、胸の奥が熱くなる。心臓の鼓動がほんの少しだけはっきりする。
今、俺は生きてるんだーーそんな実感。
今日の売上は6,420円。Uber Eatsのアプリにはそう表示されていた。
午前11時から夜の9時まで、都内の坂道を自転車で走り回ってこの額。
交通費もなければ上司もいない。気楽だけど、身体は確実に削れている。
「ふーっ」
煙をゆっくり吐き出すと、ちょうど自動ドアが開いて、アツシが顔を出した。
アツシはこのコンビニの夜勤バイトで、出会って半年の顔なじみだ。
「また来たな、深夜組」
「おう。俺の定食セットな」
「スティックパンと缶コーヒー。しかもブラック。健康に気ぃ遣ってんのか?」
「金にだろ」
アツシは笑って「そっか」とだけ言って、コンビニに戻った。
彼は余計なことを聞かない。その距離感がちょうどいい。
この街に来て、もうすぐ一年になる。
実家を出た日、親父と大喧嘩して家を飛び出して、それっきりだ。
「こっちから連絡する気はねぇ」
そう自分に言い聞かせてるけど、本当は戻れない理由より、戻った時の気まずさの方が怖い。
車止めに腰を下ろし、スマホを確認する。
残高 34,570円。
「ギリギリだな・・・」
今月の家賃を払ったら残るのは5,000円ちょっと。
貯金というにはあまりに頼りない。
でも、何とか生きてる。何とかやれてる。
俺はスティックパンをひと口かじった。
パサついたパンが口の中の水分を奪っていく。乾いた喉を缶コーヒーで潤す。
うまくはない。でも、腹は満たされる。それでいい。
その時、目の前を走っていった1台の原付が俺の目を引いた。
後ろに黒い箱を背負ってる。ーー仲間だ。Uberの同業者。
あいつもきっと、どこかで「なんとか今日を生きてる」って思ってる。
俺は煙草の最後の1吸いを吸い切り、地面に押し付けて火を消した。
立ち上がり、缶と吸い殻をゴミ箱に放る。
さあ、帰ろう。明日も自転車を漕がないと。
とある歌から連想させて書いた作品です。
始まりだけですが気が向くまで書いてみようと思います。