待ち合わせ
三題噺もどき―よんひゃくごじゅう。
ほんの少し冷たい風が、火照った頬を優しくなでる。
「……」
数日前までの雨続きの日々が嘘のように、晴れ間が覗く。
柔らかな日差しは、夏場程の痛みはなくとも、確実に人々の体を温めている。
暑くて、汗をかいてしまう程に。
「……」
近所にある公園。
普段はもっと、子供がいたり、親がいたり、散歩のご老人が通り過ぎたりするのだけど。
今日は、ブランコは風を乗せて揺れているだけ。滑り台はその巨大な体を風に吹かせているだけ。シーソーは傾いたまま微動だにしない。
「……」
世間は大型連休というやつなので。
この辺りに住んでいる人々は総出で、出払っているのだろう。
実家に帰ってみたり、家族旅行をしてみたり、惰眠をむさぼってみたり。
「……」
個人的には、連休というもの自体、仕事をするようになってから、トンと関わりがなかったものだから、あまり実感がない。
まぁ、その前から、連休なんてものはただただ暇を持て余すだけのものであって。
世間一般のような、楽しい思い出作りなんてものはなかったから……あまり心地のいいモノではない。
「……」
しかし、そんな私も珍しく、今日は予定があって外に出ている。
公園に来たのは、ここで待ち合わせをしている体。
家で待ち合わせでもよかったが、まだそこまでの余裕がない。
「……」
閑散とした公園の隅。
そこにあるベンチに、ぼうっと座っている。
なんとなく、今日は必要なきがして、ヘッドフォンをつけてきたのだが。
いやはや。
音楽を聴くだけでなく、雑音を消してもくれるのだから、便利で良い。
「……」
どこに行くかは、詳しく聞かなかったが……。身内の家でなければ、どこでもいい。
お互い人混みは苦手なタイプなので、そうそう人の多いところにはいかないだろう。
あぁでも、子供がいるからなぁ……
と。
若干、憂鬱になり始めたあたりで。
ドンーー!!!
「うっ―」
何かが背中に突撃してきた。
襲撃にでもあったのかと思ってしまうぐらいに、すごい勢いだった。
思わず漏れたうめきが、脳内に響く。
「ったた……」
痛みに耐えながら、頭にかけていたヘッドフォンを首にかけなおす。
瞬間、ざわーと、葉擦れの音が鼓膜を叩き。
ぞわりと、何かが走った。
が。
「――!!」
すぐ後ろから聞こえた声がすべてかき消した。
突進または、襲撃してきた本人だ。
元気いっぱいに私の名前を呼び、嬉しそうにはしゃぐのは、この子しかいない。
「びっくりした?」
首だけを後ろに回し、腰のあたりを見やると。
キラキラと目を輝かせながら話す甥っ子がいた。
今日は、彼らと出かける予定があったのだ。
―大型連休初日にいいのか、といったが、何かあるのか妹が頑として譲らなかった。
「うん、びっくりした」
まだ少し痛む背中を無視して、さらりと甥っ子の頭を撫でる。
嬉しそうに私の手を受け入れてくれるその姿。
愛おしい以外のなにものでもないな。
「……?」
しかし突然。
その楽し気な表情を曇らせ、首をかしげる。
何事かと思ったら。
「けがしたの?」
そう言って、撫でた掌の先を見つめた。
あぁ、忘れていた。大したことはないのだが。
色々とやらかしてしまったので、手首に包帯を巻いていたのだ。
たいして多きものでもないが、目に入るとアレなもので……念の為と包帯をしていたのだ。
「いやいや、なんでもないよ、大丈夫」
そういいながら、甥っ子の体を持ち上げ、膝の上に乗せる。
しかし、日に日に大きくなっていくなぁ。
「ほんと?」
「ホントホント」
未だ不安げに聞く甥っ子の頭を、両手でくしゃくしゃとなでる。
きゃーといいながら、笑ってくれるのが何よりも嬉しい。
子供は笑ってくれていることが、一番だ。大人の心配なんてしなくていい。
「お姉ちゃん」
すると後ろから、また声がかかる。
くるりと振り向けば、見慣れた顔があった。
普段より少しおしゃれ目に、且つ動きやすさを重視した格好の妹だ。
先にかけてきた甥っ子を追いかけてきたんだろう。
「行こっか」
「うん!」
「あ!頭ぐしゃぐしゃにしたな!?」
お題:ヘッドフォン・包帯・襲撃