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十人委員会にて

ついに主人公が登場しました。次回から主人公の一人称で書きます。

あれから20年ほどが経ったが、V市の繁栄は陰りを見せなかった。そればかりか、ますます勢いをつけた様で、V市には新たに三つの塔が建った。さらにV共和国は植民地を拡大し、人口は700万人を突破した。まさにナーロッパの覇権国、と言える存在となった。だが、多くのものを手すると、同時に、多くの敵を持つものだ。V共和国はその覇権の座を奪おうとする野心的な国々に囲まれて、国家の安全と繁栄

を保ち続けなければならなかった。外交と国家の運命は紙一重である。という訳で国家の舵取りを担う十人委員会では、連日外交が話題に上がる。

「尊厳あるV市民の皆様!」

そう演説を始めたのは老人派の古株、フランチェスコだ。彼は長距離に対応する収納魔法を用いた商いで出世し、現在の地位を築いた革新者だ。だがそれもはるか昔のことで今では歩くのさえやっとという状態になっている。

「我々はここ数十年で様々な危機に直面しました。海賊の増加、異教徒のナーロッパ進出、黒い死神...etc。しかし、今、我々が最も注視するべきは、北方、つまり北方商業同盟です!彼らは日に日に勢力を増しています。このままでは、我々は今の地位を失うばかりか、もっとひどいことになるでしょう!」

「ところで、フランチェスコ議員、世界地図を見たことはおありですか?」

ここで、青年派の議員が異を唱える。

「彼らの商業圏はこの地中海からかなり離れた北方の海なのですが、彼らは地中海まではるばるやってくるのでしょうか?仮にそうなるとして、われらがV共和国の海軍が負けるとでも?」

「なにも船を渡ってくるわけではありませんよ、カルロ議員。奴らは陸からやってくるのです」

「陸とは!奴らは馬車に乗って、わざわざアルプスを越えてやってくるのか?」

つかさずヤジが飛ぶ。

「300年前を思い出してください。あの赤ひげの皇帝が山々を超えてやってきたではありませんか。それにもっと時代を下れば、帝国の時代、フェニキアの軍団が象を引き連れて渡ったではありませんか。今度もまた同じことがあっても不思議ではありません。そして皆さん、私がなぜ彼らを恐れるのか、その理由をお持ちいたしました」

そういうと、フランチェスコは召使を呼んで、講堂の奥から台車に乗った黒い箱を運び出した。フランチェスコが箱を開けると、中には小さな馬の形をした模型があった。その馬の模型の足には車輪が取り付けらており、背中には穴が開いていた。

「これは北方商業同盟で発明された鉄の馬車です」

フランチェスコはトーガの袖から淡く光る魔法石を2,3個取り出すと、背中の穴に入れた。すると少し間があったのち、馬の目が光りだし、胴からゴトゴトと魔法石が振動する音が鳴りだした。そして、ギコギコと歯車が回りだすと、それに伴って車輪が回りだす。そして、ついに動き出した。議員たちはそれを好奇心や恐れの混ざった目で見ていたが、やがてその熱はゆっくりと冷めていった。あまりにも遅すぎたのである。ナメクジの方が速いかもしれない。本当にそのぐらいの速度だった。皆があきれ果ててしまった。

「仮に本当に彼らが半島に攻めてくるとして、それは我々ではなくM共和国の問題かもしれませんね。」

ついに老人派の議員が話を終わらせようとした。確かにこれ以上フランチェスコが話すのは無理だった。

「それではダメなのです!我々が自分たちのことを半島人としなくとも、彼らは我々を半島人とするのです!」

しかし、議題はすでに十字国の動向に移っていた。

 パウロは疲れた目で父親の愚痴を聞いていた。夕日は落ちかけていて、町々にも明かりが灯り始めた。あたりは涼しくなって、というよりも寒くなってきていて、もっぱら吹きさらしのもうこちらは評議員として会議をおえてきたばかりである。それは彼も同じだが。よくもまあこんなにも元気に喋られるものだ、とパウロはため息をついた。委員会でのことは一応機密事項となっているのだが。

「奴らは何もわかっていない!技術などほんの少しの時間さえあれば追いついてしまう。そんなものよりもはるかに重要なのは、技術革新なのだ。そうだろう?我々V市やG市などがこれまで栄えてきたのは、即ち今までどこにもなかった技術があったからだ。アイデア料で我々は稼いでいる訳だ」

「豊かな自然と働き者の市民も重要では?」

「ウム、立地は素晴らしいな。人に関しては、まあ確かに儲けることに関しては人一倍精を出す奴らだ。しかし、儲けるということを知った人間はみなこうなる。半島の人々でなくてもな」

フランチェスコはそういうとため息をついた。

「今の我々は今の地位に胡坐をかいてのんびりとしているが、なぜそんなにものんびりとしていられるかが分からん。息子よ、代表議会はどうだったんだ?」

「最近V市で建造物の外壁がもろくなっているという問題があるでしょう。あれの原因は船が上げる水しぶきらしいので、一部の地域で交通規制をすることにしました」

「他には?」

「一番の話題がこれです。他には大したことは議論していません」

「なんと!なんて無能な奴らだ!もっと他に重要なことを話し合うべきではないか!」

その話し合うべき重要なことをあなたたちが完全に牛耳っているからだ、とパウロはそっと心の中で毒づく。

「それにしても、今日はオモチャを講堂に持ち込んできて来たらしいですね」

「お前はあれをももちゃだと思うのか!なんという息子だ」

「いえ、そう聞いただけで...」

「いいか、息子よ。あれはオモチャではなく鉄の馬車だ。いづれ馬車よりももっと速く走るようになる。」

「あなたの中では、馬車はそんなにもゆっくりと走るものなのですか?」

パウロは少しむっとして言い返した。するとフランチェスコはやれやれといった様子で首を振った。

「私が初めて収納魔法を紹介した時点では、収納できたのは雀の涙ほどの量だった。みんなこれがどういう意味を持っているのか何も知らずに、散々私を馬鹿にしたものだ。だが今では...見ての通り私は大成功した」

ここで自分語りをされては困る。本当に終わらなくなってしまう。

「それは、自分の考えが足りませんでした」

「そのとうりだな」

フランチェスコは自慢げに頷いた。

「貿易に適する土地というのは、一見よい土地と思われるが、様々な国家の利害がぶつかるところでもあるのだ。我々は常に敵を抱えている。そしてその敵は意外に近くにいるものだ...パウロよ、ここだけの話だがな...」

そういうとフランチェスコは小声でパウロに耳打ちした。

「N王国で妙な動きがあると噂だ。あの国はヒスパニアと通じ合っているというのはよく囁かれる噂だが、軍事的に動きがあるらしい。近々探りを入れようと思う」

そんな馬鹿な、と思う。確かにN王国は巨大な軍事国家だ。だが、戦争となれば半島連邦に加盟するすべての国が相手だ。勝つのはまず不可能だろう。かといって、ヒスパニアの援助も当てにはならない。あの国はついこの間のガリアとの戦争で疲弊している。そんな状態でもう一度戦争などできるはずもない。他にも指摘する点なら幾らでもあげられる。

「...私は両国の平和を願っています」

「その平和が保てないから、戦争が起きるのではないか。それにだな...」

「失礼します」

そこで、一人の男がやってきた。冷たい白い肌と青い瞳を持つ異国風の男だった。

「会話の折におきまして、お詫び申し上げます。フランチェスコ卿に伝言です」

「そうか、ご苦労。パウロよ、付き合わせて悪かったな」

「いえ、お気になさらず」

やっと終わった、とパウロはホッとした。にしても、あの男だ。多分スパイか何かだろう。しかし、委員会のものではない。そうであるならばパウロはすでに知っていた。つまりあれはフランチェスコ専用のスパイということになる。パウロはそういう人物を何人か見てきた。なんともしたたかな男だ。あの調子ではあと20年は生きるな、とパウロは思った。だとすれば、自分が委員会のポストを継ぐのはずいぶん先になりそうだ。それまでこちらが長生きできるだろうか。パウロは悩んだが、悩んでもどうしようもないことだったので、考えるのをやめた。

敬語とか敬称とか難しかったのでカンで書きました。

ゆるして。

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