第八十話
ギルド『色彩の集い』の前、他のプレイヤーが通ることはめったにないので、ここでいきなりPvPを始めても誰にも迷惑をかけることはない。
美桜こと、サイレントは突如ギルドの頼れるお姉さん?のヒビキちゃんの友人であるハルというプロゲーマーに喧嘩を売られてそれを買った。
待ち合わせ時間になっても彼は現れることがなく、見物人の他のギルドメンバーたちは暇で暇で死んでしまいそうになっていたころに元気よくやってきた。
十数分間、ヒビキちゃんの説教があった後にようやく喧嘩を始めることが出来る状態になった。
「さて、この開始ボタンを押せば5秒後にPvPの開始だ。お嬢さん、準備が出来ていないとか後で文句がないようにしてくれよ。」
「うるさい人ね。こちとらあんたが来る前に準備なんてとっくに終わらせているんだけど。」
ハルは不敵な笑みを浮かべて、人差し指で軽快に『開始』ボタンをタップする。
サイレントとハルの中間地点の上空に5の数字が浮かび上がって秒単位で1ずつ減っていき決闘の開始に近づいていく。
彼女は先日買ったばかりの小太刀をメニューのクイックアクセス逆手で持ちもう片方の手を前に構えて体勢を低くしていく。
対して対戦相手の彼もクイックアクセスでガントレットを装着してガンッと打ち付けあい音を鳴らして、握った拳を腰の位置に構える。
3,2,1とカウントダウンしていきSTARTの文字が出現したと同時に、サイレントは一気に距離を詰める新スキル『瞬動』を使用して攻撃圏内に入る。
小太刀を確殺箇所の首に目掛けて突き刺すが、慌てた顔をしたまま反射なのかガントレットを間に挟むように割り込むことで首に少し当たるだけでクリーンヒットは免れたようだ。
すかさず、腹を目掛けて膝蹴りを繰り出しさらに追撃の『スラッシュ』を使用するが、ガントレットの何かしらのパリィスキルで小太刀は弾かれて後ろに体がのけぞって浮いてしまう。
ハルは追撃のチャンスと思い両腕の盾のようにしてボクサーのように接近してくるが、浮いた状態で相手に背を向けるように体をねじって体勢を整える。
ねじった時の回転した力の流れはまだ活きているのを利用して横蹴りをガントレットに目掛けて繰り出すが武器ごと貫くことは出来ず彼は無様に転がりながら後方へ飛んで行った。
「ちっ、油断しているうちにさっさと仕留めて舎てぇ、じゃなかった。ルイスにアイテム作成について教えてもらおうと思ったのに意外と強いんだね、プロゲーマーって。」
「お褒めに預かり光栄だな。アマチュアからの奇襲なんてプロゲーマーはいくら油断していても持ち前の反射神経と頭脳で対応出来るんだよ。まぁお嬢さんにしてはちょっち強いじゃねぇか。」
「「「ブフゥウウ」」」
ハルがサイレントに対してお嬢さん呼びしたことに対して取り巻き3人が笑いをこらえることができず吹き出している。
(このPvPが終わったらルイスだけでも締め上げるようにしよう)
とサイレントはこの後の予定を変更することに決めた。
「名前ってハルだっけ?プロゲーマーってのにこだわっているみたいだけどここではあんたも私と同じただのゲーマーだってこと忘れてない?」
「ふん、俺がプロゲーマーっていうことはどこのゲーム内だって変わりは、っておい!!」
相手の返答は何も望んでいない彼女は同じように『瞬動』で距離を詰めて小太刀と足技で近距離戦闘を仕掛けていくが、さすがは自称プロゲーマーというだけあり危なげなく全てさばききっている。
だが、ガントレットというのは攻撃力だけでなく近接での防御力が高いことが強みで、剣や槍と違いリーチがないのがデメリットであるが近づきさえすれば解決する。
「このプロゲーマー様を舐めるなよっと。スキル『アーマークラッシュ』」
ハルはパリィスキルでサイレントの体勢を少し崩すと、一歩分足を後ろに引くと急激に光を収集した拳を振りかぶった。
彼とのステータスの差があるのでスキルによる攻撃を受けても大きなダメージにはならないと思い攻撃をわざと受けてカウンターを決めようと考えるが、彼女は何か嫌な感じがして思わず避ける動作に移る。
ガントレットが脇腹をかすめると装備の一部がポリゴン化して消えていった。
「あっぶな!スキル名叫ぶとかアホかはったりかと思ったらまんまじゃんか。しかもご丁寧に装備を破壊する効果まで持ってるし。」
「口調が変わってきているなって思ったから戦闘になると好戦的になって周りが見えなくなるやつかと思ったけど意外と頭が回るんだな。」
ハルは相手の体力が削れたことで好機だと思ったのか同じようにガントレットを盾にして接近してくる。
いつものサイレントなら思わぬ攻撃をもらったら短気な性格通りすぐさま防御を捨てて特攻を仕掛けに行くところを耐え抜き、冷静に考えを始めた。
(相手はこういったゲームでの対人戦は私よりも上。やっぱり奇策とかで不意を衝く必要がある。私が持っている切り札はスキルとこの目。なんでか知らないけどリアルで動体視力がいいって言われて気が付いたのが、このゲーム内でリアルと同じぐらい動いているものが見えるのよね。)
ハルは自身の有効範囲になると先程とは別のスキルを使用してガントレットに炎を纏わせて殴りかかってくる。
サイレントはスリップダメージという言葉は知らないのだが、炎に直接触ると熱いだろうなという想像で小太刀で受けつつ極力避けるようにしていく。
彼女は今知らないが『炎熱付与』という打撃系の武器のスキルで、魔力を消費して武器自体に炎を纏わせる能力で厚めの防具、もしくは剣などの武器以外で攻撃を受けてしまうと炎によりスリップダメージが入ってしまう。ダメージ量としては多くはないのだが、PvPなど体力の割合で勝敗が決してしまう戦いでは重宝されるスキルになる。
だが、そのスキルを使った攻撃を全てさばききることは出来るわけがなく、小太刀を持つ彼女の手を彼の手の甲で押し上げるような動作でほんの少し武器を上へと弾かれてしまい腹が無防備となる。
『焔一閃』
『体術・瞬閃』
ハルはガントレットに纏った炎と共に前へ一歩前進しつつ拳を腹に目掛けて繰り出す。
サイレントは攻撃を絶対にもらうことが確実であることを理解するとすぐさまジョブ『忍者』を習得時に『体術』と移動スキル『瞬動』の合わせスキルの蹴り技でカウンターを決める。
お互いにお互いの攻撃で吹き飛ばされると同時にサイレントは腰に装着していたクナイを投げ飛ばした。スキルによる補助で手先がそこまで器用ではなくても敵に向かって投擲が可能な弱い、けん制攻撃。
頭と足の2か所に絞った投擲で頭にくるものだけ見えたのだろうかガントレットで完璧に防いだが足にはしっかりと当たっている。
「足元お留守だよ。それ毒がついているから当たっちゃダメなのに。」
「へっ、それまでにお前を倒し切ればいいだけだろうって。」
「私としては時間稼ぎが出来れば勝ち確なんだけどそれわかってます?というか、残りの体力からして10秒あるかないかぐらいなんだけどね。」
サイレントが挑発を仕掛けるとまんまと乗ったわけではないが、再度まっすぐに突っ込んできた。
さっさと決めようと何か隠し玉でも持っていてここで使う気だろう。何をするのかまでは彼女はわかっていないが、彼の動きから目を離さないように集中を始める。
そして、あと3歩ほどで攻撃圏内に入るようなところで、ハルのガントレットから炎が瞬時に消え去ったと同時に彼の足元で爆発し瞬時に詰めてきた。
『飛焔翔』
突如の加速によって生まれた速度から放たれるのはこのPvPの対戦中で一番の火力となったはずのもの。
『爆穿突』
ステータスの差があれど十分に加速された拳から放たれる一撃は避けることはかなわなかったはず。
だが、サイレントの目は追い込まれることで更に強化されるめんどくさい代物だった。
『リベンジ・カウンター』
最大HPの4割をきることで発動することが出来るスキル。4割を切っている条件かつ、相手の攻撃スキルに対して発動が出来る。また、発動は1日に1回のみであり失敗すれば全ステータスが2割ダウンしてしまうデメリット。威力は敵の攻撃スキルの威力2倍かつ自身の攻撃力を加算したものである。
腕の手甲で敵の攻撃をスキル補助込みで力の流れを変えつつ力を吸収、そして小太刀を相手の急所に目掛けて力のままに振るう。
「切り札はいくつも用意するもんじゃなくて、いかに組み合わせて使うものなんだよね。それが今回私の方が上だったてことで。勝利!」
ハルの体は爆散していき頭上には『サイレント Win!!』と表示される。
サイレントが持っていた小太刀はビキビキと亀裂が走り砕け散った。
「さて、ハルはこっちに戻ってくるとは思うけど私たちのリーダーが勝利ってことでギルドに戻りましょう。」
ヒビキちゃんは手をパンッパンッと叩いて促してくるが、彼らには忘れていたことが一つ残っている。
「ルイス、ヒビキちゃん、ソフィアちゃん。さっきクソゲーマーとの戦いの会話で何か笑っていませんでしたっけ?」
「何のことですぞ?」
「私は笑ってないわよ。」
「な、なんのことですか?あんな真剣な勝負を笑う人なんていませんよ。」
3人とも自分ではないと主張はしているものの、各自特徴のある声であるので聞き間違えるわけがない。
このまま3人をPKしてやりたい気持ちはある彼女だがそれではただの人殺しと同じになってしまうので、この場は思いとどまってどこかで絶対にやり返してやろうと心に誓う。




