第七十二話
「うちのリーダー様はなんでこんなに落ち込んでいるのでしょうか?イベント終了後の落ち込みを引きずっているわけではないとは思いますが。」
「私も知らないわ。けど、いつもの装備じゃなくて初期装備を着ているのはおかしいわね。装備の修復中?にしては元気がないのは不自然よね。」
ソフィアとヒビキはログインして降り立った新品のギルドホームのロビーのベンチで魂が抜け落ちたかのような無気力な美桜ことサイレントがいた。
声をかけても「あぁ」と一言だけでその他の返答がなく不気味であった。
「おいっす!ギルドホームからスタート出来るなんてなんだか他プレイヤーより優雅な始まりですぞ?なんか適当に置いたベンチに漆黒の塊が鎮座しておりますぞ!」
ルイスを一瞥していつもの罵倒や鉄拳制裁もすることなく興味なさそうに漆黒の目(仮面をしているので周りからは見えないが)はさらに闇へと落ちていく。
それは周囲の光すら落としているかのような。
「ルイスさんが来てより一層近づけないような状態になりました。サイレント状態ですね。」
「それ、上手くはないわよ。」
「冷静に否定をしてくてもよいのではないでしょうか。」
2人をよそにこの状況を面白くないと思ったルイスは命知らずの行動で、サイレントに近づいて何やら質問をしている。
「え?会話が成立するユニークモンスターにフルボッコにされて装備を破壊されたのですぞ?それで残ったのが仮面だけで仕方なく初期装備を着ていると。」
「なるほど、自信にあふれていたサイレントちゃんがコテンパンに負けて落ち込んでいる状態ってことなのね。これはどうしようかしら。」
ヒビキちゃんはメニュー画面を開いて時間を確認して悩み始めている。
それをよそにサイレントはゆっくりと立ち上がってぽつぽつと玄関へと向かって歩いていった。
「ちょっと出てくる。」
みんな何も言わずに手を振って見送る。
「さて、私は友人がこのゲームを始めたらしいから迎えに行ってくるわ。サイレントちゃんも時間が経てば元に戻るでしょ。あの子は戦闘狂だし。」
「あ、はいわかりました。当面はギルドとしての活動はない予定ですし私も出かけてきますね。まだ解放出来ていない町がありますので解放してきます。」
「なら、拙者はイベントで消費したアイテムを作成するために素材の採取でも行きますぞ。」
サイレントが完全に出てから各々の予定を伝えてみなギルドから出ていく。
たった4人しかいないギルドではあるが、誰もいなくなると閑散として少なかろうと人がいるのいないのでは大きく違うことを誰も知りはしない。
また、これから新たなイベントと仲間に出会うことは誰も知らない。
「はぁ、せっかくの新調した武器もあの化け狐に完全に壊されてしまうし。装備もずたずたで直そうにも武器を整えるだけでこっちに回すことは出来ない。」
初期装備もところどころ破損しているところがあってこのままフィールドに出て戦うのも少し危ない気がするし、お金を稼ぐのにもいい狩場に行くにしては流石にステータス的に厳しくなってしまう。
「防具は一切攻撃を受けなければなんとか、、、なるわけないじゃん!全ての攻撃を見切ってとか昔の知り合いでそれに近いことが出来る人はいたけどそれでもゲームだったらHPが一発で消し飛んじゃうじゃん!」
サイレントは路地裏に入ってこれからどう資金作りをしようか悩んでいい案が浮かばず頭を抱えていた。表通りでそのような行動をしていると変な人と思われたくないということでここにいるが、独特な仮面しかもユニーク装備を付けているプレイヤーは既に変な人である。
重ねて既にファンクラブが立ち上がっておりNPCが創立しておりほんの一握り存在している。
「なら誰かにお金を借りて装備を整える?でも、私の性分的には金の貸し借りは嫌いだからいやだし。ならある程度強いところから道なりに強くて金稼ぎのいいところに行くしかないか。」
メニュー画面を操作して今のレベル的には劣る武器を装備してどこのフィールドに向かうのかを考えようとした彼女にがに股でドスドスと男が近寄ってくる。
「おい、そこの姉ちゃん。こんな路地裏に女一人だけだと俺みたいな危ない輩に絡まれちまうぜ。へっへへ。」
頬のあたりを真っ赤に染めて足元がおぼつかないのが常にぶるぶると震えていて、酒の匂いが路地裏という狭さも相まってサイレントも匂いに顔をしかめてしまう。
「俺様は賭けで負けて不機嫌なんだよ。だから、慰めてくれるか有り金をおいて行ってくれないかぁ?」
酔っ払いは両手を前に出しながら握っては閉じてを繰り返して気持ち悪い行動をする。
ただ、これはプレイヤーではなくNPCであることをサイレントがわかり遠慮することなく武器を使わずにフルボッコに殴り飛ばすと
「な、なんてやろうだ。女かと思ったら中身はオークじゃねぇか!きょ、今日はここら辺で引いてやるよ。」
テンプレの捨て台詞を吐き、何度も転びながら逃げていくのを眺めていると男の尻ポケットから紙切れのようなものがひらりと落ちた。
それを拾ってみると『新大陸行きの船の完成間近!乗船者を募集か?』という新聞の見出しのようなものだった。
アップデート後から新大陸という新しい冒険の舞台が解放されるとのことだが、一向にその話がないと思っているプレイヤーは多くいる。
そこにNPCも新大陸の情報を集めているという設定があるということはそろそろ何かしらイベントが始まるのではないかという知らせなのかもしれないと彼女はそう思った。
他の作品のURL
・Dear Labyrinth_親愛なる迷宮_漆黒の影と神の使徒
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・少女は魔法を夢見る
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