第六十六話
「どのぐらい時間が経ったのでしょうか?あのボスモンスター達、私たちを中々自分の元へと誘導をしようとしてませんよ。それなのにこちらをじっくりと見つめてきていてなんだか気持ちが悪いです。」
「そうね。聞いていた話にはない行動のようね。様子を見てこっちの手の内を明かしたいんじゃないのかな?」
戦闘を開始してからしばらく経っているのだが、夫婦のボスモンスターに選ばれることがなくそのまま取り巻きのモンスター達と戯れていた。
私たちが選ばれない間、他のプレイヤーやNPCが選ばれているということもなく妙な状況が続いていた。
「やっぱりさっきの前口上がまずかったのか。あいつらが自分たちの目の前に連れてくるのは戦うことが趣味なのかと思っていたけど違ったかな。」
「それならなんで目の前に連れていくことをしているの?」
「いたぶるためだったんじゃないか?知らないけどね。」
「さっき私を利用して聖女に見立てようとしたことは無意味だったということですか?」
「そうみたい、ごめん。」
「思い出すだけで恥ずかしいっていうのに意味がなかったとなればもっと。。。」と顔を赤らめて俯いてしまうが、取り巻きとの戦いはしっかりとしている。
夫婦のモンスターの性質を読み間違えてしまったのかと思った。
よくよく観察してみると恐怖でも、嫌悪でもなくむしろ興奮している。鼻の穴がふがふがと伸縮させて今度は何を見せてくれるのかと期待のまなざしを向けられているようだ。
取り巻きも最初の時よりもじわじわと増えてきているようでやっぱり勘違いしていたようだ。
「仕方がない、このまま戦い続けても消耗するだけだし。いい感じに取り巻きが増えているのならまたこのスキルを使えるな。」
取り巻きは前衛で戦っている私の方に密集をしているので剣を正面にいる奴に向けて『グローイング・スラッシュ』を発動させる。
斬りつけを失敗すればスキルはキャンセルされる。失敗とは何を指すのかは検証は出来ていないが盾もない取り巻きなら空振りかモーションを止めない限り大丈夫だろう。
一匹目は何度か斬りつけることで倒すことが出来て何匹か倒しているうちに斬りつける回数が徐々に減っていき威力がかなり向上しているのがわかる。
敵も私の行動を止めないと一方的に蹂躙されると思ったのだろう夫婦の一匹が咆哮を上げると取り巻きたちは波状攻撃をしかけてきた。
私自身、戦闘を続けていくうちに沼の底に沈むように集中力が高まっていく。
右横から攻撃を仕掛けてきた爪による切り裂きを体をのけぞらして躱すと後ろからも攻撃を仕掛けているのを確認してバク転をしながら斬りつける。
思う通り体が動いて楽しい。リアルではこうはいかないでしょ。
そんな感じで躱しては斬りつけるを繰り返していると、一か所だけ奇妙な隙間が出来ているのを漠然と視界に入った。そして、なぜか危機を感じ取れた。
自然と盾を持った腕を前に構えると暗い影が一瞬で迫ってきたと思ったときには強い衝撃が伝わって後ろに飛ばされた。
起き上がると目の前には夫婦の一匹が生意気な顔をしてそびえたっていた。頭にはちょびんととさかのようなものを生やしていて濃い青色の肌をしている。こいつがオスなのか?
そして、「きゃっ」という可愛らしい声と同時にソフィアちゃんも転がるように横にお尻を天に突き出す形で出現した。男の子なら喜びそうな構図だろう。
どすっと重たい足音でもう一匹より長いとさかを生やしていて薄い紫色、さつまいものような肌をしていてまつ毛がくるっとしている恐竜がいた。こちらはメスなのだろう。
「う、よし!完璧な読み通り!流石私!」
「嘘ですよ!さっき謝罪までして間違ったんじゃないかって困っていたじゃないですか!?」
ソフィアちゃんもノリがよくなったってことよ。いい傾向だね。
それよりも、さっきの攻撃?のようなのを盾で守ったことで中央らへんにモザイクがかかったかのようなデザインへと変わってしまった。そろそろ耐久値がなくなるのではないだろうか?
このゲームでは耐久値を完全な0となった装備・アイテムについては『破壊』という扱いになる。
これは装備・アイテムによるが修復できないものが発生したり、修復するのにも特別なアイテムが必要となる場合や鍛冶師などの職人に頼んでも特別料金というバカ高いお金も必要となる。
今の私は破壊した装備を直すようなお金があったとしてもすべてギルドホームの購入資金に使うことになるので実質ないという状態だ。
仕方がないとは思うのだがメニュー画面を操作して盾を装備から外してしまっておく。盾がない分だけ速度も上がるのだが、今使っている剣は盾とセットで使うことになれたものなのでこちらもしまって別の武器を取り出す。
カインに職業の忍者を取得した際に頼んでおいた武器をついに使う時がきた。
『慈悲の短刀』・・・この短刀は東洋の犯罪者を断罪する際に用いられたといわれている。
短刀は小回りが利いていて一撃の攻撃力は小さい獲物の中では一番といわれているらしい(カイン情報より)
ソフィアちゃんが新装備をお披露目したのならこちらも刀を魅せようとは思ったがちょうどいい場面なのでよかった。
忍者として相性もいいしどこかで実践の機会があればいいなと思っていたのでよかった。
夫婦はリズムよく足踏みをし始めると取り巻きたちも輪唱するかのように足踏みでリズムを刻み始めた。これはボスモンスターと戦う前のBGMなのだろうか?
今のうちに先ほど突き飛ばされて負ったダメージを回復させておかないといけないので、メニュー画面から回復薬を取り出して飲み干す。野菜ジュースのような味で苦手でもない限りは飲みやすい。
こういったファンタジー系の小説では回復薬となるものは苦くて必要時以外には飲みたくないものという良薬は口に苦しというイメージがある。
ソフィアちゃんも私を見てから慌てて回復薬を飲み干して体力を全快させて、さらに魔法薬という魔力を回復させるものも飲み干して準備を整える。
これを邪魔してこないボスモンスターを見る限り戦闘を純粋に楽しみたいのと自分たちの強さに自信があるようで舐められているようだ。
だが、人外としては知性があるということだが、高性能なAIを搭載しているのなら当然なのかもしれないけど。
夫婦の一匹の”青”は私の前に踊り出て、”紫”はソフィアちゃんの前に。
最初は一対一をお望みらしい。




