第五十二話
金属の胸当てはいくつも金属同士で擦れ合ったような斬りつけた跡、出会った時には両肘につけていた肘当ても右側には着けられていなかった。宙ぶらりんになっている紐を見るとモンスターからの攻撃によって耐久値が減ってダンジョン内で取れたのだろう。
「あら、ダンジョンに入る前に合った男。結構ひどい目に合ったんだね。」
男の姿を見てぽつりとこぼした言葉が聞こえたのか、こちらを見てきた。
「なんだ、あんたか。俺のこの無様に負け帰ってきた姿を見られるなんて、かっこつけた割にざまーねぇだろ。笑えよ。」
「そんな姿笑うよりお仲間はどうしたの?みんなモンスターにやられちゃったの?」
最初に出会った時には後ろの方に何人かいたのだが、今は誰一人としていない。こんなにボロボロになったのに男一人だけ無事であるということは逃げてきたということなのだろう。
だけど、男の雰囲気はそうではないということが伝わってくる。
「違う。俺はギルドのメンバーと野良のプレイヤーと一緒に挑んでいたんだ。けど、野良のやつらが、、、だった。」
「何?よく聞こえなかったけど。」
「あいつらはプレイヤーキラーだったんだ。俺の仲間のヒーラーを真っ先に殺して、次にタンクを状態異常で。かなり強くて俺は逃げるだけで精いっぱいだった。」
プレイヤーキラー。ゲーム内で他のプレイヤーを殺すことを目的にプレイしている人達のことで、他のプレイヤーを殺すことで所有アイテムとお金の何割かをランダムに入手することが出来る。
ギルドで共有しているアイテムは対象外であるので奪われることはないが、ダンジョンに挑むなら消耗品や、武器などはしっかりとしているのでそれを目当てに狙われるとヒビキちゃんから聞いたことがある。
「なるほど、それは災難だったね。でも、プレイヤーキラーってこいつ殺人鬼ですよってアイコンが出るけどその人達は出ていなかったの?」
「ああ、出ていなかった。恐らくキラーである期間が過ぎたらまたプレイヤーをキルして回っているのだろう。このゲームに明確にプレイヤーキルをしたらしばらくプレイヤーキルをせずに解消されるまで辺境にでもいるのだろう。」
男は悔しそうに舌打ちをして足踏みをする。
「せっかく次のギルドが対象のイベントに向けて素材を集めていたのにな。やり直しだ、あんたも見たところギルドに所属していないソロだろうしやつらに気をつけろよ。」
そういうと男は出会った時とはま反対に縮こまった背中で去っていった。頭が残念で嫌なやつだと思ってはいたけど真っ当にプレイしていて、キラー達に色々と略奪された姿を見ると可哀想だと流石に思う。
「プレイヤーキラーがこのダンジョンにさっきまで挑んでいたということは、まだ周辺にいるってことだよね。私ならそのまま潜伏せずに今日はいろんなプレイヤーを狙うと思うな。ダンジョンの野良に混じるのは今は無理なら奇襲か。」
私みたいなソロプレイヤーは彼らの格好のいい的でしかないから気を付けないといけないし、これから消費アイテムを補充するために街に戻らないといけないからね。
そう思いながら、最寄りの第三の街に戻っていくが、例の人達の話をしたからだろうか突然狙われた。
第三の街までの道は砂丘であることから隠れるようなところはほとんどないが、こちらを狙ってきたプレイヤーは砂丘に紛れることが出来るデザート迷彩を施されたローブを羽織っていて背後の高い場所から弓でこちらを狙ってきた。
一応警戒をして移動していて、周囲の警戒と酔っ払いのようにフラフラと歩いていたため偶然矢を回避することが出来た。
観察眼ですぐさま相手を視認するとプレイヤーネームの横にドクロマークがついていてモンスターではなくプレイヤーキラーであることを確認。
すると左右から同じく迷彩のローブを着用したプレイヤーキラーが襲い掛かってきた。
2人ともシミターを装備していて顔などを隠すために覆面を目元まで着けている。
このまま待ち構えていても2人同時に相手をしなくてはいけないので、とりあえず右側のキラーの顔に向かって投擲武器を投げつけ走り出す。
シミターでしっかりとガードはするものの死角が出来る、そこに潜り込み邪魔な武器を持った腕を『スラッシュ』で斬り飛ばす。
斬り飛ばされた腕があった位置から得物が急に現れて驚いているが、確認する暇はないので顎にめがけてほんの少しジャンプするようにアッパーを喰らわせる。それだけで削りきれるほど甘くはないのでアッパーで少し捻った体を使って頭目掛けてフックを命中させる。
それで一人は爆散していく。
後は遠距離1人と近距離1人だけであり、それほど苦戦することもなく1人仕留めていく。
ストリートファイターしたことがある私を舐めるなよってこと。
遠距離のキラーは仲間がやられて一人になったためか迷彩を活かして逃げていくが、私のスキルからは逃げることが出来なかった。
それは『観察眼』。今まで遠くを見るだけのものだと思っていたのだが、一度視認したものをターゲットし続けることが出来る効果も持っていたらしく、砂丘を活かした見事なステルスをしていていてもこの能力でどこにいるのかが瞬時にわかる。
「なるほど、スキルって説明文だけ読んでも本当の効果がわからないのか。勉強になったけど、あんたも勉強になったよな。プレイヤーキラーするなら相手を選ぶ必要があるってことを。」
「か、勘弁してくれよマスクの姉ちゃん。殺されたら今日集めてきたアイテムがパーになっちまう。な、助けてくれたら3割、いや5割の半分やるからさ。」
弓使いはプレイヤーキラーとしての心構えが一切なっていない。さらには三下の発言をする始末で目も当てられない。
「うーん、なんか勘違いしていないかな?プレイヤーキラーってのは真っ当なプレイヤーからアイテムを奪う盗賊や山賊みたいな連中でしょ。マナー違反じゃないの?」
「な、なにを言っているんだよ。マナー違反になるなら運営がプレイヤーキル出来ないようにするだろう。それがないってことはそれが許されているってことだ。」
「そうね、運営はみんなが頑張ってダンジョンやモンスターに挑んで手に入れたアイテムを奪うなんて卑劣な行為を許しているなら仕方ないことだね。」
「だ、だろ。」
「つまりは、これから私がお前にどんな拷問をしようとも許されるのだろうな。足を切り刻んでいき、目玉をほじくり、HPが少なくなれば死なないようにポーションで回復させていくのを繰り返しても。」
「何を言っているだよ。頭イカれているのか?俺たちはただプレイヤーからアイテムを奪っているだけだろ。」
男はこれから現実では体験することが出来ないようなことを体験するという想像をして体を震わせている。
「因果応報。お前たちは人が努力したことを奪っていく卑怯な連中だ。人に酷い目に合わせるなら自分たちも酷い目に合うことぐらい覚悟しているのが普通だ。いくらゲームの中でもそうなると理解しているのだろう?あぁ、その顔を見る限り覚悟していなかったのか。そういった手合とは何度も出会った来たが理解させるにはやっぱり体に覚えてもらうしかないか。さぁ選べよ、目か?足先か?指か?さっさとしないとこっちが選ぶぞ。」
男は何を相手にしてしまったのかようやく気が付いたかのような反応をして、覆面越しにでもわかるぐらい顔から血の気が引いて真っ青になっていく。
こちらは脅すように剣の腹部分で足や手を軽くたたいていき催促をしているようにしてみる。
すると、男の体は小刻みに震えだしていき、黒目がぎゅるりと上に昇っていき白目となり泡を吹きながら倒れていった。
『プレイヤーとの通信が途切れたため強制ログアウトしました。』
「あれ?言葉を選ばずに適当に脅してみたら気絶しちゃったか。やり過ぎたかな?」
あんなやつを見ると昔のことを思い出して一瞬だけ過去の私に戻りそうになったけど、本当にちょっとだけ脅しただけで泡を吹くなんて。
男が気絶したことよりも気になるのは、ゲームの世界でも泡を吹いて気絶するなど色々とリアルに近いようなことが再現されている。
今のゲームはここまで進化しているのだなって浅い知識しか持っていないからかより感動する。
「おっと、ここで考え事している暇なんてない。早く第三の街で買い物してまたダンジョンに潜らないといけないのに。」
『破壊の女神』『恐怖の大魔王』などなど過去に色々なあだ名をつけられたことがあるそうだけど、本人に聞かれたら大変なことになるので、美桜は知らないようです。
作者としては、こんな狂暴そうな女性にするつもりはありませんでしたが、そもそも狂暴なの?と思っています。
ちなみに職業の忍者のスキルとして『体術』とあり拳や蹴りなどの威力が微増する効果があります。本人は知りませんが。
他の作品のURL
・Dear Labyrinth_親愛なる迷宮_漆黒の影と神の使徒
https://ncode.syosetu.com/n8193fh/
・少女は魔法を夢見る
https://ncode.syosetu.com/n9741iq/




