第五話
私の目の前には綺麗な赤髪の長髪で服装が黒いローブを着た女性と、緑色のバンダナをして短髪で長身の男性が腕を組んでこちらを睨んできている。
今はどうにか弁明をしてこの状況をどうにかするしかない。
「ええと、ですね。第二の街までの道でかなり強いモンスターと出逢いまして、、、」
「それはもう聞いた。で、何か言うことはないの?」
「ええと、その、すみませんでした。」
目の前にいる怖い2人組が私をこのゲームに誘ってくれた人であり、女性の方がフレイヤ、男性の方がヴァンとギリシャ神話のまとめサイトで見てつけたような名前の人たちだ。
「わかったわ、そもそもゲーム初心者の、、ええと今はサイレントね。初めての子に当日に第二の街まで来させるのが間違っていたわ。」
「言い出しっぺのフレイヤが今回は悪いな。携帯ゲームならともかく、現実とは大きく違ってくるフルダイブなんだからさ。」
2人とも恐ろしい雰囲気を出していたのだが、自分たちにも非があることを理解してくれたようで落ち着いてくれた。
彼女フレイヤとは中学生の頃からの友人であり今日まで親交がある。ちょっとしたトラブルがあってからは親友になった。気が強く、周りからも頼られる姉御肌のような人。
彼女の隣にいる男ヴァンは高校からの付き合いでありこっちはヴァンの方から絡まれて、打ちのめしてあげたら何故か仲良くなった。表はかっこいい人だと通っているのだが、裏はオンラインゲームにがっつりとはまっているオタク。
そんな、性格がかなり違っている人達だけど、高校では3年間同じクラスとなり仲がよかった。
「ヴァン、あなたも私の意見に賛同した時点で共犯者よ。自分だけ責任から逃れようとしないでよね。」
「へいへい、それよりもサイレントって名前が言いづらいな。略してサインでいいか。ここまでの道のりで強いモンスターなんて出ないと思うけどな。どんな奴だったんだ?」
「人がせっかく決めた名前を初日から略さないで欲しいのだけど。」
「で、どうだったんだ。俺は序盤で強いモンスターなんて聞いて事がないから気になるんだよ。」
ヴァンは目を輝かせながらこちらもジーッと見つめてくる。オタクの顔にもなっているし。
「ええとね、多分2人とも知っているようなやつなんだけどね、肌の色が少し薄めの緑色をしていて身長も胸の辺りまでしかないゴブリン。肉切り包丁と木の板で作っていた盾を持っていて、機敏に動いて武器を光らせて襲ってきたよ。」
「「、、、、。」」
私の話を聞くと2人とも黙り込んだ。
もしかして、あの敵は序盤のスライム?のような誰でも簡単に倒せるようなモンスターだったのだろうか?そうであるなら、あんな簡単な敵にも勝てないとはと驚いているのだろうか。
(おい、ちょっと聞く限りだけでモンスターがわかったぞ。ゴブリンソルジャーの強化種だ。)
(知っているわよ。序盤の終わりぐらいから出てくるゴブリンの中に50%の確率で混ざっているゴブリンの2倍強い上位種よ。)
(しかも、肉切り包丁を持っているようなやつはその強化種でさらに倍強いって話だ。レアモンスターだよ。始めたばかりのプレイヤーのステータスで勝てるわけない。)
(それに何回も出会っていたらそりゃここに辿り着くのに時間がかかってしまうのも仕方ないわ。)
「どうしたの?2人とも?何かおかしなことを私言った?」
「いやいや、変なことは何も言っていないぞ。大変だったんだなって思っただけだ。」
「そうよ、強いモンスターに負かされてもここまでよく辿り着いたわねって話をしていたの?」
「へ?私そのモンスター倒したよ。負けるたびに武器を入れ替えてようやく手になじむのになった時に一撃ももらわずに倒したんだ。」
2人は目を点に口を大きく開けて固まったと思ったら急に接近をしてきた。
「倒したって本当かよ。何かそのモンスター落としていなかったか?」
「そいつが使っていた武器とか何かなかったの?」
「ええと、このアイテム欄から見ればいいのかな。」
・ゴブリンソルジャーの肉切り包丁
ゴブリンが得物を仕留めた際に使用される包丁。その包丁を使用することが出来るのは戦士長以上の強さを持ったものだけ。そのままでは使用できないため鍛冶屋で調整をしてもらう必要がある。
・ゴブリンソルジャーの角
ゴブリンソルジャーの頭についている角。薬の原料ともなり重宝される。
・ゴブリンソルジャーの腰巻
ゴブリンソルジャーが身に着けているもの。ソルジャーの証であり、人間用に調整をして装備をすると身のこなしが向上すると言われている。
「この3つだよ。今すぐに使えるものはもらえなかった、よ。どうしたの目が怖いよ。」
「いや、なんでもないよ。」
(サインってリアルだけじゃなくてフルダイブでもかなり強いのでは?)
(のでは?じゃなくて実際にあいつを倒せている時点で強いのは確定よ。私たち簡単に追い抜かされてしまうわ。)
また、2人がこそこそと会話をしている。数年前から気が付いていたけどフレイヤはヴァンのことに気があるようで、私の前で彼のことで愚痴をよく言って一緒にいるとストレスが溜まるって言っていたが、二人っきりの時は喧嘩しながらでも仲がいいんだよね。
2人の会話をしているのを見ていると仲睦まじくて落ち着くんだよね。
「ってどうしたのよ、その口は。リアルでもたまにその口になっているわね。」
「ううん、なんでもないよ。それで今日はこれからどこに行くの?」
今日の目的はパーティを組んで何かすると言われていたので気になっている。
「そうだったわね。ヴァン、今日はサイレントもいるから簡単なダンジョンに行こうか。」
「ここから行ける簡単なダンジョンなら、新緑なんじゃないかな。一番最初に訪れるダンジョンとしてはいいところだと思うよ。」
「最初はモンスターのドロップアイテムを売って金策にもいいよね。」
道中で聞いた話だと、新緑のダンジョンは初めてのプレイヤーがパーティーを組んで攻略するのにうってつけらしい。モンスターもそれほど強くもなく数も多くはなく戦闘訓練と金策にいいらしい。
出現するモンスターは、動きが遅い植物系だったり、昆虫系のモンスターが多くいるらしい。
「それならまずはパーティ申請をしないといけないね。サイン、参加ボタンを押してよ。」
『ヴァンからパーティー申請がきました。参加しますか?』という画面が出てきたのでOKボタンを押すと、視界の端で自分のHPバーだけじゃなくて2人のHPバーと名前が表示された。
「それじゃあ、早速ダンジョンに行こう!この街から西の平原の岩場にあるよ。」
ヴァンはそう言うと歩き始めた。
私はまだこの街に来たばかりでお店などを物色したりしたいのだけど、そんなことを知ったこっちゃないという彼はもう既にテンションになっている。
こうなった彼を止めることはかなり大変であるので、もう行くしかない。
「ごめんね、サイレント。アイテムの補充とか、散策とかしたかったと思うけど。」
「あいつはいつもあんな感じだし仕方ないよ。それに私も早く2人と一緒にゲームを楽しみたいからさ。」
正直にいって2人とゲームをすることを約束した日から楽しみにしていた。
高校などの休み時間とかに、2人はゲームの話をして楽しそうにしているのを見るだけでよかったと思っていた。けど、高校卒業が近くなるとその会話を眺めているだけの自分に少し寂しく思えてきた。
そんなときに、オンラインゲームに誘われて今しかないと思ったので参加してみてよかったと思えた。
「ようやくオンラインゲームをプレイするんだね。楽しみ。」
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・少女は魔法を夢見る
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