第四話
ゴブリンは肉切り包丁を最初に交戦をした時と同じように頭を狙って振り下ろしてくる。それを横に軽く横に飛んで躱す。
「その動きは見たよ。今度はこっちからいくよ。」
ゴブリンに目掛けて剣で横なぎの攻撃を繰り出してみると、ゴブリンは木の板の盾を構えて防御した。しかし、攻撃の直後に反撃をもらったので体勢がよくないのでバランスを崩す。
「チャンス!」
すかさず接近をして剣を振るうが飛び退かれて空振りしてしまう。せっかくの攻撃をするチャンスを逃すわけにはいかないのでもう一度接近をする。
ゴブリンはその接近に合わせて肉切り包丁を構える。
「何回もチャンスの時にタイミングを合わせられてその光る包丁で大きなダメージをもらうんだよな。」
ゴブリンは包丁を構えて攻撃をした時にうっすらと光を纏った攻撃をしてくる。この時は攻撃の速度が少し速くなって防御のタイミングがずれて胴体を思いっきり斬られてしまった。
今度はそうはいかないので、盾を少し斜めに構えてその攻撃を正面から受け止めずにそらすようにする。
「正面から受け止めることが出来る攻撃だけど、そらしてあげることで大きな隙を作ることが出来る。」
ゴブリンの体格に似合わない威力の攻撃であるので空振りや威力を殺されずにそらされてしまうと、接近している敵に攻撃されるチャンスが出来る。
ゴブリンは防御ではなく攻撃を逸らされるとは思っていなかったのか驚いた顔をしている。
「ゴブリン、モンスターNPCなのにこんなに表情が豊かななのはすごい技術だね。さよなら。」
盾で顎をかち上げるかのように下から叩きつけてゴブリンの体を浮かせて、剣で首を掻き切る。
ゴブリンは地面に落ちると爆散するかのように弾け飛び包丁や角の一部を落として消えていった。
「やった!初勝利!ゴブリンを倒すだけに2時間もかかってしまったのは才能ないのかな。まあいいか。」
両手を上げて喜ぶけど、始まりの街のすぐそばの敵を倒すだけで時間をかけすぎなのは、フルダイブゲームをする才能がないのかもしれない。そう思うと少し落ち込んでしまう。
『レベルが上がりました。ステータスポイントを獲得、スキルを獲得しました。』
目の前に画面が表示をされた。
レベルについては敵を倒していくと上がっていくものだとは知っているがステータスポイントやスキルについては知らない。何が出来るのかはこのゲームに誘ってくれた友人達に聞いてみることにしようかな。
「さてと、今は何時なのかな。約束の場所に辿り着くために早めにログインをしたけど、、、あれ?もう18時45分なの。あと15分で約束の時間じゃん。ここから第二の街まで15分で辿り着けるの?急がないと。」
このゲームに誘ってくれた友人達とパーティーを組んで一緒にプレイをする約束を19時からしているのだが、未だに約束の場所に辿り着いてもなく道中の敵を倒すのだけで時間がかかってしまっている。
「早くこの森を抜けて第二の街に行かないと。」
森の中に続いている道をどんどん突き進んでいく。
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「あ、やっと戻られましたか、部長。次のイベントのことについて最終調整の認可が欲しいのですが。」
「ああ、わかっている。30分後に会議室を予約しておいてくれ。少しだけやることが出来たのでな。」
「わかりました。第一会議室を予約しておきます。では。」
部長と呼ばれた中年の女性は部下の開発リーダーの背中を見送るとハイクラス仕様のフルダイブマシンの椅子にばたりと倒れこむ。
汗で少し湿った髪の毛を後ろに流しながら携帯を手に取る。
「あのプレイヤーしつこかったな。何回か倒されたら別のルートを通って第二の街に行くだろ普通。なのに、何度も来てはスキルも使わずに戦いをしてくるものだ。」
この女性はユートピアオンラインの開発部長である佐々木希、38歳。
部長の立場を利用して、プレイヤーではなくモンスターをアバターとして使用してプレイヤー達と戦ってきた。
モンスターはステータスは高いもののスキルが少なく人間が使うには癖が強くほとんどの人が扱うことが出来ない。むしろ使用してプレイするのは鬼畜難易度の縛りプレイになる。
「今回使用したゴブリンは次のイベントの強個体のソルジャーゴブリンだから、序盤のプレイヤーが倒せないし、それなりにプレイした人でもスキルなしでは難しいのに。」
装備からでもわかるこのゲームをプレイし始めたばかりの女性プレイヤーであるにも関わらず何度かの挑戦でスキルなしで倒されるとは思わなかったと少し残念がる。
「相手を倒すための必殺のスキルを逆手に取られたけど、あんな凄腕のプレイヤーが参加してくれるのなら今後が楽しみだわ。」
携帯を操作して先程戦ったプレイヤー情報を見る。
「プレイヤー名はサイレント、女性。あの仮面はアバター作成時のみ入手が出来るものか。覚えておこう。この私を倒した一人として。」
机のタオルを手に取り汗を拭うと勢いよく立ち上がり服装を整える。
「さてと、イベントのことを終わらせて今日は上がるかな。」
佐々木は倒されたのにも関わらず気分がよく、その日の晩はよく眠れたそうだ。
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