第三十六話
「ふぅ、思ったよりもこの人は強かったわ。」
学校の授業で見た剣道のような動きでこちらとの距離を測りながら気を伺って攻撃を仕掛けてくる。私みたいに弱点を執拗に狙うわけでもなく腕や足などをちょこちょこと狙ってHPを削っていくスタイルだった。
つまりはモンスターと戦うよりかは人と戦うことが得意であり少し苦戦をしたのだが、こちらは2人掛かりで容赦なく叩きのめしてあげた。そうすると、
「アニキをこんな目に合わせておいてタダで済むと思うなよ。」
「く、ここは素直にその子を解放してやるがこのままだと思うなよ。」
テンプレ通りのセリフを吐いて路地裏から逃げるように立ち去っていった。アニキと呼ばれた男の後姿は何故か寂しそうな感じがした。
「あの~。」
もともと決闘をしていた目的である女性が声をかけてきた。忘れていた。
「あ、大丈夫でしたか?こんな路地裏を1人で通るのは辞めた方がいいですよ。」
「あ、はい。そうですね、いくらゲームでも人気のないところは危ないですからね。」
女性は口元に優しく手を当てて反省している様子を見せる。何か仕草からいいとこのお嬢様ではないのかと思ってしまう。立っている姿勢も綺麗であり同じ女性の目線から見ても嫉妬の感情が生まれることもなくむしろ少し見とれてしまいそうになる。
「どうしましたか?」
「い、いえ。ええと、装備を見るからにこのゲームは今日が初めてなのかな?」
「ええ。お父さ、父からこのゲームをやってみなさいと言われまして初めてみました。すみません、助けてもらったのにお礼を言わずに。」
「いいのよ。私たちは道中の邪魔を片付けただけだもの。」
ヒビキちゃん、いや姉御はかっこいいことを言っていることには嫉妬してしまう。
「私はサイレントで、そこのオカマはヒビキちゃん。私もこのゲームを始めてあまり経っていないけどね。」
「そうなのですね。私はソフィアと言います。まだ第二の街までしか辿り着いていませんが、この装備の耐久値?というものがかなり減少していましてどこで回復させればいいのかわからなくて。」
ソフィアと呼ばれるお嬢様は私と同じで今まであまりゲームをしてこなった人なのだろうと。それで色々歩いてこんな悪い人たちに絡まれそうな路地裏に辿り着いたということだろう。
こんな右も左も知らないような人をこのまま放っておくことは気が引けるし、私たちがこの後行く場所と目的とも一致する。
「それなら私たちが案内をしようか?ちょうど2人でこの前のイベントで装備の耐久値が減っていたから修復しに行こうと思っていたの。あと、女性メンバーは多いほどいいからね。それと。」
メニューウインドウを操作してフレンド申請をソフィアに送る。
「フレンド申請。何か困ったことがあったり、一緒に遊びたいときにすぐにメッセージを飛ばせるからどう?」
ソフィアは目を輝かせたと思うと急接近をしてきて手を強く握ってくる。すると、鼻息をとても荒げポニーテールを揺らす。
「わたくし、友達に誘われるなんて初めてです!ぜひ、よろしくお願いします。」
「そ、それならウィンドウの申請を許可してくれないかな。」
かわいい顔がこんなに近いと少しときめくものがありそう。まつ毛も長く細部までキャラクタークリエイトを作りこんでいることがわかる。
そもそも、ここまで細かくキャラクターを作ることが出来るような設定は私が作っていた時には見当たらなかったけど、どこかにそういう操作ボタンとかあったのだろうか?
「それなら私もフレンドいいかしら?サイレントちゃんは同じ初心者同士の目線で話せても、まだ知らないことがあるのならプレイ歴が長い私が教えてあげられるわ。」
ヒビキちゃんは親指を立ててにかっと笑顔を浮かべているが、こんな路地裏だとさっきのチンピラと違ってより凶悪な悪者にしか思えない。
怖すぎるわ。
「本当なのですか。プレイ歴が同じぐらいの方とベテランの方も一緒だと心強いです。」
ヒビキちゃんとは真逆でまるで聖女のような綺麗なオーラを醸し出している。先ほどの一人称が変わったことから本当にリアルではお嬢様なのだろう。
私のリアルとは全くかけ離れている感じだ。拳と拳の喧嘩などはしたことがなさそうだし、家もかなり裕福な感じ。
あれ?私の知り合いは裕福な家庭でいわゆるお嬢様というやつなのだが、性格は残忍であり喧嘩はするわ強いわで目の前のソフィアとはベクトルが悪い方に傾いているのだけど。フレイヤさんとは違うね。
「それじゃ、私の馴染みのお店、カインのお店に行こうか。」
「カインさんのお店ですね。どんなところか楽しみです。」
ソフィアさんの笑顔が眩しすぎて私だけじゃなくヒビキちゃんも手で目を覆ってしまう。なにこの純粋さが生み出す光は。
まだ、目がしばしばするけど薄暗い路地裏を抜けてお店を目指して歩き始める。
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