第二十五話
洞窟から脱出した後は一度船へと戻って一度休憩をすることにした。
現実ではあまり時間が経っていないとしても、精神的にも疲労していて体感としても数時間以上経っている気がして集中力が持たないかもしれないという理由だ。
私としてはあと数時間は全然問題なく行動は出来るがルイスはこの後の素材の収集の後は、必要なアイテムの生成とダンジョンアタックが残っているのでこれ以上行動させると後々支障が生じてしまう。
最初に来た時とは反対方向に進むことでこの島に上陸した船に辿り着いた。
イベント開始時には誰1人としていなくなったのに、今はそれなりに人が休憩をするために戻ってきていた。
彼らの装備はばらつきがあるもののフレイヤ達のようなトップ層に近い装備をした人たちは誰もいないようだ。中には装備がボロボロになって負け帰ってきた人がいたり、そんな人たちに商売を行っている元気な人もいる。
「それじゃ、ゆっくりと休みましょう。私はルイスを担いで運んだから疲れちゃったわ。」
ヒビキちゃんは船の端で腰を下ろしてアイテムボックスを操作し始める。
私もその隣に腰を下ろしてゆっくりと目を瞑って呼吸を整えて精神を休める。
「サイレントちゃん、瞑想をする前にこれを食べなさい。美味しいわよ。」
ヒビキちゃんがアイテムボックスから取り出したものをゆっくりと投げてきたのでそれを受け取って見ると白い紙の布に包まれていて何かいい匂いがしてほんのり暖かいものだった。
その包みを開けて見るとほんのり甘い匂いをさせたアップルパイだった。月の光に照らされてうっすらと輝いて見える。美味しそうだ。
同じものをルイスに投げつけていた。
「これってどこのお店で買ったの?美味しそうなんだけど。」
リアルでもここまで美味しそうなものはなかなかないと思う。
一口食べて見るとバターの香りが鼻を通りりんごの甘味がうっすらとシナモンが混じっていい感じ。
「拙者も口にもあうものは珍しいですぞ。このゲームの食べ物はイマイチリアルには勝てないですがこれはなかなかですぞ。」
「あら、ありがとう。それ私が素材をしっかり選んで作ったものなのよ。なかなかいいでしょ。」
「ヒビキちゃん料理が出来たんだ。」
「そうよ、リアルでもゲームでも料理は得意なのよ。そんじゃそこらの料理店より腕がいいのは確かよ。」
ルイスが口を大きく開けて何かありえないものを見たかのような驚愕した顔を浮かべているが、少し失礼だし醜いので後頭部をひっぱたく。
「この美味しいものを食べて朝日が昇ったら素材の収集を開始しよう。この島の中央近くに行けば色々あるでしょ。」
今だ驚愕した顔をし続けるルイスの頭を今度は拳で元に戻すことにした。顔もおとなしくなった彼を見てゆっくりと目を閉じて瞑想する。ゲームの世界なのに海風が少し暖かく心地よいのは少し旅をした気分になれて得した気分だ。
閉じた目の外側から陽の光を感じたので目を開けてみると、海の向こう側から太陽が昇ってきたのを確認する。活動再開の合図だ。
隣でよだれを垂らして寝ているルイスの鼻を思いっきりデコピンで弾いて起こしてあげる。優しい。
ヒビキちゃんは自分の装備を布できれいに磨いて身支度をしている。流石頼れるみんなの姉御だ。
「さて、拙者たちは早めに行動を開始しますぞ!」
「よだれを拭きなさい、ほらそこそこ。」
ヒビキちゃんが口から垂れているものを指摘するとルイスは顔をトマトのように急激に赤色に染め上げて袖口で急いで拭って何事もなかったかのように腰に手を当てて堂々としている。顔は格好に似合わないが。
「とりあえず、草のふちがうっすらと赤色になっているやつだったら上・火薬草の可能性が高いので拙者に報告してもらいたいですぞ。」
「なんで?みんなで見つけたらどんどん取っていけばいいんじゃない?」
「拙者の『採取者』」の効果で取得したもので制作するとアイテム効果が上がるのですぞ。さあ、行きますぞぉ!」
ルイスは意気揚々と森に向かって走っていった。心は野山を駆け回る少年のようらしい。
それを見ると私も昔親の実家の森でターザンごっこをした記憶が蘇るようで楽しくなってつい走ってルイスを追いかけて行くことにした。




