第十三話
スライムは標的を全て倒し終わったと思ったのか、色々と変化させてきていた核の色を元の黒色に戻した。
私はまだあいつには見つかっていない。先制攻撃のチャンスだ。
(こんにちわ〜、その核をいただきに参りました。スキル『クリティカル・バイト』)
クリティカル・バイトは、相手の1番の弱点箇所に当てることが出来れば2倍の威力でダメージを与えることが出来る。元々クリティカル時には攻撃の威力は1.2倍になる。
しかし、このスキルはしっかりと条件に合う部位に攻撃しなければ威力は激減し0.3倍となってしまう。さらには、このスキルは一度使用するとリキャストタイムが長くしばらくは使用することができなくなってしまう。
このスキルは普段使いとしては全くといって使い勝手が悪く、モーションとしてはゆっくりであり素早い戦闘においては簡単に避けることが出来るもの。
(まずは、弱点に対して1発目。)
私の剣はゆっくりと敵の弱点である核にするりと入り込んでいきスキルは成功した。すぐさま剣を核から抜いてスライムから距離を取って反撃を貰わないようにする。
スライムの核は剣を突き刺した傷をつけたまま色をスカーレット色に変えて身体中を炎に包み込む。追撃をしていれば間違いなく炎に包まれてすぐさま街に戻されてしまっていただろう。
「よし、相手のHPは半分まで削れたな。なんだか知らないけどそれなりには削れていたからだいぶ楽になったね。」
もともとスライムはHPがそれなりに削れていたのは、先ほどやられていた男たちと同じようにスライムに襲われていた連中によってダメージを受けたのだろう。でも、私の攻撃の方がダメージを与えていた。
「スライムは、中距離として炎を使って、近距離では触れた敵を凍らせていく、遠距離では相手を追跡する雷。この3つまではわかっているから、他の攻撃があったとしても3種類と同じことをしてくると予想して。楽しくなってきたわ。」
このスライムの慌てようが伝わってくる。ゲームの中でまるでリアルで視線を感じるように、体中から高揚感を感じるように。
これ以上なくこのスライムを叩きのめしたくなってきた。楽しくなってきた。あの攻撃が怖くなってきた。イライラしてきた。感情が爆発しそう。
「核も見やすく、やばい。雷攻撃だ。」
核が黄色に変わったので、雷攻撃を仕掛けてくる。
急いでスライムの周囲を走り始めて簡単には狙いをつけさせないようにするが、放電が始まっていて恐らくロックオンされている。
「タイミングはさっきと同じなら大丈夫。それともう一つの方法も考えたけどこっちは賭けになるね。」
スライムを中心に円で走っていると、スライムから雷が一定の間隔とタイミングで降り注いでくる。その攻撃が一番私に近くなるまで逃げたくなる衝動を抑える。
「今!」
目の前に雷が落ちて一拍分だけ待ってから目の前に転がりながら持っていた盾をスライムの核に向けてフリスビーのように投げつける。真後ろでは今まで追尾していた雷が少し地面を削りながら落ちてきた。
スライムの弱点はむき出しの状態になっており威力をそがれることもなく攻撃は命中する。
「やっぱり、雷攻撃は回避も出来るし弱点を狙うタイミングとしても最高だよ。」
スライムは核を短時間に2度も攻撃されて怒り狂ったかのようにうねうねと奇怪な動きをし始める。下手に攻撃をするとどんな反撃をもらうのかがわからないため急いで落ちた盾を拾って距離を取る。
「さてと、核の色が変わることでその色で連想する属性の攻撃を仕掛けてくるけど、今知っているのは黒色を含めて4種類だけ。」
核の色にも気をつけつつ、伸縮自在の粘液の攻撃を避ける必要もある。
「次は、スカーレット色に変わったってことは炎攻撃。」
粘液の体を雑巾を絞ったように捻らせたら回転で閉じ込めたエネルギーを解放するかのように逆回転をして粘液を飛ばしてくる。全方位に無造作に飛ばされていきながら燃え始める。
小さな付着したら粘りついて敵を燃やす火の玉。体に当たってしまえば消すのが大変になってしまう。
「あの攻撃の一番のやっかいなのは粘り気があって複数個所に触れたら鎮火させるまでにHPを削られてしまうことだと思うから、、、。」
あまり動かずにこちらに届く順番とこのままだと当たってしまう範囲をおおよそで判断する。すこしだけ左右に動いて躱せるものだけ躱す。無理なものはしっかりと盾で受け止めて直接当たらないようにする。
「よっし!今日は調子がいいね。一発は当たってしまうと思ったのに。」
盾で防いだものを除けばすべて避けきることが出来た。盾についた炎は地面に押し付けて消す。
「このゲームの炎も酸素を届かないようにすれば消すことが出来るんだね。よかった、そうじゃなかったら盾の耐久値がすごく減っちゃうところだった。」
事前に調べたのだけど、このゲームは武器や装備に耐久値が設定されていて0になってしまうと武器が壊れてしまい特別な修理をしなければ使うことが出来なくなってしまう。耐久値が一番減りやすいのは、スリップダメージという継続的に微量なダメージを負う攻撃らしい。
「炎の攻撃もこれなら防げる。あとそろそろ頃合いなんだよね。」
辺りの地面にはところどころ粘液の炎が燃え続けているが、その隙間を走ってスライムに接近する。無造作にばらまかれた炎を掻い潜っているだけだが、スライムには不規則に動いているように見えるはず。
「さてと、HPも少なくなっているよね。粘液が減るとHPも減っていくのかな?」
スライムのHPは残りが少なくなっている。さらに、体格も最初に見た時よりもかなり小さくなっていて攻撃しやすい高さまで降りてきている。さっさと止めを刺すに限る。
「今使える中で一番まともなスキル『ハイカッター』。なんか今使うと駄洒落みたい。」
もともとカッターというスキルがあるらしいのだが、それの威力が向上したバージョンがこのスキルだ。
今相手にしているのがただのスライムでなくてユニークってことを忘れていた。
「ちょ、核の色がいつの間に変わっているし、寒いんだけど。」
スライムは最後の力を振り絞ってなのか全身を凍てつかせていく。スキルで止めを刺そうとしている私は格好の的になってしまっている。スキルを中断させたとしても避けることは出来ない。つまりは、最後の最後に読み間違えで負けだ。
せっかく、温まってきたのに。
『ハイエンチャント・ブリザード』
少しだけ体が凍っていたのだが、急に寒さを感じずに少し暖かく感じるようになった。なぜ?というのは後回しで今はこのスライムを叩きのめすことだけに集中をする。
凍っているせいで動作が鈍ってしまってスキルであまりダメージを与えらなかったが、私が持っている武器は剣だけではない。
「これも初めて使うスキルだけど今にぴったり!『パニッシュインパクト』」
盾を装着している腕を体の後ろから回しながら振り上げてスライムの核に向けて台パンするように叩きつける。
今唯一使用できる盾の攻撃スキル。密着している敵に効果てきめんで剣のような斬るのではなく鈍器で殴るような攻撃。硬そうな核を破壊するにはぴったりである。
残り少ないHPの状態で的確に核を破壊されたスライムはぐしゃっと潰れて爆散して消えていった。
「ユニーク討伐完了。危なかったよ、ありがとう。」
スライムの最後のカウンターから私を守ってくれた真っ白な鎧を身に着けて物陰からこちらを観察している人に感謝を言う。
そのプレイヤーは森には不相応な白色に、本人は隠れているつもりだろうが目立っている。
「すみません、せっかくの戦闘に余計な手出しをしてしまいましたか?」
物陰から大きな体を出してこちらに近づいてきた。
街を出る前に出会った人だけど、その時にはこの人が強そうとは感じなかった。リアルでもスポーツをやっていたら強いかどうかはだいたいわかっていたけど、今まで出会ってきた人の中で一番強い人だよ。
他の作品のURL
・Dear Labyrinth_親愛なる迷宮_漆黒の影と神の使徒
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・少女は魔法を夢見る
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