第十話
この見慣れた天井も晩御飯の時間になればまた見ることになるだろう。
視界がブラックアウトし、浮遊感を感じたあとは最後にいた第二の街の広場に降り立っていた。
「よし、無事にログインも出来たことだしワープが出来る転移門に向かおうかな。」
公式サイトによれば、大きな街には街と街を繋ぐ転移門が存在していて登録している街に一瞬で転移することが出来るらしい。
今私が登録しているのはこの第二の街と自動で登録される第一の街の2つだけ。
第二の街の転移門は広場から少し南に下った街の入り口のすぐそばにある。
「これは転移門なんだ。その辺の建物の数倍の大きさで外観を損なうデザインになっているんだ。妙に機械的なのはファンタジー世界としてはどうなんだろう。」
転移門は3メートルの高さになる建物よりも大きく10メートル以上の高さになる。
見た目から、ただの門ではなく何かしらの機械仕掛けを施していてファンタジー世界ではなく、未来の世界に存在しているようにしか見えないがどういう設定なんだろう。
「設定とかはまた確認すればいいかな。まずはカインのお店に向かわないと。ええと、第一の街に転移っと。」
さっきの転移門から少し綺麗になった転移門に変わった。
辺りを見渡してみたら第一の街に辿り着いていた。
「本当に一瞬で第一の街に辿り着けるんだ。そんなことよりもカインの店に行って物色しなきゃ。」
走ってカインの店に向かう。
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「いらっしゃ、なんだあんたか。1日ぶりだな、こんなに時間が空いているってことはようやくゴブリンだっけか倒したってことだな。」
「こんにちは、カイン。ゴブリンはダメージを一切もらわずに倒してきたよ。この剣と盾の装備が1番しっくりきて思い通りに動けたよ。」
カインはそれを聞いて満足そうにしている。
「それで、レベルも上がってきたことだし装備を新調したいなって思ってここに来たんだけどいいのってある?」
それを聞くと逆に不満そうな顔になってため息をついている。
「そういうのって他の街とかの綺麗な武器屋とかに行って聞く言葉でしょ。なんで私なんかに聞くのさ。」
「え?カインは初心者の私にも丁寧に対応してくれたし、武器の交換の時も武器ごとに説明してくれたし。カインになら装備のことを任せられるからだよ。」
カインは訪れた時には嫌そうな顔をしているのだが、こちらが何か聞くと1番聞きたいことをちゃんと答えてくれた。
そんな人のところで出来る限りは装備を整えたいと思っただけ。
「まったく、わざわざ私のところで買いたいか。よし、わかった。私が装備を選んであげる。」
「ありがとう、カイン。」
「はいはい。それで、今のレベルと、ステータスはどんな感じにしているのか教えて。」
カインに今のレベルとステータス、今後どんな風な感じでアバターを育っていきたいのかを伝えた。
すると、カインは顎に手を当てて少し考えると店の奥に引っ込んでいき、すぐさま戻ってきた。
「そのステータスでレベルだとこの辺がいいんじゃないかな。」
持ってきたものをカウンターに無造作に置いて、手招きをしてくる。
置かれているのは、新人プレイヤー用からよりまともそうになった剣と盾、そして、金属製の胸当てと肘当て、革製の上下の服。どれも戦闘用の見た目をしたいるがあまり可愛くはない。
「なんだよ、その不満そうな顔は。」
「だって、可愛さもかっこよさもないもん。」
やれやれとカインは呆れているが、何をするにしても服装は大切なので不満になるのは仕方ないと思う。
私だって一応は女の子なんだし。
「今のレベルだとこれが1番いい装備になるんだよ。お前が思うような可愛い装備とかはもっとレベルを上げてからじゃないと装備ができなかったりするんだよ。」
「ええ〜、それまで可愛いのはお預けになるのか。道のりは長そう。」
すると、カインは思い出したかのように
「そういえば、見た目から性能までもいい装備の中でユニーク装備があるな。独特な能力とかも付与されているらしいけど、ユニークって言葉通り入手方法はわからないんだよな。けど、お前は今はいい仮面をつけているじゃないか、それで今は満足しときな。」
「ユニーク、ユニークか。誰も持っていない自分だけのものか。ほしいな。」
ユニークという言葉は人を魅了する不思議な力で、ゲーム初心者の私でも今すぐにほしいと思わせてくる。
そんな装備の中でかっこよくて可愛いのがあれば絶対に欲しい。
「今入手できるユニークって何かあるの?」
「いや、ユニークの情報なんて入手後に出てくるものだし、このゲーム内では一つしか存在しない。入手をした人が流した情報によると、ユニークモンスターを倒したドロップアイテムだったり、ユニーククエストの報酬だったりと色々で決まった入手方法はないらしい。それで、この装備はどうするの?買うのか買わないのか。」
「ま、今はそれしかないのなら、買うわよ。」
ユニークは望んでも手に入るものではないので、今の自分にあった装備にしてコツコツと頑張るしかないみたい。
「毎度あり、今装備をしていきなよ。このあとすぐにフィールドに出るんでしょ。」
「うん、そうだよ。スキルの使い勝手とかを試しながら次の街に向かうんだ。スキルは一回しか使っていないからよくわかっていないからね。」
装備をメニューから選んで装着させていくと、一瞬で見た目も変わる。最初の装備と同じ重量で動きを阻害するような感じは一切しない。
「動きには問題なさそうだな。お前は色々と動き回って相手の動きを捌いていくスタイルで戦うんだろ。それなら、同じぐらいのレベルのモンスターから攻撃をもらっても大丈夫だ。」
「うん、動きやすくていい装備だよ。カイン、ありがとう。早速いってくるね。」
カインは顔を背けながら手で追い払う仕草をする。
照れているんだろうな。
「おじゃましました〜。」
目指すは第三の町で、道中のモンスターで初めて出会うのには挑戦していこう。
いい買い物をすると、テンションも上がるね。
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「まったく、スキルを一回だけしか使わずにダンジョンをよく攻略できたものだよ。フレイヤみたいなやつとよく友人でやっていけるよな。」
カインのフレンドリストにいる数少ないフレンドのフレイヤとはリアルでも友人であり、彼女サイレントのことは聞いている。フレイヤは頭の中が空っぽで人と接するような人間をあまり好きではないのだが、そのタイプであるサイレントのことはなぜか気に入っている。
「装備も、私が自ら作ったやつで上物だからレベル差が少しあろうと余裕で使えるはずだから次のイベントでも使えるはず。」
彼女、カインは武器・防具を取り扱う店持ちのプレイヤーというわけではなく、武器制作の生産職である。一応は防具も作れるのだがトップの生産職と比べるといまいち性能差があるため売り物として出すのはある程度までと決めている。
「ま、あいつはまた今度すぐにくるだろうから。それまでに、いい武器でも作っておいてやるかな。いいものじゃなかったらゲームでもリアルでもフレイヤにボコられるからな。ああ、怖い怖い。」
カインは店の扉に鍵をかけて店じまいをして、裏に設置している鍛治場に向かう。
周りにはアイテムボックスから取り出して置いたままの、これからサイレントが向かうより少し先のモンスターからのドロップアイテムや、他の生産職が制作した素材が置かれている。
その中にポツンと置かれている金槌を持って炉に火を入れる。ゲームはすぐさまプレイヤーが設定した温度の火がつく。
「今日はフレイヤの頼まれごとを済ますまでは寝られないぞ。」
そう独り言を呟きながらカインは鍛治に集中し、鉄と深夜まで戯れた。
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