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夢見少女は理不尽な未来を回避したい

短編版 夢見少女は理不尽な未来を回避したい 〜テンセイ?とやらはわかりませんが使えるものはなんでも使って未来を変えて見せます!〜

作者: 夏未 零

初めての投稿となります。

楽しんで頂けますと幸いです。

 幻獣と共存する世界レーツェルム。


 レーツェルムでは国ごとの気候や立地により契約幻獣が偏ることが大半の中、世界の中心であり全ての属性契約者がバランスよく住まう国、バンデルムの王族である双子の王子とその二つ下の妹姫の婚約者と側近を探すお茶会が開かれていた。


 常に人の手が入っているのであろう緑豊かな庭園、美しく飾られたお菓子や食べ物が並ぶテーブル、色とりどりのドレスと、ドレスに囲まれた人物を尻目に一口サイズのスイーツを手に取る。



「はぁ....食べ物は美味しいけどドレスの色が多すぎて目がチカチカする...。皆王子様たちに群がってるから話しかけられそうな子もいないし...やっぱり夢の通りかぁ。」

 


 正直ここに来ることは乗り気ではなかったが父に貴族としての「義務」だと言われてしまえば仕方ない....というのも建前で大公である父が言った



「美味しいお菓子があるし同年代の子どもも集まるからお友達ができるかもしれないよ?ライラはお友達を欲しがっていただろう?」



 という言葉に乗っかったことにライラは早速後悔していた。


 この色気より食い気な少女はライラ・リュミエール。

 バンデルムの貴族の中でも光属性の幻獣との契約者を多く輩出している大公家の長女だ。


 王家主催のお茶会となれば警備上最も安全で、初めて参加するのにうってつけな上食事も豪華なため食べるのが好きな自分にとっては良いと思ったのだ...。他にも目的はあったし...。


 さらには自分はこの未来(いま)を知っているのだから。





 ライラには夢で自分や自分と関わる人間の未来を見ることができるという力があった。

この力はお茶会の一年前、ライラがまだ6歳の頃、幻獣契約についてまだあまり知らなかった時に偶然出会って仲良くなった幻獣と契約した際に手に入れたものだ。


 幻獣契約は通常10歳までに行われる。


親和性が高ければ8歳ごろから、遅くとも10歳には召喚の儀を行い、幼いうちから幻獣の力を体に馴染ませる。

幻獣の力がなくてはならない世界での基本的なルールである。


 ライラも産まれた時に行った検査で幻獣との親和性が高いことがわかっていたため8歳ごろに行う予定だった。


 召喚の儀では本人の持つ親和性が最も高い属性の幻獣が現れる。しかも高ければ高いほど強い力を持った存在を呼び出せるのだ。

 

 ライラは光の属性を持つ幻獣と縁が結びやすい家系のため、最も親和性の高い属性も光であり、召喚の儀では光の幻獣と契約するはずだった。


 しかし領地で見つけた怪我をした美しい黒馬を助けたところ、その動物がまさかのナイトメアと呼ばれる幻獣で気に入られて契約してしまった。

だが、ナイトメアはライラの持つ属性とは正反対の闇属性の幻獣、しかもかなりの高位に位置する存在だったため、力が合わないあまり一度死にかけた。


 合わない力に振り回されて高熱を出し、意識不明のまま三日三晩のたうち回った苦しみは今でもはっきりと思い出せる。父の機転と母と兄の全力の治癒魔法のおかげでどうにか意識を取り戻し、闇を中和する高位の光属性の幻獣との契約を土壇場で行い助かることができたが2度としたくない経験だ。


 お茶会に呼ばれる予定だったのは王子たちの年齢の前後2つ違い、9〜13歳の子どものはずが、4つも下のライラが呼ばれたのはこれが原因である。


 高位の光属性幻獣の契約者。しかも6歳で成功させているなど過去の歴史を辿ってもそうそういない、しかも大公家の姫となれば王家としては是非とも取り込みたいのだろう。



(「めんどくさい....」)



 ライラは心の中でうんざりと呟く。


 王家がいくら取り込みたいと思っても正直王子は傲慢俺様系でタイプではないし隠し事があるため今婚約となってしまうと今まで隠してきたことが無駄になってしまうのだ。

 

 ライラと家族は闇属性の幻獣、夢を司るナイトメアという種類の幻獣と契約していることを隠していた。


 光の大公家の娘が一番最初に契約したのが高位の闇属性。ライラの家族は偏見など持たないため気にしないが世間一般的にはだいぶアウトである。

 

 この国では自分の家系の属性幻獣との契約を一番最初に行うのが基本であり常識。それを王家に次ぐ力を持つ大公家が破ったとなれば後々面倒なのだ。


 わざわざ公表して迫害されたり面倒なことになるのは避けたいためライラと家族は闇の幻獣の存在を隠すことにした。


 勿論屋敷内の信用できる人間の前では普通に召喚するし一緒に生活しているのだが、社交界からは隠さなければならない。しかも8歳で2体の幻獣と契約などしていたらどこの誰に目をつけられるかわかったものではない。


 ライラ事変と屋敷内の一部では呼ばれているこの出来事の際、体に光と闇という正反対の、しかもかなり強い力を交互に浴びた影響なのかライラには幻獣が持つ夢を見せる能力の影響を色濃く受け、夢を通して自分やその周囲の未来を見ることができるようになった。


 ライラ自身は表向きは隠しているもののため誰にも言わなものの、見える未来も大したものではないのだからそこまで神経質になる必要もないと思っていた。


 だが権力者というものには常に危険がつきまとう。

 


「もし未来が見えることでそれを回避することができる可能性があるなら皆喉から手が出るほど欲しがるだろう。どんな手を使ってでもね。」



 そう父に言われてからは素直に隠している。

どうせ未来が見えるとは言ってもぼんやりとしたものが多く見ても忘れてしまっていたり、明日のおやつは何が出るか、とか仕事に行く父が書類を忘れる、とかその程度なのだが...。


 だが今回は比較的はっきりとした夢で、ライラも父の口車に乗せられたていでお茶会に来てしまった。

 別に好みでない王子などどうでも良い。


 夢の内容はこうだ。


 ここから少ししてライラは王子に絡まれる(向こうは精一杯のアピールのつもり)のだが、ドレスの塊こと他家の令嬢たちが割って入ってくるのだ。

 

 それを見てこれ幸いと隙をついてお茶会から逃げ出すライラ。

そこである少年と会うのだ。


 その少年は紫がかった黒髪に重めの前髪で、少しもっさりとした印象で。でもそこから覗く瞳はとても優しくて綺麗な紫で、よく見ると意外と整った顔をしていて、柔らかい笑みを自分に向けて一緒にお茶会をサボってくれたのだ。


 会話の内容はそこまではっきりとは思い出せないがとても楽しくてこの時間が終わって欲しくないとすら思っていたのだけははっきりと覚えている。


 夢で出会った少年に恋をする、なんてベタすぎで笑えるし、もしかしたら予知夢ではなくて本当にただの夢なのかもしれない。


それでも少しでも可能性があるならライラは少年に会いたかった。



「リュミエール嬢、お茶会は楽しんでくれているかい?挨拶以降全くこちらに来てくれないから僕たちの方から来てしまったよ。」



 フッと笑ってこちらに来たのは双子の王子。

 


(「これどっちがどっちだろう...双子なんだから服の色変えてくれれば良いのになんで同じにしてるわけ?」)



「申し訳ございません。あまり人の多い場所に出向かないもので少し空気に当てられてしまって休んでいたのです。

 お気遣いありがとうございます。」



 とりあえず特大サイズの猫を全身に引っ付けてカーテシーをしながら誤魔化す。

 


(「見分けられない。どうしよう?えっと...確か兄がトネール王子で弟がフードル王子、だよね??どっち?これ。

 いや、いっそ名前を間違えたら自分達を見分けられないことに憤慨してどこかに行ってくれるかもしれない。

 お父さまも別に私が王子に嫁ぐ必要性を感じないと言っていたしそれが良い。うん。」)



  ここまで思考するのに3秒。

 ゆったりと顔をあげて困った表情を作り小首をかしげる。



「お、俺達がわざわざ話相手になってやるんだ、体調くらい我慢するべきだろう?」



 顔を赤くしたもう片方が喚く。

 


 (「あー、一人称違うんだー。どっちかわかんないけど今回間違えた後またわからなくなることはなさそうだな。良かった。」)



 だいぶ失礼である。

というか夢の少年で頭がいっぱいで忘れていたが夢の通りではなかろうか。このあとはなんだっけ?


 とりあえず返事をしなければならないだろう。そのついでに名前を間違えておくかと心の中でさらに失礼を重ねながらライラが話す。



「申し訳ありませんフードル殿下。確かに主役の御二方が望まれるのであればお側にいるべきでしたね。」



 嫌味がぽろっと出た気がする。

 心なしか2人の顔が赤い。きちんと名前を間違えられたのだろう。怒らせすぎたかもしれない。



「あっ、申し訳ございません。お二人があまりに似ていらっしゃるので私...」



 声を震わせて話す。



『こんなの初めてだ...』



 なんか2人同時に同じこと言った。やっぱり双子だなぁ。

なんて考えていると夢の通りドレスの塊がやってきて囲まれた。



「ちょっと貴女!!殿下のお名前を間違えるなんて不敬だとわからないの!?」



「これだから社交やお茶会に参加しない令嬢はダメなのよ。殿下を見分けるのなんて同年代の令嬢としての常識でしょう?」



 姦しい声に口々に責め立てられる



 (「よし、このまま逃げれば完璧だ」)



「まっ、待ってくれ、彼女はっ!」



 何か僕の方の殿下が言っているが邪魔されると困る。

被せるように大きめの声で、けれどか細く聞こえるよう調整しながら用意していたセリフを言う。



「わ、私...そんなつもりじゃ...ごめんなさい。

 少し頭を冷やしてきますわ。....っ失礼いたします。」



 嘘泣きは護衛や侍女をまく常套手段だ。最近あまり効かなくなってきてはいるが得意分野。少し涙を滲ませて走り去る。


 後ろから引き止めるような声が聞こえないでもないが関係ない。


 私は私の王子様に会いに行くのだ。女の子の扱いも知らない俺様なんぞお呼びでない。


 夢の記憶の通りに木々の隙間を抜けて駆ける。

 彼がいるであろう場所の近くで足を止めて息を整える。髪型は変じゃないだろうか?先ほど嘘泣きもどきもしたためお化粧が崩れていないか心配だ。


 急に緊張してきて震える息をそっと吐き出す。



「誰?、誰かそこにいるの?」



 少年らしい、柔らかい声。



「ぎゃっ!!?」



 覚悟していたはずなのにいきなりだったため全く可愛くない声が出た。

 周知で顔が赤くなり先ほどの嘘泣きの影響か瞳が潤む。



 「あっ、いや、ごめん!驚かせたかったわけじゃねぇんだ。あ...その...泣かないで。大丈夫だから。」



  困ったように微笑んでワタワタとポケットからハンカチを取り出しこちらに差し出してくれる少年は夢で見た人だった。

 

  貴族らしくない砕けた話し方は以前契約した幻獣の力を引き出すために作った装飾品の工房にいる、腕は良いが言葉は荒い、気の良い職人さんを思い出す。


 それすら彼の魅力に感じてクラクラした。



「......いっしょに...。」



「...うん?」



「一緒にお話ししてくれるなら、許す」



 なんで可愛げのない言い方だろう。差し出されたハンカチをギュッと握りしめて言う。もっと普段は愛嬌のある言い方ができると言うのに。


 さっきまで被っていたはずの猫は全員どこかに散歩に行ってしまったみたいだった。



「ふふっ、俺、他の奴らみたいにあんまり綺麗な言葉遣い出来ねぇけど、それでも良いなら。」



「っ!うん!!」



 今いる場所はあまりに目立つため、先ほど少年のいた茂みの方に2人で移動する。


 そのまま草の上に座ろうとすると止められた。



「待って!せっかく綺麗なドレス着てるのに、汚れる。これの上座って?」



 そう言うと上着をサッと脱いで地面に敷いてしまった。

 これなかなか仕立ての良いものだし敷物にしちゃダメなんじゃ...。私が受け取ったハンカチ握りしめてるせいなんだけど...。


 困惑しているライラに気が付いたのが付け足すように少年が話す。



「どうせこれ、兄弟が着れなくなったお古だし、さっきまで寝っ転がってたから上に座ったところで汚れ方なんて変わらねぇよ?大丈夫。な?」



 懇願するように上目遣いで覗き込まれて渋々彼の上着の上に座る。



「へへっ、良かった。ドレスって結構重いんだろ?立ったまんまじゃ疲れるだろうから。」



 ふにゃりと安心したように笑う彼を見て顔が熱い。確かにドレスは重いのだ。かなり。それに気付いて先回りして気を遣ってくれるなんて、どれだけこの人は素敵なのだろう。

 ぽーっと見惚れていると彼が話し出す。



「んで、君の名前は?」



「ライラ。貴方は?」



 なんとなく家名は名乗りたくなかった。

 大公家というだけでもそうなのに、契約した光の幻獣の影響もあって比較的有名なのだ。


 そして彼の話し方。だいぶ平民に近い言葉遣い的にあまり高位の貴族ではないのかなと思った。それにしては仕立ての良い服を着ているが。



「ライラ、か。俺はセレン。

 ライラはなんでこんなとこまで来たんだ?たぶん君、お茶会に呼ばれてる子だよな?だいぶ年下っぽいけど、殿下達の婚約者候補ってやつ」



 彼もわざわざ家名は名乗らなかった。私に合わせてくれたのかもしれない。



「そうだよ。でも人多いしあんまり楽しくなくて疲れちゃって...殿下に挨拶だけしたらあとはスイーツちょっと堪能して抜け出してきちゃった!セレンもお茶会に呼ばれたんだよね?」



 えへへと笑ってみせる。王子に絡まれたのが嫌で逃げてきましたなんて言ったらこの時間が終わってしまう気がした。



「うん、そう。でも俺あんまりああいう堅苦しいの得意じゃなくて、抜け出してきた。」



 一緒だね。なんて話していると



「キュー!!!」



 と何やら可愛らしい鳴き声が聞こえた。

 

「ぶっ!!!」



「セレン!?」



 ラベンダー色の何かがセレンの顔面に激突してひっくり返った。



「大丈夫!?えっ!?この子...幻獣?闇属性の。」



「っカーバンクル!危ねぇだろ!いきなり飛びつくのやめろって!!

 ごめんなライラ、驚かせたよな?こいつはカーバンクル。俺が契約してる幻獣。よく闇属性ってわかったな?」



 色...な訳ねぇよな、なんてブツブツと呟くセレンを見て驚くライラ


 幻獣には確かに色で見分けやすい個体が多いが、たまに属性とは違う色の個体もいる。ライラがカーバンクルの属性を見抜いたのは自分が闇属性の幻獣と契約しているからだった。


 淡いラベンダーの体に白い胸の毛、キラキラと輝く額に生えた角状の紫色の結晶と同じ色のクリクリとした吊り目がちな瞳。きゅ?と鳴きながら小首を傾げてライラを見上げる姿はとても可愛らしい。


 闇属性の幻獣は基本ライラのナイトメアのように体の色が黒かったり、禍々しい見た目だったりといった個体が多いのもあり、確かにこの見た目や色で属性を特定するのは難しいだろう。


 どうやって誤魔化そうか...というか光と闇の属性は下位貴族には殆ど契約できる人がいないはずなのだが、何者だろう。


 ライラが何かを考え込むようにカーバンクルをじっと見つめていると焦ったようにセレンが話し始める。



「っめ、珍しいだろ?こんな明るい色でもれっきとした闇属性なんだ!でも、世間で言われるみたいな、怖いやつじゃなくて、優しくてすごくいいやつなんだ!」



「っそ、そうだね、それに、すごく可愛い!」



 とりあえず問題は後で考えればいいだろう。

確かに可愛いし、セレンと仲良くなりたいライラにとって、彼が言いたがらないことなのであれば無理に暴こうとは思わなかった。


 それにライラ自身は闇属性に対する恐怖などない。



「ライラは、なんでこいつの属性わかったんだ?」



 ポロリと次の言葉に困ったかのように瞳を泳がせたセレンに聞かれる。


 あぁ、その問題が残っていた。

 言葉に詰まっていると、困っているのを察したのか



「言いたくなかったらいい。無理には聞かねぇから。」



 そう言ってもらえたのは有難いのだが、気不味い空気が流れる。


 そばに擦り寄ってきたカーバンクルをそっと撫でていると、セレンが口を開いた。



「俺、母親が平民なんだ。昔貴族の親父のところで働いててお手付き?ってので俺を身籠ったらしい。

 母さんが病気で死んで、孤児になった時に森でこいつに会ったんだ。

 んでそれを知った親父が俺を引き取った。だからあんまり家系とか関係ないかも。血筋?と幻獣の関係もまだよくわかんねぇし。

 本当はお茶会?に参加するのも腹違いの兄貴の予定だったんだ。でも、『自分は優秀だから参加したら絶対側近に選ばれるし重用されるだろう。当主となるのに側近までやるなんて体が幾つあっても足りん。無能なお前が出席だけしてこい。』とか言って俺に押し付けてきやがった。

 まぁここでライラに会えたんだからこれでよかったと思ってるけど...。」


 いきなりこんな話してごめん。みんなには内緒にしてな?と困ったように笑うセレンを見て胸が締め付けられる。


 この少年には嘘をつきたくない。ライラは強く思った。


それに、森で偶々闇属性の子と会って契約した、なんて自分と同じではないか。彼になら話しても平気な気がした。



「あ、あのね?私もみんなに秘密のことがあってセレンの秘密、絶対誰にも言わないから...聞いてくれる?」



 勇気を出して言ってみる。



「うん。なら俺も秘密にする。絶対。」



 優しいけど力強い声で言われる。


 ライラは話した。家系のことや死にかけたことはぼやかしたものの、同じように森で出会った幻獣がいること、その幻獣が闇属性で、自分の家が得意とする属性とは違ったため隠していること。


 隠すためにもきちんとした召喚の儀でもう一体家系の属性の幻獣と契約しており、その幻獣を表向きの一体目としていることを。



「2体も契約してんのか...すげぇ。ってちょっと待て!ライラ、年は?今いくつ?絶対俺より年下だよな?体の負担やばいんじゃ....」



「大丈夫!今は変わったけど元々は闇属性と相性良くなかったらしくて、それを中和するためでもあったから寧ろ元気なんだ!」



 年は7つだよーと付け足すように話す。

 この情報だけでも自分がどこの家の人間かバレてしまう気がしたが、セレンなら黙っていてくれる気がした。



「....なら良いんだけど、もし辛いとかあったら言えよ?」



 引き下がってはくれたが心配なようだ。



「平気だって!!そういうセレンは幾つなの?年下ー!とか決めつけてくるけど!」



 頬をぷくっと膨らませて拗ねたように尋ねる。



「俺は9歳」



「なんだ、たった2つじゃん」



「2つはデケェだろ!」



 わいわいと小気味良く話す空気が心地良い。



「なぁ、確か王宮でも幻獣って使うから建物内は兎も角、庭くらいなら緩くて、攻撃的な力を感知しない限り、召喚するだけなら大丈夫なんだよな?」



 現に俺もカーバンクル呼んじまってるしと付け足すセレン。



「そうだよ?あ、もしかして私の闇幻獣に会ってみたい?」



 悪戯めかして聞いてみると



「ライラが良ければ見てみたい...かも。

 カーバンクルの力、そんなに強いわけじゃない役立たずって親父とか兄弟とかから言われるけど、隠れたりとか、感知とか得意だから人来たらわかるし、秘密は守れると思う。」



 と自信なさそうに呟く。

 その姿にクスリと笑いが漏れた。



「良いよ!これも秘密!ね?」



 そう言ってカーバンクルに警戒してもらいながらナイトメアを呼び出す



「魔力を少なめに渡して最悪人が近づいてきても隠せるようなサイズで呼ぶけど良いよね?」



「うん、充分。」



 隠すために懐中時計の形にしてもらった特別な魔飾を取り出す。蓋を開けて魔力を込めると、中央の石がキララと光った。そしていつも部屋で過ごすサイズになった黒馬が現れる。


 呼ばれたことに驚いたようだが嬉しそうに跳ねながら近くに寄ってきたカーバンクルを見ると納得したように鼻先を近づけて挨拶をした。


 流石家族からも主人に似ないで冷静で頭の回転が早い。と言われるだけある。不本意だが。



「うわぁ!かっこいい!」



 ここにもカーバンクル並みにテンションの上がった人がいた。


 やれやれと言ったようにセレンにも鼻先をつけて挨拶をするナイトメア。



「えへへ、綺麗でしょ?毎日ブラッシングしてるんだから!」



 ここまでうちの子を見て喜んでもらえると主人としても嬉しい。


 そうやってしばらくお互いの幻獣と戯れながら雑談をしていると鐘の音が聞こえてきた。


 確か、子どもの会場と大人の会場が少し離れているからお茶会のお開きの時間が近づいてきたら鳴らすと聞いた気がする...。



 名残惜しいなと思っているとセレンも全く同じ顔をしていた。



「ふふふっ!セレンすっごく寂しそう!」



「なっ!それはライラもだろ!!」



 2人揃っておかしくて一通り笑うとそれぞれの幻獣を戻す。



「……また、会えるよね?」



 名残惜しかった。もっと話していたかった。寂しさを紛らわすように彼のシャツを小さくつまんで引っ張る。



「っ!会えるよ!俺たち年も近いし、また絶対会える!

ライラも学園通うんだろ?俺、あんま家での立場よくねぇけど、幻獣いるから学園に通うのは決定なんだ。

 だから、そこでなら絶対会える!

俺の方が年上だし、先に入学してるから...待ってる」



 とっても早口で言われた言葉は、力強くて、その分彼の強い思いがこもっているようで嬉しかった。



「なら、絶対会いに行くから。見つけるから。待ってて。絶対!」



「約束……だな」



「うん……約束。」



 どちらともなく手を繋いで立ち上がる。

 セレンは私が下に敷いて座っていた上着を拾い上げるとバサバサと振って汚れを落とす。



「ごめんね、汚れちゃった?」



 心配で確認すると



「黒いから目立たねぇし平気。つか高いと汚れも意外とつかねぇもんなのかね?全然大丈夫。」



「あー、作るときに防汚の加工してくれるところあるから、それかもね」



 その加工はかなりお金がかかるのだが、貴族ならできないわけでもないだろう。


 そのまま2人でこっそりお茶会に戻った。


 しれっと戻って端にいると探していたのであろう母が引き攣った笑いをしながらこちらにくる。



「ライラ、貴女どこに行っていたの?

殿下たちがこちらのお茶会までいらっしゃって聞いてきたのよ?」



「え゛っ」



 淑女にあるまじき声が出た。

わざわざ親に聞いて探し出すほど怒らせてしまったのだろうか?


 お母様は青くなる私を見て何かあったらしいと察したようだ。



 「とりあえず調子が悪くて休んでいるということにしておいたから、すぐに帰りましょう。」

 


 自分たちにしか聞こえないような小さな声なのに凄みがあるのは何故なのでしょう...。


 馬車に揺られて帰る。

 セレンの姿は見えなかった。どの家の子なのかだけでも聞いておけばよかったと少し後悔する。



「でも、約束したもんね。」



 クスリと笑って小さく呟くと、お母様からの視線を感じる。



「何かいいことがあったみたいね?でも、殿下関連ではないのでしょう?帰ったらお父様と一緒にお話ししましょうね?」



「うぅ……はい。」

 


『いいことがあったみたいね?』までは優しかったのに後半が全く優しくない。


 だが素直に話した方が良いのだろう。

お父様やお母様、お兄様に私が好きな人ができたと言ったらどんな顔をするだろうか。


 殿下のことは面倒だけど、家族の驚いた表情を考えるとちょっとだけドキドキした。





 ライラはまだ知らない。

 

 この後、実はお茶会で双子の王子の名前を間違えるどころか、お茶会に参加した令嬢の中で唯一正解してしまっており、ぜひ婚約者にと請われてしまうことも。それを聞いてお父様が血相変えて帰ってくることも。


 どれだけお断りしても執着されることも。


 2年後に家族との確執により学園に入学できないようにされてしまい家出したセレンと再会することも。


 悲しむライラのために「入学させない」という家族の言葉の撤回を求めて新たな契約幻獣を探すセレンに協力することも。

 

 トラブルに見舞われながらも新たな幻獣と出会うことも。

 

 成長するにつれて精度が上がってきた予知夢に抗おうとして空回ったりすることも。


 学園で出会う『テンセイシャ』と名乗る少女と友達になることも。

 

 まだ夢にも見ていない、未来の話……。







今回は短編でまとめましたが、まだまだ考えている内容があり、今回は冒頭部分のみとなります。


作者のモチベ維持と少しでも面白いと思って下さった方、お楽しみいただけそうでしたら、↓の☆☆☆☆☆やブックマーク、いいねなどで応援していただけると嬉しいです。


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