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合法ショタとメカメイド〜ダンジョンの奥で見つけたのは最強古代兵器のメイドさんでした〜  作者: ベニサンゴ
第3章

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第93話「特殊破壊兵装」

 僕は、弱い。鉄よりもはるかに軽い妖精銀の剣も満足に扱えないくらいに才能がない。フェイド率いる“大牙”や他にも色々な探索者パーティと組んで迷宮に潜り続けたけれど、結局荷物持ち以上にはなれなかった。独立なんてもってのほかだ。

 それでも僕は弱いなりに強さを考え、追い求めてきた。より多くの荷物を運べるように体を鍛え、運び方にも工夫を凝らした。荷物持ち以外の価値を持てるように勉強して、魔獣や迷宮に対する理解を深めた。戦いの支援ができるように、刻印魔石や罠の使い方を覚えた。戦い以外で支援できるように、野外料理や見張りの方法を習熟した。

 結局、僕はひとりで探索者にはなれない。それでも、パーティだったら――頼れる仲間がいるなら、彼女たちの力を最大限発揮できるように助けることができる。


「アヤメ、頭上に気をつけて!」

「っ!?」


 肩に力を込めて、投げる。

 とっておきの爆裂魔法を仕込んだ刻印魔石が一直線に真上に飛ぶ。

 縦にも横にも広い“黒鉄狼の回廊”の第四階層は、縦横無尽に細長い足場が行き交っている。そのひとつがガーゴイルの頭上にあった。投げた魔石が強烈な爆発を巻き起こす。手榴弾の白い光ではなく、実際の衝撃と熱を帯びた爆炎が広がる。

 根本から折れた足場が、支えを失って落下する。ガーゴイルが異音を察知して翼で身を包もうとする。鉄壁の盾として絶対の自信を持つ大翼。それがあったからこそ、避けるという選択肢が消えていた。

 金属が千切れる悲鳴のような音を響かせ、重量のあるダンジョンの構造物が落下する。壁や床といったダンジョンそのものはとても硬くて、爆裂魔法程度ではびくともしないはずだった。けれど、その上に構築された製造設備はその限りではない。

 鉄槌が下される。


「ゴアアアアアアアッ!」


 轟音の中を突き抜ける断末魔。粉塵が舞い上がり、埃がゴーレムの姿を隠す。

 落下する足場が直撃したゴーレムはまだ生きている。傷を負っているけれど、脅威は去っていない。けれど、強烈な打撃が頭を揺らし、動きが封じられている。生まれた隙は大きかった。

 青い光が溢れ出す。徽章のクリスタルから広がったそれは、形を持って現れる。

 周囲に満ちる魔力――マギウリウス粒子が具現化する。


「ガ、ガァア……。ガア……ッ」


 ガーゴイルが捻じ曲がった翼をぎこちなく動かし、のし掛かる超重量の足場を押し除ける。ふらふらと頭を揺らしながらゆっくりと立ち上がり、見渡す。さっきまで対峙していた相手を探す。そして見つけた。


「特殊破壊兵装“万物崩壊の破城籠手”――完全展開」


 再び籠手を展開したアヤメが臆することなく立っている。彼女の意のままに、宙を浮かぶ鉄拳が滑らかに動く。硬く握りしめた拳は破壊力の決意だ。


「固有シーケンス、“崩壊の号鐘”――発動」


 青の奔流。眩い光は殺到するゴーレムたちを吹き飛ばし、一瞬にして拳をトップスピードへ至らせる。向かう先、迷うことなく突き出されたのは必滅の拳。受け止めるのは忠実な番兵。


「ガアアアアッ!」


 叫ぶことしか許されなかった。それは逃げることができなかった。己に課せられた使命と、何よりも迫り来る凶拳の速度。鉄の躯体が潰れ、歪み、破裂する。吹き飛ぶ体は直後、頑丈な扉と衝突する。刹那の空白、直後の衝撃。鉄壁と鉄拳に挟まれ、すりつぶされる。

 籠手は青く輝く光の尾を伸ばして勢いを増す。加速する圧力がガーゴイルを圧殺し、なお止まらない。鉄壁に亀裂が走る。歪み、凹む。


「はぁあああああああっ!」


 アヤメが声を上げた。呼応して拳の光が爆発する。

 堅牢な壁を貫く。

 轟音を響かせながら、勢い余った力が瓦礫を吹き飛ばした。ガーゴイルが壁の向こうへと消えた。暗い闇が、広大な空間が奥に広がっていた。


「アヤメ!」

「中へ入りましょう。特殊破壊兵装を探します」


 全力を注ぎ込んだアヤメは疲労を滲ませながら冷静に語る。ふらふらと歩き出す彼女の体を支えながら、武器庫へと踏み込む。

 そこは第二階層の倉庫とよく似ていた。高い天井まで迫る棚が並び、そこに雷撃警棒や手榴弾が整然と収められている。これら全てが、現代の技術では再現できない強力な迷宮遺物なのだから凄まじい。全部と言わずともいくつか持ち帰るだけでものすごい稼ぎになるはずだ。

 でも物色している暇はない。追いかけてきたユリと共に、倉庫の奥へと進む。沈黙したガーゴイルを乗り越えて、最奥に。そこに、透明なガラスに覆われた台座があった。


「これは……」


 明らかに他とは違う。

 ガラスの内側で柔らかなクッションの上に置かれているのは、小さな徽章だった。キラキラと光を受けて輝くそれは、美術的な価値も高そうだ。

 けれど、アヤメたちはその真の価値を知っている。


「これが“黒鉄狼の回廊”の特殊破壊兵装?」

「はい。そのようです」


 二人も実際に見るのは初めてらしい。ガラス越しに鎮座するそれをまじまじと見つめる。青いクリスタルが嵌め込まれた銀色の徽章だ。アヤメやユリが身に付けている、待機状態の特殊破壊兵装とよく似た意匠が施されている。

 機装兵――それも、マスターを持つ者だけに使用が許された強力な武器。その力はさっき目の当たりにしたとおり、ダンジョンの頑丈な構造を破壊するほどの力を持つ。魔獣が溢れ出す危険を孕んだ迷宮をリセットできる、唯一の鍵。


「データリンクを実行。情報を取得しました」


 アヤメがパパパと細かく目を光らせる。何か調査をしたようで、彼女は目の前にある徽章の名前を口にした。


「第二世代ハウスキーパー専用、汎用射撃型特殊破壊兵装、“千変万化の流転銃”」


 長々しく物々しくいかめしい名前だった。見た目は美しい宝飾品のようだけど、そこに絶大な力を宿している。


「ヤック様、ブレードキーをこちらに」


 台座の中心を示される。僕が肌身離さず持っているマスターの証、半透明の青刃の短剣をそこにかざすと、光がキラキラと広がった。そして、音もなくガラスが消えた。


「これを持ち帰りましょう。我々には扱えませんが、ヒマワリならば使いこなせるはずです」


 そっと慎重にアヤメが徽章を手にする。胸元を飾る“万物崩壊の破城籠手”の徽章の隣にそれを並べる。

 ここまでかなりの勇み足だった。僕も彼女たちも疲労が隠せない。でも迷宮探索は帰るまでが本番だ。

 僕らは気合いを入れ直し、帰路に就く。

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