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第8話「見殺し」

 薄暗い通路の先に、小さな灯りが差し込んでいる。それを見た瞬間、僕は走り出したくなった。


「アヤメ、外だ!」

「そのようですね」


 迷宮“老鬼の牙城”が唯一外界と繋がるところ、崩れた大岩と柱が重なるとこにできた小さな隙間。その奥から差し込む光は間違いなく太陽の光だ。

 第二階層の未踏破区域からここまで、アヤメに守られながら歩いてきた。その間、魔獣にはたくさん遭遇したけれど、一度も救難隊に出会うことはなかった。それどころか、他の探索者すら見当たらない。

 それでも、ようやく出口までやって来た。


「外に出れば、すぐそこにパセロオルクがあるよ」

「パセロオルク。データベース検索にヒットしません」

「僕やフェイドたちが拠点にしてる迷宮都市だよ。あ、迷宮都市っていうのは、迷宮探索者のために作られた拠点のことで、パセロオルクは“老鬼の牙城”の側にあるから……」

「おおよそ把握しました。情報を記録します」


 “老鬼の牙城”自体がそんなに大きな迷宮ではないから、その恵みを受けているパセロオルクも規模で言えば小さな部類に入る。それでも、ギルドはあるし、宿や一通りの施設も備わっている。僕の故郷なんかよりはずっと立派だ。


「ふわぁ……! 戻って来れた!」


 迷宮の外に出ると、生い茂った緑が目の前に広がる。“老鬼の牙城”は森の中に半分埋もれたような迷宮なのだ。周囲には木々が連なり、足元には茂みがある。迷宮入り口から町までは、幾人もの探索者たちが踏み固めた道が続いている。


「アヤメ、ありがとう。アヤメがいなかったら、僕は死んでたよ」

「マスターの警護は最重要任務です」


 ダンジョンの外ならば、危険はない。僕は改めてアヤメに感謝を伝える。彼女は相変わらず素っ気ないけれど、深く頷いてくれた。


「ええと、ダンジョンの外は魔力も薄いけど、大丈夫?」

「問題ありません。B型近接装備が作動しています。戦闘行動を取った場合にはエネルギー収支がマイナスになりますが、平静状態であれば徐々に回復します」


 スポットでの一件を思い出して尋ねると、彼女はトランクに目を向ける。そこにある何かが働いているから、魔力が薄くても動くには問題ないらしい。


「それじゃあ、町に行こうか」


 アヤメを連れて、歩き出す。

 彼女は迷宮の外を全く知らないようだ。表情は変わらないけれど、忙しなく視線を左右に巡らせている。今度は僕が先導する番だと、少し張り切ってしまう。

 パセロオルクは森を抜けてすぐのところにある。立派な石塀で囲われていて、門もある。門の側には、警備団の見張りもいる。毎日のように迷宮へ潜る探索者にとっては顔馴染みだ。


「おーい!」


 森を出て、門番のおじさんに声を掛ける。すると、彼はぎょっとした顔で、慌てて町の中へと引っ込んだ。迷宮に取り残されていた僕が現れたから、驚いたんだろう。


「そういえば、アヤメのことはどう説明しようか」


 迷宮でひとりだったはずの僕がメイドを連れて帰ってくるというのもおかしな話だ。けれど、彼女が迷宮に眠っていた魔導人形だと言っても信じてもらえる可能性は低い。


「私は第404閉鎖型特殊環境実験施設第一施設保安部隊“アヤメ”の部隊長、HK-01F404L01です」

「ああ、うん。そうなんだけどね……」


 絶対に信じてもらえないだろうなぁ。

 そうしている間に町の門に辿り着く。ようやく安全な場所へ戻ってこられて、肩の力が抜ける。けれど、向こうの反応はいつもと違っていた。


「止まれ!」

「えっ?」


 槍がこちらに向かって突き出され、町への立ち入りを阻まれる。

 困惑する僕と平然と立つアヤメは、あっという間に警備団の人達に取り囲まれた。


「お前、本当にヤックか?」


 険しい表情のおじさんが現れて、開口一番に僕の正体を疑ってくる。ダンジョンに向かうにはこの門を通らなければならないから、彼とも顔馴染みだ。なのになぜ疑われているんだろうか。


「これでいいかな?」


 不安になりながらも僕は懐から身分証を取り出して示す。探索者としてギルドに所属していることを証明するカードだ。おじさんはそれをまじまじと確認して、本物であることを確かめた。


「ごめんなさい。救難隊が来るならスポットでじっとしているのが正しいのは知ってるんだけど、偶然アヤメが助けてくれたんだ」

「あ、ああ……。アヤメ?」


 話しながら、おじさんはそこでようやくアヤメの存在に目を向けた。

 外からやってきたメイド服姿の美女というだけで怪しいのに、迷宮から出てきた僕と一緒にいるというのも奇妙な話だ。もしかしたら、彼女のせいで疑われたのかもしれない。


「それよりも、フェイドは? メテルたちも無事?」


 アヤメのことを説明するのは難しい。話題を逸らす意味も兼ねて、気にしていたフェイドたちの安否を確かめる。おじさんは困惑しながらも頷いた。


「あ、ああ。四人は無事だが……」


 その言葉を聞いて安心する。フェイドたちは無事にダンジョンを脱出して、町に辿り着けたらしい。それなら、まずはフェイドたちに会って、無事を知らせないと。


「ギルドにいるのかな。早く会いたいんだけど」

「ま、待て! ちょっと待ってくれ」


 町の中に入ろうとする僕を、再びおじさんが止める。首を傾げる僕に、彼は真剣な顔でゆっくりと口を開いた。


「俺たちは……その、町に逃げ帰ってきたフェイドから、ヤックは死んだと聞かされてたんだ。迷宮に異常が生じたから、立ち入り禁止にしてくれ、と」

「……え?」


 顔色を悪くしたおじさんが放った言葉は、うまく理解することができなかった。

 僕が死んだと伝えられていた? フェイドから?

 町に戻ったら、きっと救難隊を送ってくれると思っていたのに。それすらなかったということ? しかも、迷宮を立ち入り禁止にするなんて。それは、つまり……。


「フェイドは……」


 僕を取り残して、見殺しにしようとした……?

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