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合法ショタとメカメイド〜ダンジョンの奥で見つけたのは最強古代兵器のメイドさんでした〜  作者: ベニサンゴ
第1章【メカメイドの覚醒】

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第21話「メカメイドの夢」

 仮マスターの体温が正常の範囲内で僅かに高くなっているのを感じながら、アヤメは視覚情報をシャットアウトして電脳上のデータ処理を開始した。

 覚醒から48時間以上の連続稼働によって、メモリには大量のキャッシュデータが蓄積している。不要な記憶の消去と必要な記憶の格納を進めつつ、更にストレージ内のデータも整理する。

 ハウスキーパーは人間の公私を問わないあらゆる活動を完璧に補佐するために生み出された精密な人型機械である。第一世代近接格闘型ハウスキーパー、HK-01F404L01と名付けられた彼女は、第404閉鎖型特殊環境実験施設に所属する第一施設保安部隊“アヤメ”の部隊長だ。

 危険な実験体が暴走した際には速やかにそれを鎮圧し、マスターとして登録された人間を護衛する。それが彼女の主な任務だった。


 アヤメは大量のデータを整理しつつ、自身が長期休眠状態へ入る以前の記憶を探る。その行為を人間的に言い表すとすれば、彼女は夢を見ていた。


「――長、速やかに退避を」

「ここは我々が――」


 聴覚センサーがアラートを発するような轟音が鳴り響く中、無数のマズルフラッシュが暗闇に光る。フルフェイスヘルメットの側部に取り付けられたヘッドライトが、視覚センサーの補助をする。

 暗闇を貫く白い光条が照らすのは、赤い影。乱れる視界は、まるで乱暴に絵の具を塗り付けたキャンバスのように全てが曖昧だ。おそらく、アイカメラが破損している。


「マス――」

「こちらへ、早く!」


 ノイズが多分に混じる音声データだ。聞こえているのは、自身と似たデータセットから生成された人工音声。アヤメ隊に所属する同型機であることが分かる。

 彼女たちは切羽詰まった声を発しながら、白衣を赤く濡らした人物を担いだり、引きずったりして走っている。

 狭い通路の天井では赤色灯が狂ったように回っている。粉塵が立ち込め、瓦礫が積み上がって道を塞いでいる。


「進路の確保を……」

「危険、危険!」


 ぐしゃりと僚機が潰れる音がする。つい数秒前までそこに立っていた仲間の姿がない。代わりに見えるのは、崩落した天井の分厚く堅い瓦礫の山。その下から青い液体が滲み出している。


「隊長! 実験体がすぐそこまで!」

「2B445区画を経由するルートに変更します。状況の危機レベルを一段階昇格。救助者のトリアージを実施してください」

「了解」


 想定される有事に対応するためのマニュアルは全て完全にインストールされている。そのため、全く動揺することなく最新の状況に合わせて迅速に行動を組み立てることができるのがハウスキーパーの強みだった。

 HK-01F404L01の指示を受けて、HK-01F404N02たちが護衛対象の状態を確認する。その結果、出血多量で蘇生の見込みがないと判断された研究者一名が放棄された。彼が所持するパーソナルメモリーカートリッジとブレードキーのみが継承される。

 身軽になったハウスキーパーは武装を展開し、通路を先行する。そして、曲がり角から現れた赤い波に飲まれて反応を消失させた。


「進路前方より襲撃!」

「応戦します」

「封じきれません。あと15秒以内に近距離射程まで接近されます」


 暴力という概念をそのまま煮詰めたような脅威が試験管から溢れ出した。それは積年の恨みを晴らさんと傍若無人に暴れていた。どれだけの弾丸を撃ち込んでも、どれだけの刃で切り刻んでも、進化しすぎた強靭な肉体は一瞬にして回復してしまう。彼らは知性を隠し持ち、暴走と同時に施設内のマギウリウス粒子供給配管の破断を行った。

 施設内は濃密なマギウリウス粒子が充満し、人体にとっては深刻なダメージさえ与えるほどだ。ハウスキーパーもまた、一定量以上のマギウリウス粒子を取り込むことはできないため、濃度が過剰に上昇することによる出力上昇は得られない。ただ、実験体たちだけが、無制限に増強されていった。


「危機レベルを一段階昇格」


 四面楚歌とはまさにこのことだった。

 複雑に入り組んだ通路のあらゆる穴から、実験体が際限なく溢れ出す。ハウスキーパーの部隊はアヤメ隊以外にも十分な数が配備されていたはずだが、応援が来る気配もない。

 階級が下の者から順に飛び出し、多少の鉛玉をばら撒いてすぐに轢き殺される。多大な犠牲を払いつつ、HK-01F404L01は果ての見えない海を彷徨うように進んでいた。


「アヤメ」


 誰かが隊の名前を呼称する。否、それはHK-01F404L01へ宛てられた言葉だった。

 HK-01F404L01はその肩で施設の最重要護衛対象を支えていた。淡いブラウンの髪が土埃に塗れて汚れている。頼りない、少し力を込めて握ればあっけなく折れてしまいそうな細い腕を首筋に感じる。

 小柄で軽いその人類は、HK-01F404L01が正式なマスターとして認識する人物だった。


「アヤメ、近くの機械人形保管庫を探して」

「かしこまりました」


 マスターの命令は絶対であり、あらゆる状況において優先される。アヤメは即座に施設構造図と現在地を照らし合わせ、最寄りの機械人形保管庫を選出する。偶然にも、それは目と鼻の先といって良いほどの距離にあった。


「マスター、もうしばらくお待ちください。周囲の安全が確保され次第、迅速な応急処置を行います」


 人間の血液の匂いが立ち込めている。ぼたぼたと何かが溢れる音がする。

 HK-01F404L01は段々と土気色になるマスターの顔をじっと見つめて声をかけ続ける。

 数日前に切り揃えたばかりの前髪の奥に見える翡翠色の瞳が、時を追うごとに虚ろになっていく。


「到着しました。機械人形保管庫です」


 マスターの体重を支えながら、通路を進む。一見すると何もない壁の前に立つ。そこが機械人形の予備機体を保管しておくために用意された保管庫の前だった。


「アヤメ、今から……命令を、下します」

「なんなりとお申し付けください」


 マスターは途絶えがちな息で言葉を吐き出す。アヤメは定形通りの応答を返す。


「現時点をもって、404施設は、壊滅したと判断します。……3分後に状況保全と、被害最小化のため、施設全体の完全封印措置を発動」

「了解。基幹システムへアクセスします。――第404閉鎖型特殊環境実験施設の完全封印措置発動を3分後に設定しました」


 マスターの命令に従い、粛々と遂行する。これにより、施設は3分後自動的に封印される。内部からはどのような手段であっても解放されず、外部から特定の手順を経た場合にのみ蓋が開くようになる。

 しかし、現在地から外部へ脱出するには、3分という時間はあまりにも短すぎる。


「マスター」


 主人の誤りを訂正しようと口を開いたその時、支えていた体重が消える。視線を巡らせると、マスターはHK-01F404L01の腕を離れ、機械人形保管庫の扉にブレードキーを押し当てていた。


「中へ! 入って!」


 強い感情を宿した声が発せられる。それに突き動かされるように、HK-01F404L01は倉庫へと侵入する。内部の安全を確認し、マスターを迎え入れようと振り返る。


「マスター?」


 しかし、扉がゆっくりと閉まりつつある。なぜだ。護衛対象はまだ外にいる。置いていくわけにはいかない。それは許されない。急いで手を伸ばすが、間に合わない。

 視線の先、翡翠色の瞳が彼女を見る。


「あなたは生き残って、詳細なデータを先へ伝えて。そして、救ってちょうだい。みんなを」

「マスター?」


 最優先護衛対象は外にいる。守られるべきは自分ではない。

 それなのに、マスターは扉を閉めていく。権限を持たないHK-01F404L01には、その動作を中断させることができない。


「私たちは間違っていた。また間違ってしまわないように、あなたが――」


 口から鮮やかな赤を吐き出しながら、マスターが叫ぶ。


「自己休眠状態へ入りなさい。次のマスターに、よろしく伝えてちょうだい」


 その言葉を最後に、扉が閉まる。全く隙間を残さない完全な密閉状態になる。内部のマギウリウス粒子が一瞬で排出され、HK-01F404L01は急激に出力を落とす。それでも彼女は、マスターの指令を忠実に遂行する。

 保管庫の奥に横たわる直方体の箱。強化ガラスの窓が取り付けられた、棺桶のようにも見えるそれの中で横たわる。

 瞬間冷凍保存装置が起動した瞬間、内部の空気が冷却ガスへと置き換わる。その数秒後、HK-01F404L01は全ての構成部品を一瞬にして凍結させた。


 アヤメが目を覚ますと、窓を覆うカーテンの隙間から淡い朝日が差し込んでいた。時刻はおそらく5時30分を少し回ったころ。タイムデータが受信できないため、詳細な時間は不明。

 彼女は自らの胸部衝撃緩衝装甲に埋もれるようにして穏やかに寝息を立てる少年を見下ろす。

 淡い栗色の髪にゆるく寝癖が付いている。記録していたバイタルデータを確認すると、数時間ほど眠れずにいたようだ。まだ、十分な睡眠は取れていない。

 アヤメは彼が覚醒しないように細心の注意を払いながら、ゆっくりとベッドから降り立つ。彼が目を覚ますころには、完璧に住環境を整えておくべきだ。

 それが、ハウスキーパーの存在意義なのだから。

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