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バッド君と私  作者: コヒまめ
本編
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第三十八話①『バレンタイン』



 週明けの休み時間、廊下を歩いているとふと伊里とすれ違った。彼はみる香に小さく会釈をしてくる。


 みる香も彼に習って会釈を返すとそのまま通り過ぎていった。そうだった。彼も天使なのだ。


 ダブルデートの時とハロウィンパーティー以外で彼との関わりはなかったが、バッド君や桃田と同じように彼も誰かのサポートをしているのだろう。


 みる香が知らないだけでもしかしたら身近な人物が天使である可能性もあるかもしれない。


 そんなことを思いながらみる香はもう一つのことを頭に浮かべた。


(バッド君が私を選んでくれて本当に良かった)


 彼がいてこその今のみる香であるのだ。バッド君がいなかったら、友達は愚か、彼を好きになることも恋心を知ることもなかった。


 それに、勉強の要領だって彼に教わらなかったら悪いままだった。バッド君のことを考えると次第に彼への愛しさが増してきた。


『バッド君、今どこいる?』


 みる香はテレパシーを送っていた。何だか無性に彼と何かしらの接点が欲しくなっていた。


 するとすぐに彼からのテレパシーが返ってくる。


『今教室にいるよ。どうしたの?』


『あ、ううん何となく。私ももう教室着くから今行くね』


『分かったよ。待ってるね』


 そこでテレパシーは終了し、自分のクラスであるC組に足を踏み入れるとバッド君が手を振りながら「こっちだよみる香ちゃん」と手を振ってきた。


 ただ手を振ってくれているだけなのだが、その行為がとてつもないほどに嬉しく感じてしまう。本当に自分は、バッド君に釘付けになっている。


 そう自覚しながら彼のいる座席へ近付いていった。


「みる香ちゃんこれあげるよ」


「え」


 途端に彼に手渡されたのはみる香が大好きなほうじ茶の飴だった。これは以前、みる香がバッド君にあげた飴と全く同じ種類のものだった。


「あ、袋ごと渡しとくね」


 そう言うとバッド君は鞄の中から未開封の飴を一パック取り出し、みる香に渡してくる。何がなんだか分からなかった。


「フリーズしちゃってるよみる香ちゃん、最近見つけたから買ってみたんだ。君が好きだって言ってたから」


 バッド君は爽やかに笑いながらそう言ってくる。


 しかし友達からなんでもない日にこんな一パックごと渡して貰えるとは思わないだろう。


 みる香は嬉しい気持ちが身体中を満たし、僅かに赤らんだ顔でありがとうとお礼を言った。彼の気持ちが嬉しかった。


(私の好きなもの、思い出してくれたんだ)


 彼の記憶力が秀でていることはよく理解している。


 しかしこうして、お店の陳列棚にある商品を見てみる香の好物を思い出してくれることがこの上なく嬉しいと思う。


 みる香は大事そうに袋を抱えているとバッド君も嬉しそうにどういたしましてと口にした。


 そうして急に顔を近づけ第三者に聞かれないためか小声でこんな言葉を口にする。


「ちょうど君に渡したいと思ってたんだ。タイミング、凄くよかったね」


 テレパシーを送ったタイミングのことを言っているのだろう。彼の意見には同意するが、しかしこの距離は反則である。


 みる香は勢いよく身体を彼から離すと真っ赤になった顔で抗議の声を上げた。


「近いよっ!!!」


「あはは、ごめんごめん」


 みる香は彼を軽く睨みながら袋をぎゅっと掴み、自席へと戻り始めた。


 すると二人の様子を見ていたのか檸檬と颯良々がこちらにやってくる。


「何々、また半藤が何かしたの? あんた、みるの免疫のなさ知ってるでしょうに」


「も〜半藤、森村ちゃん揶揄うのやめてよ」


「え〜二人とも厳しいなあ。だってみる香ちゃんの反応面白いんだもん」


 そう言って困ったように笑いながら後頭部を掻き始める。すると今度は口元を緩ませながら言葉を付け足してきた。


「可愛くてさ」


 好きな人に他意はなくとも、可愛いと言われることがどれだけの喜びを与えるものなのか、彼はきっと知らないのだろう。


(元タラシだもんね……)


 そう思いながらも赤面は止まらず、みる香はバッド君への気持ちを再確認していた。




 放課後になり、トイレを済ませてから帰宅しようと廊下を歩いていると急に目に痛みを感じた。ゴミが入ったようだ。


 しかしあまりにも痛すぎるせいか涙が出てくる。そのまま目を擦っているととある声が耳に入ってきた。


「あれ、みる香ちゃん何してるの?」


 バッド君だ。彼は困惑した様子でみる香に近づく。


 そしてやけに珍しく取り乱した様子で「え、泣いてる!? どうしたの!!?」と尋ねてきた。


 痛みのせいで結構な涙を零していたみる香はそのままの状態で「目にゴミが入って痛いだけだよ」と返すとすぐに「擦っちゃダメだよ」と手を掴まれる。


「目が傷ついちゃうから止めてね? これ使って」


 バッド君はそう言ってハンカチを渡してきた。彼にハンカチを借りるのは三度目だ。いつもハンカチを常備しているバッド君は衛生管理がしっかりしている。


 そんな事を思っていると目の痛みが消えていることに気がついた。


「あれ、治ったかも」


「ほんと? あ、待ってみる香ちゃん、まつ毛が瞼の下にあるよ」


 そう言って彼はみる香に近付くと「じっとしててね」と言ってみる香の瞼に触れてきた。どうやら黒目にまつ毛が入って痛かったようだ。


「はい、取れたよ。さっき手洗ったばかりだから安心してね」


 そう言って爽やかに笑うバッド君を前にみる香は少し気恥ずかしくなる。


 数秒とはいえ距離が一気に縮まったのだ。緊張しないわけがなかった。


 気持ちを逸らすためみる香は思いついていた言葉を彼に放つ。


「あ、ありがと……バッド君、珍しく取り乱してたね。意外」


 するとバッド君は一瞬無言になるとそのまま自身の首筋を触りながらこう口にした。



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