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バッド君と私  作者: コヒまめ
本編
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第二十四話②『新学期』



 文化祭の出し物は飲食店に決定した。女子は可愛らしいメイド服を、男子は執事の衣装を制服として身に纏いおもてなしする喫茶店だ。


 飲食店に決まった時は、みる香も想像が膨らみ、友達と楽しく文化祭を過ごすイメージが湧き始めていた。


(楽しみだな)


 文化祭の準備でしばらくは忙しくなりそうだが、忙しくなることに不満は全くなかった。文化祭という大きなイベントに気持ちが昂っていた。


 放課後になると早速文化祭の準備は始まった。


 クラスメイト達は部活のない生徒に残るよう声をかけ、買い出し組や内装組、外装組と各自割り振られた役割に取りかかり始める。


 みる香は内装に任命され、実行委員の指示に従っていた。


 檸檬は部活で今日は一緒に準備ができなかったが、不思議と不安はなかった。


 そう思えるということは、前よりは自分も成長しているのかもしれない。そう思えることが嬉しかった。


(まあ話せる人はいないんだけど……)


 とはいえ、クラス内でみる香が話をするのは檸檬とバッド君だけだった。黙々と作業をするのはみる香の予想通りである。


(いや、でも……)


 誰かに話しかけてみようか。そんな気が起きているのはみる香の間違いようのない変化の証だ。


 別にいざこざがあったわけではないのだから、このような機会に話しかけるのは変な話でもないだろう。


「あの……文化祭、楽しみだね」


 みる香は隣で同じく黙々と作業をしていた一人の女子学生に話しかけた。


 すると彼女はかけていた眼鏡をくいっと掛け直すと「ね、既に文化祭テンションだよ」と言葉を返してくれた。


 クラスの中心グループともよく会話をしているこの女子学生――#飯島颯良々__いいじまさらら__#はみる香が突然話しかけても全く嫌な顔をせずに声を返してくれる。


 みる香は勇気を出して良かったと心から思った。これこそが俗に言う文化祭マジックというものかもしれない。


 その後も作業が続く中、飯島とは色々と話を続けていた。


 みる香から質問をすることもあれば、彼女の方から何かを聞いてくれることもあり、充実した時間を送っていた。


 雑談をしながら作業を続けているといつの間にか最終下校のアナウンスが流れ始める。


「お疲れー」


「お疲れ! また明日も頑張ろうね」


 みる香に声をかけてから教室を出ようとする飯島にそう言葉を返すと彼女は笑みを向けながら頷き、教室を後にした。それだけでも十分だった。


(まだ友達……とはいかなくても楽しかったな。色んな話できた)


 みる香は初日から調子がいいと実感しながら気分が上がった状態で帰る支度をする。


 気分が良いついでにと紅茶を買って飲みながら帰ることを思い至ったみる香は軽い足取りで中庭へと向かうことにした。


(昨日業者さんが自販機の補充してるの見たから売り切れはないだろうな!)


 そんな事を考えながらもう既に誰もいないであろう中庭の中へ足を踏み入れると随分前に見た光景が再びみる香の視界に映し出されていた。


 そこにはバッド君と女子学生が何かを話していた。


 小声で話しているようで、声こそ聞こえるものの内容までは聞こえてこなかった。雰囲気的に告白ではなさそうだ。


「…………」


 話しかけようと思っている自分がいた事に気付いたみる香は瞬時にその考えを否定した。


 バッド君が話している女子学生はみる香と面識も何もない。そんな二人の間に立ち入って何をしようというのだ。


 自分の考えを頭から追い出し、二人に気づかれないようさっさと用事を済ませて立ち去ろうと自動販売機にスマホをかざす。


 しかしそこで肝心なことが頭から抜け落ちていた事に気付く。


 そう、自動販売機で商品を購入した際には必ず『ピッ』という音が鳴るのだ。


 その事を失念していたみる香が気づいた時にはもう既に紅茶は自動販売機の取り出し口に落ちており、そんな音で中庭に佇む男女はみる香の方に視線を向けてきた。これは当然の結果である。


「みる香ちゃん」


 案の定、みる香に気付いたバッド君は名前を呼んでくる。


 いや、バッド君なら元々気付いていた可能性は高いのだが、彼の様子を見ると今初めてこちらの存在を認識したようだった。


 みる香は苦笑いをこぼしながら「また明日」と声を放った。


 いつもより他人行儀になる理由はバッド君の隣にいる女子学生の存在が大きかった。


 彼女は面白くなさそうな顔で、みる香に視線を向けていた。


 その視線は以前の柿枝の目線によく似ている。


 みる香は決してあの女子学生に遠慮しているわけではなく、単にそういった視線を向けられるのがもう嫌だった。


 そのまままだ取り出していない紅茶を取り出し口から持ち出すとみる香は急ぎ足で中庭を後にする。


 バッド君は何かを言おうとしていたようだが、彼女の視線から逃れたかったみる香は立ち止まろうとは思わなかった。


(なんか、最後無駄な動きした気がする……)


 紅茶など買いに来るのではなかったと思いながらはあと深く息をついたみる香はいつの間にか自分が下駄箱まで辿り着いていたことに気がついた。


 そこでみる香は下駄箱に靴以外の何かが置かれているのを目にする。その何かは一枚のメモ用紙で、書き置きをした人物はバッド君だった。


「え……」



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