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バッド君と私  作者: コヒまめ
本編
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第七話②『ダブルデートに罪悪感』



「つまり桃田さんからしたらみる香ちゃんて敵の分類になっちゃうんだよね」


「て、敵っ!?」


 その発言にみる香は思わずバッド君を見上げる。バッド君は悪びれた様子もなく「そうそう」と言うと再び言葉を繋げた。


「想像してみて。好きな人をデートに誘ったらダブルデートに変更されて、しかも追加メンバーは好きな人と噂になっている女の子。最悪でしょ?」


 確かにそれは最悪だ。最悪にも程があるのだが、それは全てバッド君がやっている事ではないか……とそこまで考えてみる香は自分も共犯であることを実感する。


 改めてよく考えてみると桃田にはとんでもなく申し訳ないことをしている気がする。


 友達が欲しいからといって彼女をこのような形で巻き込むのは間違いだったのかもしれない。


「……やっぱりやめようかな」


「ん?」


 みる香は桃田の事を思うと友達作りどころでは無くなっていた。


 彼女が真実を知ることはないだろうが、みる香の良心が持ちそうにない。乙女心を利用するなど、悪質ではないか。


「バッド君には悪いけど私今日行かない」


 みる香は足を止めて彼にそう告げる。このまま自分は参加しない方が良いだろう。


 対するバッド君はそのみる香の発言に焦る様子は見せず返答をした。


「同情しても俺は桃田さんとどうにかなる事はないんだしさ、君が後ろめたく思う必要はないよ」


「それは知ってるけど……」


 言葉を返そうとするも珍しくバッド君に次の言葉で遮られてしまう。


「大丈夫だって、みる香ちゃんは彼女と友達になることだけ考えておきなよ」


 バッド君はそういうとみる香の腕を掴み、そのまま引っ張っていく。


 みる香は振り解きたかったが、みる香より遥かに大きな彼の力には敵わずそのまま遊園地へと辿り着いてしまう。


 バッド君にしてはやけに強引なその行動にみる香は不信感を抱くが、現地に着いたことで待ち合わせ相手の二人が目に入り、咄嗟に近距離にいるバッド君から距離を取った。


 この男、わざとしてるようにも見えるのだが……。みる香はバッド君を軽く睨むがすぐに視線を他の二人に移して駆け寄ると「おはよう」と挨拶をした。


「……半藤君と一緒に来たの?」


「たまたま会ったんだよ!」


 みる香はここで一つ気がかりであったコミュ障が発症していないことに気がついた。


 檸檬とは今では難なく会話ができていたが、他の女子生徒とは会話をする機会が未だになかった為、うまく話せなかったらどうしようという不安が残っていた。


 しかしこの調子だと問題はなさそうである。みる香は自身の成長に嬉しさを感じながらも頭を瞬時に切り替える。


(このデートを、どうしよう)


 みる香は桃田とバッド君を恋人にさせたいと思っている訳ではないが、みる香の目的のために彼女の恋心を利用しようという彼の手段を選ばない作戦に乗る事は気が引けた。


 たとえもし、これで桃田と友達になれたとしてもみる香の気持ちは複雑だろう。


 目の前にいる桃田、バッド君、そして隣のクラスの伊里いさとを軽く見回しながらみる香は決意した。帰ろうと。


 するとそんなみる香を止めるようにバッド君は急に声を出し始めた。


「じゃあ早速行こうか」


 爽やかな満面の笑みでそう言う彼はとても見た目だけでは中身が最悪だと気づかないだろう。悪気がなさそうなのがまた最悪で最低だ。桃田も騙されているのだ。


 だが、そうであったとしても桃田のバッド君への気持ちは本物で他人が否定していいものでは決してない。


 みる香は帰るタイミングを見計らっているとバッド君に「頑張ってね」と耳打ちされる。


 いつもはそんな事などしないのに妙に距離を詰めてそう言ってくる彼にみる香は思う。こんなところを桃田が見てしまったらどうするつもりなのだろうかと。


 バッド君の態度はわざと桃田に見せつけているようなそんな気配が窺える。考えすぎなのだろうか。


 みる香には桃田と友達になるようにと言っておきながら先ほどから彼の行動はまるで桃田を刺激するようなものばかりだ。 


(でも、バッド君が昇格に不利になりそうなことするかな……)


 この数週間で、バッド君の異常とも言えるほどの昇格への執念はみる香も分かっているつもりだ。


 情より昇格を第一と考える彼が、昇格に直接響く契約者であるみる香の不満を自ら作り上げるメリットはどこにもない。


 ならなぜ彼はこのような事をするのだろうか。みる香は平凡な頭を必死に働かせるが、全く納得のいく答えは見つからなかった。


 遊園地のチケットを買おうとみる香を含めた四人は券売機へ歩き出す。しかしみる香はそこで足を止めた。


「バッド君」


「みる香ちゃんどうしたの?」


 立ち止まりついてこないみる香を振り返る彼はいつもの調子で相変わらず爽やかな笑顔を向けてきた。


 みる香はそっと顔を上げてバッド君以外の二人が少し離れた距離にいることを確認すると、彼の顔には目を向けず声を発した。


「今回ばかりはやっぱり目を瞑れない」


「え?」


「バッド君は乙女じゃないから分かんないだろうけど、女の子の心は繊細なんだよ!! 今回は流石に無理! こんな事するくらいなら友達もいらない!! 悪いけど私帰るね!!」


 そう言ってみる香は一目散に駆け出した。バッド君に引き止められないように全力で逃げたのだ。


 何も言わずに置いていってしまったあの二人には勿論、計画を練ってくれたバッド君にも多少の負い目はあったが、彼の作戦や意図の読めない行動がそれを吹き飛ばしていた。


「ええ~……帰っちゃうの」


 次第に小さくなっていく小柄なみる香の姿を呆然と見続けながらバッド君はポツリと言葉を残した。




第七話『ダブルデートに罪悪感』終


                       next→第八話

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