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バッド君と私  作者: コヒまめ
本編
13/91

第六話①『相談と雑談』



「遊園地に行く事になったよ。定番だよね」


 昼休みになると屋上でバッド君と落ち合う。檸檬に怪しまれないために昼食だけは教室で済ませ、用事があると言って抜け出してきていた。


 正直、隠れてコソコソしているのは否めないのでこのように人気のない場所でバッド君と会うのは気が乗らなくなっていた。


 しかしいくら便利とは言っても長くなりそうな話をテレパシーだけで会話するのは面倒だ。


「何時から集まるの?」


「えーっとね……」


 そう言うとバッド君はレインのトーク画面を動かし始める。時間を確認しているのだろう。


 みる香はそんな彼の仕草を見ながらふと思ったことを口にする。


「バッド君、その気がないのに桃田さんと連絡先交換してるの?」


「ん?」


 バッド君はみる香の意図を理解したのか爽やかに笑い出すとその台詞を肯定した。


「うん、まあお願いされたら交換しちゃうよね。それにこうして計画立てるのにも便利だしさ」


 そう言って手に持ったスマホを軽く振ってみせた。みる香はその様子を見てバッド君に再度口を開く。


「あんまり期待させない方がいいんじゃないの……? 自分にも脈があるって思われたら、桃田さんが可哀想なんじゃない?」


 みる香は恋愛の事はよく分からない。だが、自分の前で毎日楽しそうに想い人の話をする檸檬の姿を知っているみる香はそんな事を思ったのだ。


 みる香はバッド君に懸念していた事を告げるもバッド君は特に気に留めた様子はなく笑顔で答え始める。


「だけど桃田さんのことそこまで気にしてないからね~俺は自分がしたいようにするだけだよ。気を使う必要性も感じないしさ」


 冷たいと思う。だがそれがバッド君なのだろう。正直みる香に対するバッド君の態度も中々に酷いものだった。


 彼は目的があるためみる香の友達作りには文句一つない程に力を貸してくれるが、それ以外のことでは本当に他人事だ。


 みる香もバッド君に協力さえしてもらえればそれでいいと思っている為、このように冷たいとは感じても悲しくなることはないのだが、バッド君に想いを寄せている桃田のことを考えると同情の気持ちが芽生えているのも事実だった。


「もう一つ話したいことがあってさ」


 バッド君はみる香の考え事を阻止するかのように唐突に話の話題を変えるとすぐに本題を切り出してくる。


「そろそろ修学旅行の班決めがあるよね? 念のため同じ班になっておいた方がいいと思って」


「あ……」


 バッド君の言う通り五月の下旬には修学旅行が予定されており、班決めはみる香も危惧しているところだった。


 檸檬とは間違いなく同じ班になるとは思うが、班は二人だけでは成立しない。それにみる香の学校では男女を交えた班が絶対視されているため少なくともあと二人の男子生徒を班に引き入れる必要があった。


「みる香ちゃんは勿論、夕日さんと同じ班になると思うし俺も一人誰かを誘っておくから四人班になるのでいいかな?」


「檸檬ちゃんバッド君の事反対しないかな……」


 バッド君の話にはみる香も反対するところがなかった。彼が同じ班にいれば友達作りの先導者として安心できるからだ。


 しかしみる香が不安に思う要素は檸檬の事だった。檸檬はバッド君がみる香の友達作りの為に自ら悪役になった事を知らない為、彼に対する印象が悪いままである。


 みる香はバッド君に懸念点を告げるが彼は相変わらず楽しそうに声を出す。


「大丈夫だよ、俺が策を考えておくから」


「? 策って何!?」


 気になったみる香は即座に問い掛ける。バッド君の頭の回転が速いことはここ数週間の付き合いで分かってきていた。彼にはもう対策とやらが頭に入っているに違いない。


「あはは、まだ他にも方法がないか考えようと思ってたんだけど、気になるなら話しておこうかな」


 そう言葉を口にするバッド君はみる香の予想した通り既に策を考えていたようだ。


 そのままバッド君の話を聞く体勢に入ったみる香を見ながら彼は詳細を話し始める。


「簡単に言うと、君には夕日さんに俺への印象を良くしてもらう必要があるんだよね」


「……そうだよね」


「そうそう。修学旅行の班決めさえなければこのままでも良かったんだけど、そうもいかなくなっちゃったねえ」


 バッド君はそんな事を言いながら参っちゃうよね~と頭を掻いている。しかしみる香はその話を聞いて安心していた。いくらきっかけ作りのためとはいえ、仲の良い友達にとってバッド君の印象が悪いままなのは何だかいい気分ではなかったのだ。


 バッド君は友達ではないが、みる香の味方で協力者だ。自分にとって重大な存在である二人が誤解のせいで不仲なままなのは嫌だった。


「早い方がいいから、早速今日やっちゃおうか」


「うん! すぐの方がいいよね!」


「お。みる香ちゃんやる気だねえ~」


 バッド君はそう言って爽やかに笑い出す。そして「じゃあ具体的な内容だけど」と言葉を口にした途端、昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴り響いた。


 みる香は残念な気持ちになりながらじゃあまた後で教えてとその場を去ろうとする。しかしバッド君はそんなみる香を呼び止めてきた。


「せっかくだからこれも作戦に組み込もうよ」


「え?」


 何を言っているのだろうか。訳がわからないみる香はとりあえずバッド君を振り返り、疑問の声を口にする。


「これも作戦にってどういうこと?」


 するとバッド君は涼しげな顔をしたままとんでもない言葉を口にした。


「うん、このまま授業サボっちゃおうと思ってさ」


 あまりにもにこやかにそう言うバッド君をみる香は思わず二度見する。今、この天使はなんと言ったのだろうか。


「ああ、安心してよ。別にずっとサボる訳じゃないから」


 そういう問題ではないのだが、バッド君はそんなみる香を気にすることなく急に地面に座り出す。居座るつもりなのは確定のようだ。


「十分くらいでいいかな。その間に策を話しちゃうね」


「……策のためにサボるってこと? それとも話をしたいからサボるの?」


 みる香にとって前者と後者とでは話が大分変わってくる。後者であるなら、今すぐにでも教室に向いたい気持ちが大きかった。授業をサボったことなど一度もないみる香はそんな不良のような事は絶対にしたくなかったのだ。


 するとバッド君は質問には答えず笑いながらこんな言葉を口にした。


「みる香ちゃんて不思議だよね、授業中の手紙交換には抵抗ないのにさ」


 そう言ってまたおかしそうに笑い出す。みる香は図星をつかれてたじろぐが、すぐに言葉を返した。


「じゅ、授業に出ないのは嫌なんだもん! 目立つし……」


「さっき知った情報なんだけどさ、五時間目は先生が休みで自習らしいよ」


「え!?」


 自習だからといってサボることに抵抗がない訳ではないが、教師に叱られる事はなさそうである事に安堵する。だが自習が一日に二回もあるのは中々に珍しい事だ。


 みる香は不思議に思いながらもついていると思う事にした。そんなみる香を涼しげな顔で変わらず見つめるバッド君は「じゃあ話してもいいよね?」と言葉を続けてくる。



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