第8話
(1カ月も空いてしまいました……)
中立都市を守る戦いが今、始まる!!
藍染らが蛮族モンスターのアジトへ進軍する一方、中立都市の正面入り口前にて。
中立都市に迫る蛮族の群れ。
蛮族に成れ果てたゴブリン、オーガ、エルフ、そして人間……。
中立都市に目をつけ、中立都市のあらゆる物を奪い、破壊し、自分の欲を満たすために群れとなって攻め込んでいた。
それに対し、中立都市を守らんと冒険者と治安部隊が立ちふさがる。
二つの勢力はまもなくぶつかろうとしていた。
「おいおい、こんな大群今まであったか?」
「たまに5、6人で徒党組んでる時がたまにあるけど、これ軍隊よ……」
「うう……緊張してきた……」
フレンとリエ、エリの双子は緊張のあまり、身震いしていた。
フレンは幾度か危険な目に遭っていたが、このような大規模の戦闘は初めてだった。
双子達も同様だった。
「ビビってんじゃないわよ。お祭りだと思えばいいのさ」
エルデナは槍を回しながら不敵な笑みを浮かべた。
「そうだぜ、今夜は祭りだ。中立都市を侵略するバカ共を血祭りにしてやるのさ! 一人残らず切り刻んでやるぜ」
エーレイルは狂気的な笑みを浮かべ、蛇腹剣を握りしめていた。
「ひい、こ、この人怖いよ……」
エーレイルにビビるエリ。
「あははは……あたしもこの人はちょっと……」
苦笑するリエ。
「なんか言ったか?」
リエに顔を向けるエーレイル。
「な、なんでもないわよ! おほほほ……」
冷や汗をかきまくるリエ。
「さて……そろそろ時間だ。双子共サポート頼むわよ」
エルデナはそう言って前へ進む。
「わかったわ」
「は、はい!」
双子もあとに続く。
「フレン。お前は治安部隊の銃撃部隊と組みな。もちろん弾はこっちで支給してやるし、ついでにライフルとかも貸してくれるぞ」
「マジか!? わかったぜ!!」
フレンはテンションを上げて全力で駆け出して行った。
「さて、あたしも行くか……」
防衛部隊の配置はこのようになっていた。
前衛にはエーレイルやエルデナといった近接戦を得意とする者。
後衛には魔法を扱う部隊。
そして左右に前衛から離れている部隊はそれぞれの飛び道具を装備した部隊。
見張り台の方には狙撃銃を構えた治安部隊。
前衛、後衛の大半は冒険者で構成され、飛び道具部隊はその逆でほとんどは銃火器で武装した治安部隊と弓やボウガンで武装した冒険者で構成されていた。
ちなみにフレンは飛び道具部隊につき、さらに治安部隊からマシンピストルを借りた。
前衛は向かってくる敵と正面からぶつかり、後衛の魔道士は攻撃魔法で後続の敵部隊に攻撃。聖術師は補助魔法で事前に補助魔法をかける。
そして左右の飛び道具部隊は側面からの援護射撃。
これらの考案は全てエーレイルの考えた陣形であった。
前衛部隊に補助魔法をかけ終え、エーレイルは前に出る。
「さて……おっぱじめようぜ! 突撃!!」
『うおおおおおおおおお!!』
前衛部隊は蛮族の大群にめがけて突撃し、衝突し始めた。
後衛部隊の魔道士らは攻撃魔法の呪文を唱えはじめた。
補助魔法かけていた聖術師らの一部は補助魔法による援護。残りは負傷者の回復担当に回った。
飛び道具部隊は一斉に射撃を始めた。
かくして中立都市の防衛戦が始まったのであった……。
一方で森林に入った藍染達。
次々と蛮族が襲撃を受けては撃退し、進んでいった。
「あはははぁぁぁ!! もっとぉ、もっとよぉ!!」
デミスは笑いながら手斧で蛮族達を残虐に殺しまくっていた。
「ちょっと、デミス! もうちょっと自重しなさい!!」
レミルはデミスにそう怒りながら彼女も蛮族と交戦していた。
「あはははぁぁぁ!!これが自重できるとぉ、思いますかぁ!?」
「これだから……悪魔は!!」
「ちょっと、お二人さーん。もう少し静かに戦ってくださいよ」
騒ぐ二人にフリングは注意する……が聞く耳持たずだった。
「駄目だこりゃ……ほっとこう」
フリングはため息つきながら二人を放置することにした。
「あいつらはあれで天使と悪魔だ。そうそうやられることはないはずだし、大丈夫だろう」
エミルコは暴れる二人を見てそう言った。
「それにしても大丈夫かな、フレン達……」
銃の弾倉を取り換えながら呟く藍染。
「大丈夫さ。冒険者にはそれなりの腕利きの奴らもいるし、治安部隊にエーレイルもいるんだ。ちなみにあいつ、普段は狂戦士並みに好戦的だけど意外と戦略の方もそれなりに得意なんだ。あいつと暇つぶしでチェスやったりしてるんだが、何故か勝てなくてさ……だからあいつを防衛側に任せたのさ」
「へえ……」
「それにしてもこんな森に蛮族共のアジトなんてあるのか? あんな大群がいてまだここにも奴らがいるとなるとアジトなんて相当なデカさだぞ」
アークスはフリングに問う。
「……アジトの規模はでかくないと思う」
「何?」
「あんな軍隊規模の数、この森に集まってたら冒険者共にすぐに見つかっている。あんな数をどうやって集めたかわからんが、なんらかの大規模転移魔法かなんか使ってここに奴らを集めたのか、あるいは地面を掘り進んでそこにアジトを作って……」
「おいおい、奴らの中でそんな真似できる奴なんて――」
「普通ならいないさ。蛮族に成り果てた連中は頭も悪くなってる人格も理性のかけらもクソもない連中だ。だけどな、そんな連中をどっかの誰かが率いているかもしれない。例えば……頭が良いが、人格は最悪な奴とか」
不敵な笑みを浮かべてそう言う。
「ふっ、そうだとしてもこの都市を狙うとは随分の大馬鹿者じゃな。蛮族に成り果てた奴らを軍隊規模でぶつけてくるのは中々のものじゃったが、所詮は寄せ集め。中立都市が本気になれば奴らなんぞ数分で殲滅。アジトだってこの森を適当に砲撃すれば潰せるじゃろうに」
エミルコも不敵な笑みを浮かべる。
「駄目ですよ、そんな自然破壊なことをしちゃ。それに防衛兵器で蹴散らすなんて簡単すぎてつまらないじゃん」
「まあ、それもそうじゃな」
「それに防衛兵器はもしもの時のものですからね」
「……聖王国と魔帝國か」
「あんな奴らのためにバカすかと弾消費するのも馬鹿らしいですからね。こういうのは温存しておきませんと。それに……」
「それに?」
「たまには奴らと祭りを興じるのも悪くないだろ?」
「……ふふ、酔狂な事で」
フリングらの会話の中で聞きなれない言葉をいくつも耳に入るサイカは藍染の肩をポンポンと叩く。
「なに?」
「中立都市の本気ってなんだ? それに防衛機能って……」
サイカは小声で聞いてくる。
「俺もここに来たばかりだからさっぱりわからん。ただルミから少し聞いた話だけどあの蛮族の大群を数分で吹っ飛ばせる兵器があるとか(戦闘ヘリとか言ってもわかるわけないよな)」
「なるほど……だが、あまり多用できないから使わないようだな。よほどの機能なのか?」
「中立都市を襲っているあの大群を数分で全部肉片になるほど……」
「……よく両国に目をつけられなかったな」
「そこが不思議だよな……(まあ、エミエルの女神的力によって守られてるのだろうな……)」
「いろいろ不思議なことは山ほどあるが、今はこの“祭り”とやらに興じるとしよう」
「そうだな。この危険極まりない“祭り”を楽しむとします……か!!」
藍染はそう言って背後から襲うとした蛮族の方に振り向き、即座に銃撃。
見事にヘッドショットが決まった。
「だいぶ慣れてきた?」
エミエルが藍染に問う。
「ああ、まあな……」
そう言って、藍染は先程自分が撃った相手をじっと見る。
彼が倒したその蛮族は……人間だった。
「まったく、初日からこんなに血に染まるとは思わなかったよ……。なのに、こんなにも早く慣れてしまうなんて我ながら恐ろしいよ……」
藍染はうすら笑いを浮かべながら自身が握っている拳銃をじっと見る。
『この世界で生きるために、慣れておかないと……死ぬよ?』
藍染の頭の中にエミエルの声が響く。
『ああ……分かってるさ。ついでに弾の管理もしっかりしないとな?』
『おや? まだ根に持ってましたか?』
『弾なしで死にかけたのですからね』
『えへへ、ごめんねごめんね~』
「(こいつ……)」
「……さて、二手に分かれよう。サイカに藍染君。僕と来てくれ」
フリングに指名された藍染とサイカは互いに見つめ合う。
「あとの皆さんは各自で行動してくださいな。さ、お二方、行きますよ」
「え、おい!?」
「ちょ、ちょっと!?」
フリングは藍染とサイカの二人を引っ張って、そのまま森の奥へ消えて行ってしまった。
「え、ちょ、まっ、フリング――!?」
エミエルは藍染とサイカを連れて行ってしまうフリングを呼び止めようとするも、エミルコに肩を掴まれる。
「ちょっと……」
「フリングの奴のやりたいようにしておけ。なに、あ奴がいればあの女騎士はともかく、あのアイゼンとやらは簡単に死なんじゃろ」
「は、はぁ……」
「とにかくわたくしらはわたくしらの仕事をしよう。のうリュヴィエル」
リュヴィエルはため息をつき、口を開く。
「……エミルコはデミスとレミルと組んで、さらに二手に分かれて行動する。目標を見つけたらフリングに渡された信号弾を打ち上げろ。こっちも見つけたら打ち上げる」
「了解じゃ。さあ行くぞ、ルミ、デミス、レミル」
エミルコは三人を伴ってフリングとは別方向へ進む。
「大丈夫なのか? あれで」
アークスは腕を組みながらリュヴィエルに問う。
「私らは私らで仕事をするまでだ。行くぞ」
「は、はい!」
「で、俺とサイカだけを連れてどういうつもりだ?」
「なあに、せっかくの新入り二人とご親密になりたいからついね」
「隣接しながら戦って支援値上げですか?」
「それどんなゲーム?」
「え?」
フリングの言葉に藍染はフリングに顔を向けるとフリングも何故か顔を背ける。
「今なんと……」
「なんでもない」
フリングはしらばっくれた。
三人はとにかく歩く。
明かりはないので暗い道でも己の目を頼りに進むしかない。
しかし、幸いなことに三人とも夜目がかなり良いほうであった。
「しかし、こんなレイドイベント的な事はいつも起こるのか」
「いつも起こってたまるか。基本的にこういうのがあっても規模が大したことなければ冒険者だけで済むけど、こういう軍隊規模や大物が数体、予想外のことがあったらこっちも協力するのさ。でないと中立都市が危ないし」
「なるほどな。確かにあの部隊の見慣れない武装の数々にあの蛇腹剣を持った女剣士やあの魔族の男にあのエルフも只者じゃないのがわかる。もちろんフリング殿もな」
「それはどうも。サイカさんだったかな? 君もけっこうな腕前だね。特にその闇の力は中々のもので……」
「…………」
「…………」
フリングとサイカは互いに見つめ合う。
不敵な笑みを浮かべながら……。
「……おーい、お二人さん……」
「安心しろアイゼン。わたしが守ってやろう」
「大丈夫だアイゼン君。君は僕が守ってやろう」
『!?』
急に張り合い始める二人。
「わたしは張り合うことはあまりしないが、何故だか貴殿には負けたくないと思ってな」
「あはは、僕も新人冒険者に舐められるのもあれだからねぇ」
「ふふふ……」
「ははは……」
互いに笑い合う二人。
「はぁ…………」
そんな二人を見る藍染はため息をつき、呟く。
「なんてこったい」
早く終わって帰りたいなと思う藍染であった。
しばらく歩くとサイカは何かを見つけ、足を止める。
「……二人共、止まれ」
サイカは小さな声で二人に声をかけ、二人も足を止める。
目の前に誰かがたたずんでいた。
「誰かいるな……あれは!?」
そこには、あの時の犬獣人の女剣士だった。
かなりの傷を負っていて、立っているのがやっとだった。
「あ、あんた……達……は……」
女獣剣士は仲間と遭遇したことにホッとしたのか、そのままフラッと倒れそうになる。
「おい、大丈夫か!?」
サイカは倒れそうになった女獣剣士を慌てて受け止め、支える。
「待っててください、合成ヒールポーションを」
フリングはアイテム袋から回復道具を探す。
合成ヒールポーションとはヒールポーションに赤の薬草を混ぜたものであり、回復効果が二倍以上である。
フリングはアイテム袋から黄色い液体が入ったペットボトルを取り出した。
「(まさかのペットボトルだと!?)」
フリングはペットボトルの蓋を開け、女獣剣士に飲ませる。
すると、女獣剣士の傷があっという間に消えてしまった。
「すまない……」
「気にするな。他の奴らは?」
「……残念だが――」
「全員くたばったよ」
『!?』
突然、知らぬ声が聞こえ、全員身構えた。
奥から何者かが現れた。
そこには傷だらけの鎧を纏い、ガラの悪そうな隻眼の騎士がいた。
その傍らには魔道士の老人に複数の蛮族共もいた。
「誰だよ、お前?」
フリングは隻眼の騎士に問う。
「俺はガニス。悪いがそこの都市の全てを俺様のものにしてやるぜ」
舌なめずりをして下卑た笑みを浮かべながらそう言った。
次回、敵の首領と対峙!!