第4話
冒険者の依頼を受けた藍染は何故か一人でする羽目に……
中立都市を出た藍染は近くの平原で薬草取りを始めた。
藍染が集めているのは緑の薬草。
ヒールポーションの材料に使用する薬草である。
他には状態異常回復のキュアポーション。
材料は青の薬草。
ポーション効果を2倍にする不思議な赤の薬草。
他にもいろんな色の薬草があると受付婆から説明を受けたのであった。
「緑に青に赤の薬草の効果がどこぞのサバイバルホラーのハーブじゃねえか」
そんなことを呟きながら一人薬草を採取する藍染。
「………………」
藍染はふと空を見上げる。
鳥がさえずりながら飛んでいるのが見えた。
「……ここ、異世界なんだよな」
改めてそう実感する藍染。
そんな時だった。
『こら、少年! 薬草採取ははかどってるか~!?』
「おわっ!?」
突然、藍染の頭の中から声が響いて、驚き飛び上がる藍染。
『ふふっ、びっくりした?』
この聞き覚えのある可愛らしい声はエミエルだ。
「え、エミエルさん!? どこにいるんだ!!」
『中立都市のどこか~』
「あんた忙しいとか言ってなかったか?」
『そうだよ。私は君のサポートに忙しいのだ~』
「だったら一緒にいてサポートしてくれや」
『念話でサポートするのも楽しいかなぁって』
「(何言うてんねんこいつ……)」
『ちなみに君が今何を思ってるのかも筒抜けだよ~』
「人の心読むなや」
『えへへ~。さあ、どんどん薬草採取するのだ~』
「へいへい」
そうして藍染は一人薬草採取を続ける。
数十分後……。
さらに奥へ移動した藍染。
「あと少し……」
もくもくと採取し続ける藍染。
「スマホとイアホン持ってくればよかったかな……」
一人呟く藍染。
そして……。
「……よし、終わった!」
無事にノルマを達成した。
採取した薬草は全てアイテムBOX袋に入れた。
『はい、お疲れ様♪』
「それにしても……なんてこったい、随分移動したな……」
気づいたら中立都市が見えないほどかなり移動していた。
近くには森があった。
『ちょっと、少し移動しすぎじゃない? 早く戻った方がいいよ』
「わかった。なるべく急いで戻るわ」
『じゃあ、都市の入り口で待ってるね』
「おう――」
ガサガサガサ……。
「ん?」
『どうしたの?』
「……お客さんだ」
『え?』
森の方にある茂みから何かが現れた。
「…………」
それは斧で武装した小型で茶色の肌をした醜悪な生き物が現れた。
「こいつはあれか、ゴブリンってやつか?」
ゲームで見たことある藍染はエミエルに問う。
『そうだよ。こいつは蛮族ゴブリンね』
「マジか。いきなりゴブリンとエンカウントと来たか……ところで蛮族ゴブリンってなんだ? 普通のゴブリンとなんか違うのか?」
『中立都市にも普通のゴブリンがいるんだけど、君の目の前に入るやつは悪事を働きすぎた悪いゴブリンなのさ。他にも蛮族オーガや蛮族エルフとかも存在してて、蛮族と成り果てた奴らはもう理性も何もない凶暴な奴だから気を付けたほうがいいよ』
「なんてこったい」
「キシャァァァァァァァ!!」
そうこうするうちに蛮族ゴブリンが襲いかかってきた。
「クソ!」
藍染は拳銃を抜いて、襲い来る蛮族ゴブリンに銃口を向け、引き金を引いた。
ズダァァァァァァァン!!
「グギャッ!?」
見事にヘッドショットが決まった。
『ナイスショット!』
「ありがとよ……ん?」
ガサガサガサガサ!!
蛮族ゴブリンがさらに現れた。
今度は三体現れた。
「おっと、こいつはやべえかな?」
『早く逃げた方がいいかもね』
「ああ、同感!」
藍染は踵を返して全力で逃げ出した。
当然、蛮族ゴブリンは全力で追いかけて来た。
「くそったれ!!」
藍染は逃げながら蛮族ゴブリンに銃撃する。
「(走れ走れ走れ、逃げろ逃げろ逃げろ)」
頭の中でそんな言葉を思いながら逃げる藍染。
「(……そういえば、ここまで全力で走ってるのにまだ走れる)」
普段の藍染ならもうすでに限界状態となり、息切れをする頃なのだが、まだ体力が続いていた。
「まさか、異世界に来たら身体能力上がったのか!?」
そう呟きながら身体を反転させ、蛮族ゴブリンに銃弾をぶち込んだ。
追いかけたゴブリン達をすべて倒した。
『そうだよ。多少なりともスタミナが上がってたりしてるはずだよ』
「拳銃も本物なんて初めて使うのに、すごい馴染むのも……」
『ここに来たおかげね。普通ならこんな風には使えないからね』
「なるほどな……ん!?」
さらに新手の蛮族ゴブリン達が背後から現れた。
「なんてこったい!」
退路を塞がれてしまった藍染。
藍染は即座に蛮族ゴブリンに銃撃をした……が二発撃ったら急に弾が出なくなった。
「やば、弾切れ! 予備弾薬……!?」
その時、藍染は思った。
「(そういえば予備の弾薬ってもらったっけ?)」
『あ、ごめん。忘れてた~……てへっ』
「てめぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
『確かアイテムBOXに支給品のサバイバルナイフが入ってるはずだよ!!』
「!?」
藍染は拳銃をホルスターにしまい、アイテムBOX袋からナイフを取り出した。
「これか!」
取り出したナイフを抜き、構える藍染。
『私もすぐ行くから待ってて!』
「早くしてくれよ!!」
襲い来るゴブリンに応戦する藍染。
その時だった。
ドスッ!
「ぐっ!?」
藍染の腕に矢が刺さっていた。
「な、なんじゃこりゃ!?」
刺さったところから血がドクドクと流れる。
「痛……」
藍染は激しい痛みに襲われ、膝をついてしまう。
藍染と交戦している蛮族ゴブリンの後ろにボウガンを装備した奴らの仲間がいた。
「クソッなんてこったい……。こいつはやべぇ……あっ!?」
別の蛮族ゴブリンがジャンプして手に持った斧で襲いかかる。
「(嘘だろ……ここで死ぬ……!?)」
藍染は目を瞑る。
その時だった。
藍染の前に何者かが現れた。
それは綺麗な長い黒髪で漆黒の鎧を纏った女騎士だった。
「大丈夫か、少年」
女騎士は藍染に襲いかかってきた蛮族ゴブリンの攻撃を剣で受け止めていた。
「あ、ああ」
「待っていろ、すぐに片づける……ハァ!!」
女騎士は蛮族ゴブリン薙ぎ払う。
そして、女騎士の持つ剣に黒いオーラを纏わせ……。
「【ブラック・スラッシュ】!!」
剣を横に素早く振り、黒い斬撃を放った。
黒い斬撃は複数いた蛮族ゴブリンは全て切り裂かれた。
「す、すげえ……」
女騎士の一撃に見惚れてしまう藍染。
「ギャギャギャァァァァ!!」
藍染の背後から新たな蛮族ゴブリンが襲いかかってきた。
「しまっ――」
女騎士は背後の蛮族ゴブリンに気づき、振り向く。
すると、何者かが藍染と襲い来る蛮族ゴブリンの間に割り込んだ。
ズドン!!
ものすごい銃声が響き、襲いかかってきた蛮族ゴブリンが吹っ飛んだ。
藍染を助けたもう一人の人物は……。
「間一髪だったね」
ショットガンを手に持ったエミエルだった。
「エミ……ルミさん」
「おや、随分痛い物が刺さってるね~。大丈夫?」
「大丈夫じゃ……ぐっ……」
「おい、あまり動くな。何か回復アイテムは――」
女騎士は自分のアイテムBOX袋から回復薬を取り出そうとした時だった。
「はーい! あたしに任せて♪」
甲高い声と共に白いローブを身に着け、十字架の形をした杖を持った魔法使いっぽい少女が現れた。
少女にしてはやたら声が少し低いような感じだった。
「じゃあリエ、回復お願い」
「りょーかい! ちょっと矢を抜いてもらってもいいかな」
「わたしが抜こう」
女騎士がそう言って、藍染の下に近づく。
「少年、少し我慢してくれ」
「あ、ああ……」
女騎士は藍染の刺さってる矢を掴み、抜き取る。
「ぐうっ……」
痛みに耐える藍染。
矢を抜き取られると、そこから血があふれ出す。
「任せて、【ヒール】!!」
少女は杖を振りかざすと、杖から黄緑色の淡い光が光り出した。
すると、藍染の腕の傷口がみるみる塞がれていき、傷口が綺麗さっぱり消えた。
「あ……痛くなくなった」
「もう大丈夫だよ」
「あ、ありがとうございます」
「どういたしまして♪」
少女は満面の笑みを浮かべてそう言った。
「そこの騎士さんもありがとうございます」
「例には及ばない」
女騎士は爽やかな顔でそう言った。
「立てる、藍染君」
エミエルは藍染に手を差し伸べ、藍染はその手を掴み、立ち上がらせてもらった。
「改めてありがとうございます。えっと……」
「あたしはリエ。聖術師で中立都市の冒険者だよ」
「聖術師?」
聞いたことのない職種に首を傾げる藍染。
「聖術師は回復や補助魔法を得意とするヒーラー役だよ」
「ああ、なるほど」
「怪我したらあたしが癒してあ・げ・る♪」
リエはウィンクしながら可愛く言った。
「あはは、お手柔らかに……(しかしなんか違和感が……)」
リエの声質とこの仕草に何か違和感を感じた藍染だった。
「いや~、君が近くにいてくれたおかげで助かったよ~」
「まったく~。急にちょっと来て! なんて外に連れ出されるから何事かと思ったよ。エリのこと置いて来たちゃったし」
「いやぁ、ホントにごめんね~」
二人は顔見知りのようであった。
「で、そこの騎士さんはどちら様?」
エミエルが藍染に問う。
どうやらこの女騎士とは初対面のようだ。
「ああ、名乗りが遅れたな。わたしはサイカ。最近冒険者になったばかりの新参者だ。以後お見知りおきを」
「あ……はい……」
少したじろぐ藍染。
「あ、お、俺は藍染。俺も冒険者になったばかりだ。今日が初めて仕事受けたばかりだけどな」
「ああ、最近強そうな黒髪の女騎士がどうとかって、フレンから聞いたけどあなたね。で、君は完全に冒険者なりたて君か」
「はい、冒険者の卵です」
「ほう、君も冒険者なりたてか。わたしも三日前になったばかりだ」
「それにしては随分お強いことで。それにその身なりからして……」
「……前に騎士をやっていたが、訳あって辞めて……」
サイカは気まずそうにそう話した。
「ああ……悪い。聞いちゃまずかったかな」
「いや、気にしないでくれ。こんな風貌だからな。聞かれてもしかたないさ」
「はいはい、皆さん。そろそろ中立都市に戻りましょう」
エミエルが手を叩きながらそう言った。
「あ、そういえば、予備の弾薬!」
「おっと、いけない、いけない。今のうち渡しておくね」
藍染はエミエルから予備弾薬の詰まったマガジンを五本ももらった。
「まあ、お詫びに弾代もサービスで♪」
「まったく……」
藍染はそう呟きながらもらったマガジンの四本をズボンのポケットに入れ、一本は弾がなくなったマガジンと交換し、弾切れのマガジンは反対のポケットにしまった。
「手慣れてるね~」
「まあね(エアガンでそれなりに……)」
もちろん本物の拳銃はエアガンより重いのでまだ完全には慣れていないのであった。
「そういえば、ルミちゃん随分この新人君に世話焼いてるわね?」
と、リエが首を傾げてそう言った。
「え、ああ。ちょっといろいろ縁があってね」
「ふーん……。ま、いいか。それじゃあ帰ろっか」
リエは聞いてくるわりにあまり気にしていなかったのであった、
そうして藍染達は中立都市に戻ろうとした。
その時だった。
「……! おい、あれ!!」
「?」
サイカが何かに気づき、指を差す。
その先には……なんと蛮族ゴブリン達が大挙して藍染達の方に向かって来ていた。
「おいおい、マジか!?」
「シャレになってないよ!?」
「数が多いな……しかたない、ここはわたしが――」
サイカが剣を抜き、蛮族ゴブリンに立ち向かおうとした。
「いや、ここはこれで……!!」
エミエルがアイテムBOX袋からある物を取り出した。
それは……M24柄付手榴弾だった。
「手榴弾!?」
「これでも……喰らえ!!」
エミエルは安全ピンを抜き、蛮族ゴブリン達にめがけて思い切りぶん投げた。
手榴弾は蛮族ゴブリン達の所に落ち、そのまま大爆発を起こし、蛮族ゴブリン達は吹っ飛んだ。
だが、さらに別の蛮族ゴブリン達が爆煙を突っ切って藍染達に迫って来ていた。
「おいおいおい、なんてこったい!」
「これではキリがないぞ」
「こんなの身が持たないわよ!?」
「ぜ、全員撤退じゃああああああ!!」
エミエルの掛け声に藍染達は全速力で中立都市まで逃げ出した。
次回、藍染達は無事に中立都市まで逃げ切れるか!?