第2話
異世界でもゲームで遊ぶ藍染。すると……。
ゲームをやってしばらく経つと、奥からガタガタと物音がした。
「?」
藍染は自室から部屋(自室は元の世界の自分の部屋で部屋はこの世界の部屋)に戻るとエミエルが戻って来ていた。
そして最初は何もなかった部屋にいつの間にかテーブルとイスが置かれていた。
さらにはクローゼットに冷蔵庫、ベッドも置かれていた。
他にも日用品等が置かれていた。
「どうしたんですかそれ?」
「ふふ、引っ越し祝いだよ♪」
「なんかすみませんね」
「いいんだよ。あ、クローゼットにこの世界の衣服とかも用意しておいたから」
「なにもかもなんかすみませんな」
「ふふ、いいわよ。さ、座って。これからいろいろ話があるから」
そう言って、エミエルが手招きをする。
藍染はエミエルの所に向かい早速向かい合って座る。
「さて……まずはこの中立都市についてだね」
エミエルは地図を出し、テーブルの上に広げる。
地図はこの中立都市の内部が描かれていた。
大きな円のような形をしていて、その周囲と真ん中に白い線が描かれている。
さらに四つに区切られているようにそこにも白い線が描かれていた。
「今私達がいるのはこの西側の居住区エリア。一軒家からマンションにアパートと中立都市に住んでいる人々が暮らす場所だよ」
「アパートにマンションって……」
「あと、食料品や日用雑貨が売ってるスーパーもあるよ」
「ほぼ現実世界と変わらねぇ……」
「次に北側が冒険者・商業エリア。冒険者関係の施設や商業施設などが点在しているよ」
「冒険者か……」
「で、東側は農業エリア。ここは畑や牧場など食料生産地帯になってるの」
「すごいな」
「で、最後に南側は……何もない」
「何もないんかい!」
最後のあっけない説明にツッコむ藍染。
「まあ、ここは何らかの行事でよく使う場所だから、まあいわゆるイベントエリアかな」
「へえ……」
「で、この中央は役所や教会、この都市を守る治安部隊の施設などがある都市の中枢機構だね」
「治安部隊?」
「治安部隊。別名エンフォーサーズ」
「何その別名。治安乱す者はリーサルしちゃう部隊かな?」
「あはは。治安部隊はけっこう容赦ないよ~」
「なんてこったい……」
「まあ、ここで問題を起こそうとしなければ大丈夫だよ。問題を起・こ・さ・な・け・れ・ば」
圧をかけるように言うエミエル。
「あはは、気をつけるとしよう」
藍染は苦笑いしながらそう言った。
「さて、そろそろ書類手続きをやりましょうか。本来なら手続きは役所でやるべきだけど、あいにく今日は休みでね」
「え、それじゃあどうやって書類を?」
「ふっふっふ……実は私、この都市の領主でもあるんだ~」
どや顔で言うエミエル。
「まじか」
「他にも治安部隊部隊長もやってるし、冒険者もやってるんだよ」
「そうかそうか……え、冒険者!?」
「そうだよ。あ、冒険者の時はルミって名前で通ってるから」
「おいおい、そんなにいろいろやって手回るのかよ?」
「大丈夫。分身的なあれで並行して仕事させてるから」
「なんだそりゃ」
「ちなみに本体は主に冒険者で」
「仕事しろよ」
「今仕事してます~」
「(こいつ……)」
「まあ、とりあえず書類見ようか」
エミエルは書類を広げる。
「まず物件。この部屋ね」
書類の文字はやはり異世界の文字……であるが。
「!?」
突然、文字がぼやけて、藍染は目をこする。
すると、文字は全て日本語になった。
「こ、これは!?」
「私の女神パワーで君の目にちょっと細工したんだ。これで読めるでしょ?」
「あ、ああ……ん?」
最初の書類を確認する藍染。
内容は物件の契約内容だった。
「えっと……家賃ひと月金貨一枚と金銀貨一枚?」
「あ、この世界の硬貨の相場も教えるね」
エミエルはそう言って一枚の紙を見せる。
これはどうやら手書きのものだった。
硬貨の相場はこのように書かれていた。
・金貨=一万円
・金銀貨=五千円
・白銀=千円
・銀貨=百円
・銅貨=十円
・青銅貨=一円
「つまりこの部屋の家賃は一万五千円ということか」
「そうゆうこと」
「……って家賃払うのか!?」
「そりゃそうでしょ? 現実世界でもおなじことでしょ」
「いやいやいや、どうやってお金を――」
「そりゃあ冒険者で金を稼ぐしかないでしょうね」
「冒険者……」
「冒険者ならいろんな仕事を引き受けられるから楽しいよ~。もちろん危険な仕事もあるけど」
「へぇ……一応聞くけど他に働き口は?」
「商業ギルドで商売とか農業エリアで農作業とか治安部隊に入隊するか……あ、でも治安部隊は冒険者よりかなり過酷だからおすすめしないよ。あと農作業もほとんど農業エリアで住み込みで働く羽目になるし、けっこうしんどいわりに収入も微妙だよ?」
「よし、今日から俺は冒険者になる!」
「はい決定! 冒険者の登録もあとでやるからね」
「わかった」
「じゃ、先にこっちの書類を済ませましょう」
そうして藍染は部屋の契約書に名前を書いた。
「で、申し訳ないけどこの丸に血を一滴垂らしてもらってもいいかな?」
エミエルはにこやかに言いながら針を一本出す。
「マジか……なんてこったい」
そう言って藍染は針を受け取り、自分の親指に針を刺す。
「痛っ……」
そして親指から出した血を指摘した所に血をつける。
すると、紙が白く光った。
「はい、これで契約完了。今日からここは君の部屋だよ」
「おお」
「ちなみに三ヶ月だけ家賃は私が負担してあげる。サービスだよ」
「え、いや、流石にそれは悪い気が」
「いいのよ。いきなりこの世界に来させちゃったし。安心できる場所は必要でしょ」
可愛らしい笑顔で言うエミエルにちょっと顔を赤らめる藍染。
「あ、ありがとう……」
「家賃は中央の市役所で収めてね」
「了解」
「あと家賃三ヶ月滞納したら強制退去ね♪」
ニッコリしながらそう言うエミエル。
「は、はい……気をつけます」
苦笑いしながら答える藍染。
「ちなみにここの家賃、実は他より多少安いんだよ」
「なんで?」
「それはね……この隣の部屋はね……出るんだ~」
「なんてこったい! お隣事故物件じゃねえか。なんて場所に住まわせるんだ!」
「安いんだからいいじゃない。文句言わないの」
人差し指を出してそう言うエミエル。
「うぐ……」
ぐうの音も出ない藍染であった。
その後、冒険者の登録も済ませた藍染。
冒険者の登録用紙からカードが現れた。
そこには藍染の名前と顔、さらにランクであろうFと書かれた黒いスタンプが押されていた。
裏は何も書かれてなかった。
「裏は依頼を受けた欄で、依頼完了した時はギルドでチェック貰えれば完了だよ」
「なるほどね……」
「ちなみに一ヶ月依頼受けなかったり依頼が連続で五件失敗するとかなりヤバいペナルティがあるから気をつけてね」
「お、おう……(どんなペナルティだ……)」
「あと、もし失くしたら中央市役所で手続してね。ちなみに手数料いただくから失くさないようにね」
「わかった」
「それじゃあ手続きはこれで終わり。私は市役所に戻るから今日はゆっくり休んでね。明日改めて冒険者ギルドに行こう。先輩たる私が手取り足取り教えてア・ゲ・ル♪」
エミエルは藍染の鼻を人差し指でチョンと触れながらウィンクしてそう言った。
「また明日の昼前に来るから。じゃあね、藍染君」
そう言ってエミエルは指をパチンと鳴らすと一瞬で姿を消した。
「…………」
少し呆然とした藍染。
「……明日から頑張るか」
藍染はそう呟いたのであった。
次回、藍染の冒険者で初の依頼を受ける。