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戦い(※流血があります)

※ご注意

流血シーンがあります。苦手な方はこの回を飛ばして読んでください。

丸1話バトルシーンになります。

【第50話】


 巫楽(ふがく)は、無駄のない殺意のこもった一撃を浴びせかけてくる。


 天翔(てんしょう)は腰に差してきた剣を引き抜き、それを弾く。

 重い金属音と火花が飛んだ。


水蘭(すいらん)、逃げろ!」


 続いて手首を返した巫楽の反撃が来たのを、天翔は左手に持った鞘で跳ね返す。


「陛下も青花宮(せいかきゅう)様と共にお引きください!」


 同じく剣を抜いた侍御史(じぎょし)が剣戟に割り込もうとするが、巫楽は素早く身を翻した。

 目にも止まらぬ速さで、左下から右上へ斜めに刃を振り上げる。


 侍御史は悲鳴を上げてのけぞり、すんでのところで躱した。

 が、戦い慣れしていないせいで均衡を崩してしまったようだ。

 そのまま背後へ倒れ、頭を打って気を失ってしまう。


 水蘭はぞっとする。


(とてもじゃないけど、わたしが助太刀できる状況じゃない)


 巫楽の素早い動きと、それを食い止める天翔。

 ここへ水蘭が飛び込んでいくべきではなかった。

 侍御史と同様に打ち負けてやられるか、最悪の場合は人質に取られて天翔の足手まといとなる。


「もうすぐ莉空(りくう)が武官たちを連れてきますから!」


 せめて、相手を焦らそうと武官がくる旨を告げる。

 天翔は大いにうなずいて、その話に乗ってきた。


「聞いたか。無駄な抵抗はやめろ。そなたらの命運はもう尽きた。大人しく剣を下ろすんだ。皇帝殺害の罪は重いぞ。まだ未遂で止めておいたほうがいい」


「そんなのはったりよ! 気にする必要はないわ、巫楽」

「かしこまりました、安那(あんな)様」


 しかし、愚かにも皇后も巫楽も忠告を聞かなかった。


 大きく息を吐いた巫楽は、再び天翔の懐へ斬り込んでいく。

 切れ味の良い刃先は、女性の悲鳴のごとき音を立て、何度も天翔の高価な衣を裂いた。


 素早いのに重い剣捌きは、単なる女官のものとは思えない。

 彼女はきっと、特別な訓練を積んできた相当な手練れなのだった。


「く……」


 多少は剣の心得のある天翔だったが、額に汗を滲ませる。

 体勢を整える隙のない攻撃がくり返されるうち、次第に受け太刀となっていった。


 水蘭は手に汗握り、武官たちの到着を待つ。


(お願いだから、早く来て)


 いっそ自ら呼びに行くべきかと扉のほうを見ると、ちょうど皇后が豪奢な衣を引きずりながらそちらへ姿を消そうとしていたところだった。


(逃げられる!)


 入口を塞いでいた宦官二人は巫楽に倒され、門番の体を成さない。

 孔雀宮の妃たちを足止めしてくれていた柊凜(しゅうりん)たちの姿もそこにない。

 どうやら、巫楽の襲撃に怯えて、女性たちは散り散りになっていたようだった。


 もし皇后をここで取り逃がせば、彼女は母親の長公主(ちょうこうしゅ)のところへ逃げ込むだろう。

 そうなれば手出しはできなくなる可能性がある。

 また、逆に罪をでっちあげられて天翔のほうが後宮を荒らした狼藉者として断罪されるかもしれない。


(そうはさせない)


「待ちなさい!」


 海に飛び込む勢いで、水蘭は皇后の下裙(かくん)に取りすがる。


 興奮した彼女はめちゃくちゃに暴れた。

 反動で二人して廊下に転がり、もみ合う。


(あとちょっと。もうすぐ武官たちが来てくれる)


 渾身の力を込め、絶対に逃がさないという強い意志のもと、皇后を床に押さえつける。

 その少し離れた背後では、天翔と巫楽が死闘を繰り広げていた。


 力では勝る天翔が、重なった刃を強く押しやれば、巫学はよろけながらもすぐさま身体を反らして再び切り結ぶ。


 互いの殺意が迸った。


 簡単には倒せない。

 本気で殺す気で斬り込むしかない。


 天翔の頬に皮肉気な笑みが浮かんだ。

 こめかみに垂れた汗を左腕で拭った瞬間、目をぎらつかせた巫学が懐へ飛び込んできた。


 銀色の光の筋が宙に浮かぶ。

 鮮やかな一撃は、天翔の胸もとを切り裂いた。

 とっさにのけぞったおかげで致命傷ではなかったものの、鮮血がほとばしる。


「は……」


 天翔の苦しげな声が漏れたのを聞いて、水蘭は息をのんだ。


(天翔様!!)


 手から力が抜けてしまい、せっかく押さえつけた皇后を取り逃がしてしまう。

 皇后のまとう極彩色の衣が翻った。

 それを、巫楽が横目で確認する。

 その瞬間を、天翔は見逃さなかった。


 負った太刀傷をものともせず、強く踏み込む。

 渾身の力で剣を振りかぶり、容赦のない一撃をお見舞いした。


「ぐあ……っ」


 血しぶきと共に、男性のごとき低音のくぐもった呻き声が響く。

 巫学の手からは剣が滑り落ち、その一秒後、どうっと仰向けに倒れた。


「いやあっ巫学!」


 半狂乱になって皇后が戻る。

 服や手が血で汚れるのをいとわず、女官の手を握る。巫学は弱々しい声を出した。


「……申し訳ございません、安那様」

「嫌よ! 死んじゃ駄目!」

「だい……じょうぶ、これくらいで、しには……しません……」


 気丈な台詞は、呂律が回っていなかった。


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★新連載はじめました★
『見た目は聖女、中身が悪女のオルテンシア』

↓あさたねこの完結小説です↓
『愛され天女はもと社畜』

↓短編小説はこちら↓
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