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相談

【第27話】


 次はいつ天翔(てんしょう)に会えるだろう。


 水蘭(すいらん)は焦れる気分でその日を待った。


 数日もすれば莉空(りくう)の一人部屋が用意されてしまう。

 だから、一刻も早く相談したかった。


 強く願ったかいがあったのだろうか。

 馭者の話が出てから二日後、天翔が青磁宮へやってきた。


 彼は正殿で姉と対面したのち、水蘭を呼び出す。


(正殿に呼ばれた……!)


 ふらりと庭へ下りてくるのではなく、きちんと謁見の間に呼ばれたことに恐縮しながら、水蘭は一人でそこへ向かった。


「元気にしていたか」

(あ……)


 お忍びで街へ出かけたときや、庭で気軽に会ったときとは彼の格好が違う。

 前面に金糸で重厚な刺繍が施された袍に、金冠をのせた立派な衣裳をまとい、主の席に座していた。


(まさに皇帝陛下という立派な格好だわ)


 会ってすぐにでも莉空の相談をしたいと思っていた水蘭は、その威厳ある姿を見て気後れしてしまう。

 深々と頭を下げて、無難な挨拶しか返せなかった。


「はい、おかげさまで。陛下、その節は誠にありがとうございました」

「なんだ、ずいぶんよそよそしいな。人払いはしてある。前のようにしてくれ。陛下ではなく、『天翔』だろう?」


(そんなこと言われても……)


 おずおずと顔を上げる。

 そこで、あれ? と思った。


(格好もそうだけど、表情もなんだか気難しげだわ)


 優しい笑顔を向けてくることが多い天翔だったが、どこか緊張を帯びた面持ちをしている。

 そのせいか、親しみやすさが消え、物々しい雰囲気をまとっていた。

 堅苦しい宮廷服を着ているからだろうか。


(もしかして、なにか悩みでも抱えているとか?)


 だとしたら、自分がここしばらく思い悩んでいたせいか、親近感めいたものを感じる。

 つい問いかけてしまった。


「すみません……、なにかお悩みなのですか?」


 天翔ははっと目を見開いた。そして、繕うように頬に笑みを貼りつける。


「すまん、固かったか? 緊張していたのかもしれないな」

「なにかございましたか?」

「そうだな。ちょっと今日はそなたに折り入ってしたい話があって」

「わたしに……?」


 そんなこわばった声で、なんの話だろう。

 皇帝陛下ともあろう人が、下働きの水蘭に重大な悩み相談とは。


 水蘭は政治がまったくわからない。

 だから、たとえ彼が間違ったことを愚痴ったとしても、正論で諭したりできず、話を聞くだけになる。


(力になれるとは思えないけど……)


 だが、はたと思い返す。


(わたしみたいな全然関係ない人だからこそ、話せるような内容なのかもしれないわ)


 深刻すぎて身近な者には相談できないことだってある。


 天翔には莉空を助けてもらった恩があった。

 さらに、これから莉空と長公主のことを相談したいと思っている。

 もし彼の相談に乗れるならば、お互い様のとてもいい関係ではないか。


 水蘭は胸を張った。


「どうぞなんなりとお申しつけください。実はわたしもご相談したいお話があったのです」

「そうなのか。なら、そなたから話してくれ」


 おおいにうなずき、拳を握った。

 遠慮して言い出しにくかったものの、本当はずっと相談したくてたまらなかったのだ。


 俄然早口になって必死に伝える。


「天翔様の姉上様のことなんです。実は、莉空のことを気に入って馭者にしてくださるとおっしゃり、長公主さまのお部屋近くの一人部屋をいただくことになりました。ですが、その……本当に申し訳ないのですが、どうしてもそのお話をお断りしたく……。ええと、決して、姉上様を侮辱するつもりはありません! ただ、莉空はまだ子供なので、長公主様のお相手は年齢的に早すぎるお役目だと存じまして……」


 閨の相手に望まれている、とは口が裂けても言えないが、精一杯伝えたつもりだ。


「そうか……」


 腕を組み、天翔はうなる。

 水蘭がほのめかした内容を正確にくみ取ってくれたらしく、眉間には皺が寄っていた。


 しばらくのあいだ沈黙が落ちる。


 無理もない。自分の姉が年端もいかない子供に興味があると打ち明けられたのだ。

 驚きを通り越して思考がぶっとぶだろう。


(もしわたしが逆の立場なら、確実に心臓発作を起こしたわ)


 本当に申し訳なくなる。


 天翔は額に袖を当て、考え込んでいる。

 水蘭も言いにくいことを言った手前、こちらから新たな話はできずにいた。


 やがて、天翔が顔を上げる。


 その表情からはすでに困惑は消えていた。

 形の良い眉をやや吊り上げ、切れ長の美しい瞳には真摯な色が浮かんでいる。


「姉の件、俺なりに検討してみた。やはり、こうするのが一番いいと思う」

「なんでしょうか」


 重大な秘密を打ち明けるようなひたむきな声に、水蘭は緊張した。


「俺もそなたに話があると言ったな。それと結論が重なった」

「はい」



「今すぐ青磁宮を出て、俺の城へ来い」


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『見た目は聖女、中身が悪女のオルテンシア』

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