翡翠色
【第1話】 序章 翡翠の歌姫
純白の蘭が咲きほこる温室の中で、少女が歌っていた。
神秘の泉のごとくどこまでも透きとおる声で、たおやかな調子の旋律の歌を。
歌詞は白陶国の言葉ではない。
柔らかな響きの異国の詞。
だが、見たところ異国人ではなさそうだ。
少女の髪は黒色。うつむき加減の瞳も黒い。
一般的な白陶国の民と同じ特徴だ。
しかし、その風貌はまだ幼さを残すものの、あと一、二年もすれば鮮やかに咲きほこり、そこらでは見られない圧倒的な美貌の持ち主となる片鱗を見せていた。
髪は絹糸のごとく美しい艶をまとい、まっすぐと伸びて背を覆う。
肌は陶器のように白く、頬だけはうっすらと桃色に色づき、杏の色をした小さな唇で優しい歌を紡いでいる。
ふと、伏し目がちの瞳が天を上向いた。
杏仁型をした大きな黒の瞳が、開いた天窓からの夕陽を映す。
そのとたん、ふわりと優しく空気が揺れた――ような気がした。
少女がほほえんだのだった。
すると、瞳の色が揺らぎ……光彩が鮮やかな緑色の光を帯びた。
まるで極上の翡翠のごとき輝きを留め、少女は可憐に歌い続ける。
周囲には、蛍が飛ぶように、彼女の瞳と同じ色のあたたかな光がいくつも生まれ、舞った。
夢幻の彼方に誘い込まれたような心地がするその瞬間を、白陶国の皇帝、趙天翔は茫然と眺めていた。
読んでくださってありがとうございました。
初めてネットに小説を投稿しました。
慣れないところがたくさんですが、楽しく続けられたらと思っています。
8月中に完成できるよう、毎日投稿を頑張ります!
どうぞ応援よろしくお願いいたします。