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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

プレイヤー・マシン

作者: 高峰 玲

─Phase 1 ──────────


 シーン73は雨のアジトだった。

 ミメは雨が嫌いだ。さほど激しい降りではないものの、じっとりとした湿気をおびたシャツが上半身の動きをねっとりと包みこむ。その感触がたまらなくイヤだった。

 廃屋のコンクリートの床はジーンズの尻に湿っぽい生あたたかさしか感じさせない。自分と同じように両足を抱える形で座るレイチェルにミメはコーヒーカップを差し出す。

『オーガスタ、飲んで。体があたたまるわ』

 にっこりと微笑みながらレイチェルが右手をのばす。

『敵襲っ!』

 見張りの男の声にカップは受け取り手を失い床に落ちる。飛び散ったコーヒーのしぶきを熱いと感じる余裕もなくミメは焚き火を蹴散らかす。レイチェルは床のライフルを拾って華麗な身ごなしでガラスのない窓の右側についた。

 銃撃音。怒声。悲鳴。夜の闇の中から雨をかぶりながら銃弾が飛来する。

 レイチェルに助けられてミメは窓の左側にうずくまる。

『きりがないわね』

 場違いなまでに明るく言ってレイチェルは手榴弾を放った。

「カーットぉ」

 その声でシーン73は終わった。

「何やってんのよ、バカっ」

 と同時にミメはレイチェルの張り手をくらった。声をあげる間もなかった。

「主演女優にコーヒーひっかけるなんて、いい度胸じゃない。マシンならマシンらしく、ちゃんと落とす場所を計算したらどぉなの?」

 ほんの少し前までの笑顔はどこへやら、こめかみに青筋たてんばかりの剣幕である。

「すみません」

 目も向けずにミメはあやまった。一度、まっすぐにレイチェルを見てあやまったときに往復ビンタされたからだ。まったく、とか何とか言いながらレイチェルは付人の傘の中へと駆けていった。ゆっくりとミメは立ち上がる。

「大丈夫かい」

 レイチェルがセットから姿を消してやっと、ミメはいたわりの言葉をかけられた。声でわかる。スルトだ。

「ええ」

 手早く口元の血をぬぐい、ぎこちなく表情を作ってスルトから離れる。スルトは主演男優。レイチェルが演じる()()()()()アポロニア現首相オーガスタ・メラビーの夫たるサーリ・ザドル役だ。ふたりで並ぶとやや幼く見えるものの、美男美女のとりあわせで、オーガスタ女史はよろこんでいるという。そのオーガスタの恋敵だったリドラ・ハーコヴを演ずるミメの立場は微妙だ。スルトはとても優しい。だからレイチェルはヒスをおこす。

「何でもないわ」

 感情のない声でそう告げ、ミメは傘もささずに外に出た。足早に与えられた寄宿にもどる。

「風邪をひくよ」

 スルトの声が追う。振り向いて応えた。

「マシンですもの」

 だから平気よ。ミメは走り出す。

 正確にはミメはプレイヤー・マシン。演ずるためにつくられたもの、だ。彼らの多くはクローン技術によってつくられる。SFXよりもさらにリアルな傷を、死を、その他あらゆる人体の変化を表現するためにつくられた演技者プレイヤー。人権保護とマインド・コントロールのためにそのほとんどは人工頭脳化されている。例外は頭部破損死体役だけ。ミメは自分の頭の中身を知らない。知らなくても演技はできる。そして彼女たちは演技の中で死んでゆく。

 次の日。

 広場のセットの中でミメはレイチェルと共にオートモービルを盾に銃をかまえる。

 シーン131。連合宗主国軍との小ぜりあいのすえにリドラ(ミメ)は顔に傷を受けることになっている。オーガスタ(レイチェル)が命をかけて彼女を助け、親身になって看護する。その姿にうたれたサーリとオーガスタの愛が確実なものになるらしいのだが……オーガスタの思い入れを脚本家はかなり盛り込んだのだそうだ。だがそんなことはミメには関係ない。

 実弾での撃ち合いが続く。10秒、20秒。適度に撃ち返しながら、ミメはレイチェルの顔に演技とは思えない喜悦を見いだす。

 そろそろだ。ミメの中の何か、は覚悟を決める。間もなく、彼女の頬をかすめて銃弾が傷を作るのだ。

 しかし──。

 次の瞬間、ミメを傷つけるはずの弾はレイチェルの眉間に小さな丸い穴をあけていた。

「……!」

 あまりのことに声が出ない。こんな、シナリオにないことが起きるなんて?

 奇跡的にもきれいな死顔。まるで眠っているみたいだ。ちゃんと目を閉じている。だが、レイチェルは頭の中身をぶちまけて絶命しているのだ。

 最初に悲鳴を上げたのはカメラマンだった。スタッフとしては当然の反応といえよう。プレイヤー・マシンではなく、俳優が死んでしまったのだから。

 セットの外れで時計じかけの火薬が小規模の爆発を演出している。しかし演技者たちは、凍りついたかのように動きを止めてそれを見ていた。中腰のまま呆然としているミメと、死んでしまった主演女優とを。

「……ぐ」

 思い出したようにミメが口元に手をやる。ミメばかりではない。近くのほとんどが、それに吐き気をもよおしていた。

「動くんじゃない、ミメ!」

 たまらずに洗面所へ走りかけたところへ演出家の怒鳴り声。

「皆もだ。動くな!」

 しかし、口をおさえたままどんどん青ざめていくミメを見て彼は考えを変えてくれた。

「いや、よし。行っていいぞミメ。えーっと、そこの連国軍。お前らはそこ動くなぁ。他はぜんぶ行ってよぉし」




─Phase 2 ──────────


 リドラ・ハーコヴの横顔は一種の不思議な魅力にあふれているとヤクノ刑事は思う。オーガスタ・メラビーの自伝──アポロニアの者ならば誰でも必ず一冊与えられる──《革命の時代(とき)》の巻頭ページの最後にあるモノクロームを見るたびいつも、だ。

 最良の友、と銘打たれたそれは大きな傷痕の残る左頬を画面にさらしている。仮にも女性が、顔の傷を写真に撮らせるだけでも……と、それだけでヤクノはリドラを尊敬に似た思いで見るのであるが、あくまでも前方に向けられたその激しいまなざしはどうであろう。闘争に参加せずとも豊かな生活を保障されていたはずの第一階級に育った女性とはとても思えない。意志の強さだけではない、猛々しくも誇り高い戦うもののまなざしだ。リドラ・ハーコヴの本質がたった一葉の写真に顕れていると彼は思っていた。

 それゆえ彼は怒っていた。

 オーガスタの自伝でも、今回の記録映画《愛は戦場を駆けて》のシナリオにしても、登場するリドラは深窓のご令嬢が物好きにも参戦あそばし、運良くオーガスタのおかげで生きのびたのに、恩知らずにも恋人に横恋慕し、結果フラれてしまう、そんな役まわりだ。そんなはずはないと彼は思うのに。

「あまり得心いかないご様子ですわね」

 深みのある豊かなアルトで彼はハッとする。エイムラ博士だ。ミメのプログラマーをしている。

「そんなことは」

 応えながら指でひっかきまわした髪を手ばやく整える。案の定、次の瞬間、エイムラ博士はモニタールームの照明を入れた。

「ない、というお顔ではありませんよ、刑事さん。しかしミメの深層意識はたった今お見せしたとおり。あの子には人を殺したい気持ちなど、プログラミングされていませんわ」

 憮然とヤクノはうなずく。確かにそうだ。第一容疑者たるミメの深層意識をセンサーを使ってモニターした結果はたいして、いや全く、ミメ有罪の根拠となるものではなかった。ミメの心をさらって出てきたものは、レイチェルへの恐怖、スルトへの淡い好意、そしてエイムラ博士に対する思慕の情だけだ。

「ひとは恐怖心だけで人を殺せはしません。ミメは本質的に温和で柔順なタイプですし」

 そうだろうとヤクノも思う。と同時に怒りがさらに深いものになってくる。

 隣室でセンサーにつながれているミメは、写真のリドラと同じ髪型、服装をしていながら別人だった。顔の造作そのものさえ、そっくりに造られていながら表現がまるで違う。これは冒涜である。

「まさにシナリオ通りにあなたがプログラミングしたんでしょう、その性格は。とすると、ミメを思い通りに操れるあなたにも、レイチェル殺しの容疑がかかってくる」

 彼はわざと意地悪く言った。

「そんな……本当に、事故ではありませんの?」

「事故なら、そもそもおれがこんなとこに来るわけ、ないでしょう?」

「しかし」

 そこで博士は口をつぐんだ。

「何です」

「連国軍がわの銃の照準が狂っていた事実は事故ということにはならないのですか。ひょっとしたら、今日死んでいたのはミメだったかもしれないんですよ?」

「いやだな、博士」

 くすくす笑いながら彼は言った。楽しくて笑うのではない。刑事独特の、例のあげ足とりを狙う手だ。

「おれ、聞いたんですけどね、今日死ぬ予定だったのはミメだったって話じゃないですか。明日、殺されるっていう人間が死を恐れて照準装置を狂わすなんて、ありえそうじゃありませんか」

「ミメはプレイヤー・マシンです。それに彼女に渡されたシナリオではリドラは負傷することになっていました。その負傷に対する恐怖も、数日間のマインド・コントロールでミメの意識に残っていたとは思えませんわ」

「ではこういうのはどうです。照準装置を狂わせたのはあなただ、エイムラ博士」

 唐突にヤクノ刑事は指をつきつけた。博士は顔色ひとつ変えない。落ちついた様子で尋ねる。

「動機は何です?」

「ふむ。ミメを殺されるのが嫌だったから、かな」

「それは何故?」

「ミメが受精卵だった頃から世話してきたんでしょう? ミメだってあなたを慕っている。そのミメを殺したくなかった。どうです?」

「すばらしい動機ですこと。でもそれならば、わざわざレイチェルを殺す理由はありませんね。だって、ミメに弾が当たりさえしなければ良いんですもの。やはりレイチェルの死は事故ですわ。照準装置の件は誰かの故意であるとしても」

「ふ、ん……」

 ヤクノは考えこむ。そういえばそうかもしれない。そして警戒する。彼の母親といってもさしつかえないくらいのご婦人に丸めこまれるなど、みっともないかぎりだ。

「逆にどうしてミメが今回、殺されなければならないのか、おわかりになります? 刑事さん」

「ま、だいたいのことは」

 彼はひかえめに言ってみた。そんなことは、とっくに彼の耳に入っていた。

「卑劣な手段ですわ。オーガスタ首相のリドラ・ハーコヴに対するコンプレックス、ですか? もう何十年の昔のことをネタにリドラ役を殺して首相のご機嫌をとるだなんて」

 エイムラ博士の発言はともあれ、その表情には感情の乱れは見受けられなかった。ヤクノ刑事はすまし顔でそらとぼけた質問を入れる。

「ええと、それはキーノ監督のことですね」

「ええ」

 博士は言った。

「ワルターが、脚本家の、嘆いていました。彼のつまらない出世欲のためにキャラクターの持ち味がかされない、あの映画が駄作に成り下がってしまうと」

「なるほど。では、ワルターさんもリドラ役の死は不必要な演出だと思っていたわけですか」

「……」

 彼のおとぼけに、博士はもう応えなかった。モニターに映るミメの寝顔を見つめている。ひっつめにした赤毛と黒縁メガネに縁取られたその横顔にヤクノ刑事はひっかかりを感じた。それがいったい何であるのか、わからないだけに一層彼は、ひっかかりを解こうと躍起になった。


「……リドラ・ハーコヴだ」


 ふいに解答にぶちあたった。博士のおだやかな横顔に彼はリドラ・ハーコヴの横顔を連想しかけたのだ。

「え?」

 彼のつぶやきに博士が彼のほうを見た。

「あ、失礼。今、博士の横顔を見ていたら、リドラ・ハーコヴの写真を思い出して」

「あの写真? 《革命の時代》の、すごい目つきの」

「そうです」

「……リドラ・ハーコヴがその後どうなったかご存知?」

 ヤクノがはにかみながらうなずくと、少し考えこんでから博士は訊いた。

「その後って、アポロニア独立の後ですか? 確か地方都市平定のために首都を離れ、二度とオーガスタ女史やサーリ・ザドルの前に姿を現さなかったんでしょ」

 博士はかすかに笑ってかぶりを振った。

「それは一般説ね。オーガスタ・メラビーの狂言よ。実際には地方都市へ向かったはずのリドラはオーガスタの手の者たちに拘束されてしまった。もちろん、サーリ・ザドルはその事実を知らない。そしてサーリの突然の死と同時にリドラも」

 ちょん、とエイムラ博士は手で首を刎ねる動作をしてみせた。

「あの写真は、監禁中に無理やり撮られたものよ。革命に身を投じた闘士といえど、女が、よりにもよって顔の傷痕を後世にまで残したいと思うはず、ないでしょう?」

「しかし、何でいったい」

 いまひとつ新事実に順応しきれないヤクノ刑事に、今度はあきらかに博士は笑顔を見せた。何故か、笑顔だった。

「すぐれた革命家であり聡明な政治家となったオーガスタ・メラビーにも、たったひとつだけその信念の清らかさ、判断の公正さをくもらせるものがあったの。サーリ・ザドルという男の存在がそれ」

 そこで言葉を切り、博士はコンソールを操作した。

「貧しい第三階級の家庭に育ち、器量も平凡だったオーガスタは第一階級出身で……美しいリドラとサーリをめぐって三角関係になっていた。独立後はリドラの想い(ねつ)は冷めてしまったのに、サーリのほうがリドラに本気になってしまった。それで……」

「なかなか詳しくお調べで」

 とだけ彼は応えた。

 博士はさらに何やら忙しく手を動かしていた。

「ミメの市民権を申請します」

「それはまた急なことで」

「もうずっと前から考えていたことです」

 やっと手を止め、博士は顔を上げてヤクノ刑事をまっすぐに見た。理知的な瞳に固い決意の色が浮かぶ。

「このままだとキーノはミメを犯人に仕立て上げてしまいます。事故よりも殺人のほうが彼は責任を追及されませんもの」

「だが、オーガスタ役が死んだ以上、彼の今後は明るくはない」

「だから何としても彼は()()()()殺さなければならないのです。ミメに市民権があれば裁判を受けさせられます。キーノの思惑のままにはさせません」

「はァ」

 ヤクノは曖昧な合いの手を入れながら考える。

 何故エイムラ博士はこれほどまでにミメを救おうとするのだろう。ずっと育ててきた母性愛ゆえか、人道のゆえか、はたまた……? 本心をカバーしつつ質問を繰り出す。

「キーノ監督が何としても()()()殺さなければ、とおっしゃいましたね。それは何故です」

 博士の無表情は変わらなかった。

「保身のために。この期に及んでまだ女性の感情を利用できると思っているのならば」

「でも、何故ミメなんです?」

 エイムラ博士は冷ややかに言った。

「ミメがプレイヤー・マシンだから。役柄上プレイヤー・マシンが死んでしまおうと、人を殺すような狂ったマシンを処分してしまおうと罪にはとわれませんものね」

 このときの博士の冴え凍るまでの冷たい微笑を、一生忘れることはないだろうとヤクノは思った。おだやかな博士がほんの一瞬だけ見せた深く激しい怒り。あるいはそれは軽蔑と呼ばれるものかもしれない。

「しかし……何故ミメなんです?」

 ややあって再び訊いたヤクノ刑事の声はかすれていた。ためらう様子もなく、博士はきっぱりと答えた。

「ミメはリドラ・ハーコヴのクローンです。そのことを知っていたのはキーノと私、そしてたぶん、オーガスタ」

「……!」

 愕然としたヤクノは言葉を失ってしまった。何とも言いようのないまなざしで彼をみつめ、博士はうなずく。

「もちろん、ミメにはリドラとしての意識はありません。他のマシンと同じように確固たる自我を持たない全くのプレイヤー・マシンです。今のままで市民権を得て裁判に持ちこめたとして、彼女自身に無罪は主張しきれないでしょう」

「では?」

「リドラの記憶を、注入しました」

 そう告げると博士は目を伏せた。

「そんなものがどうしてここにあるのかは言いたくありません。しかし、それは真実、リドラの記憶でした。記憶というか、認識の礎というか、人格の種です。移植して再生されることは確認ずみです。それが彼女にとって、本当に良いことなのかそれともその逆なのか、すでに私には判断できません。しかし彼女がリドラ・ハーコヴであれば、全てを公正に行わないとオーガスタが許さないでしょう」

「つまり、殺人で裁判になったとしてもミメは無罪になると?」

「いいえ」

 おだやかな中にも確たるものがあった。

「この事件は事故ということになるでしょう。そしてキーノはもう、後もどりできない」

「本当に事故だと思っていますか」

 ヤクノ刑事はいかにも不満そうに尋ねる。

「エイムラ博士、正直に答えてください」

 真剣に、刑事としてのテクニックなどかなぐり捨てて彼は訊いた。

「あなた、ですか?」

「私、ではありません」

 いつわりなく、博士はヤクノ刑事の目をまっすぐに見た。その言葉のニュアンスにヤクノは確信を抱いた。

「あなたは犯人を知っているんですね」

「知っている、と思います」

「誰なんです」

「ミメを殺そうとしたのがキーノ。そのキーノの目論見もくろみを外れてレイチェルが死んでしまった。オーガスタを喜ばせるための仕掛けがレイチェル(オーガスタ)を殺してしまった。因果なものね。結局は事故、でしょうね」

 淡々とした口調が質問への答えを拒絶していた。

「そうですか」

 ヤクノ刑事はくじけてしまったが、何とか言った。

「それじゃ、最後にもうひとつだけ、訊いていいですか」

 博士がうなずく。

「何故、あなたはそれほどまでにミメを?」

 それこそ、彼が先刻からずっと訊きたかったことなのだ。

「私もリドラのクローンだから、かしら」

「えっ」

 博士はヤクノの驚き顔を見ると笑ってつけたした。

「本気にして?」

「ウソなんですか」

 エイムラ博士は笑っただけだった。寂しそうな微笑だった。

 それから、博士はミメの市民権請求のためにキーノ監督の部屋へ行った。キーノ監督はその夜、自殺した。そしてその後、エイムラ博士の姿を見た者はいない。




─Phase 3 ──────────


「結局、真相はどうなんだろうな」

 誰もいない海辺に()を停め、ヤクノ刑事は言うとはなしにつぶやいた。助手席の女性が尋ねる。

「どうしても知りたくて?」

「君、は知っているのか」

 美しい顔に不似合い(かなしげ)な表情を浮かべミメ、いや、リドラはうなずく。

「たぶん。分別ある者が恥を知り、己の悪を憎みはねのけようとしたのならば……エイムラ博士が私だったとしたら、きっと同じ結論に達したと思う」

「そう、か」

 彼は力なく言っただけだった。リドラはそれきり何も言わなかった。

 波の音だけが沈黙するふたりを静かに包みこむ。

 ふと静けさに不安を覚え、ヤクノは首を横に向けた。彼女はそこにいた。エイムラ博士とよく似た寂しげな表情(かお)で水平線をじっと見つめていた。

「……」

 視線を感じて彼女が彼のほうを見る。自然と口元に浮かぶ微笑み。リドラ・ハーコヴのものでもミメのものでもエイムラ博士のものでもない新しい笑顔(かお)


 彼のリドラがそこにいた。






『プレイヤー・マシン』

  ぷれいやー・ましん

     ── 了 ──






挿絵(By みてみん)

Photo:ReiTa


──たとえ世の正義がすべて死に、

絶えはてようとも、生あるかぎり

私は己の中の不正を憎み、これと

戦い続けることだろう……

  オーガスタ・メラビー《革命の時代(とき)》より











プレイヤー・マシンについて法的にはどうなっているのか、というご指摘があったときに、考えたことがあります。


一、プレイヤー・マシンは自我形成されてはならない。

一、プレイヤー・マシンはそれ以外としての使用を許されない。

一、必要とされないプレイヤー・マシンは製造されてはならない。

一、自我のあるものをプレイヤー・マシンとして使用してはならない。

一、プレイヤー・マシンとして著しく危険な性質を持ったものは使用後適切な処理をしなければならない。

一、プレイヤー・マシンたるものに関して市民権を請求された場合それを妨げてはならない。


まあ、法律書ではないのでプレイヤー・マシンには自我がなくマインド・コントロールを受けているとだけ本文には書きました。

何事もいきすぎはよくない、ということを書きたかったようです。

執筆中、学習機能つきのワープロソフトが「新弟子待った主演女優」と女優という職業を理解した変換をしてくれました。



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