血意(けつい)
とんでもねえ。とんでもねえよ。こんなおぞましいことが、世の中でまかり通っているなんて。
これは俺が宝石島の存在を知り、冤罪で捕まってそこにぶちこまれたときの感想だ。
『宝石島』。不必要な人間をかき集め、価値のある宝石に変えて、宝石の雨を降らす島。島の外の奴らは綺麗だとか言ってデートのタネにしたり、写真まで撮ったりするらしい。自分と同じ人間の宝石化を許し、それを喜んでいる奴らがいる。しかもそういう人種が大多数を占めている。全くもって狂った社会だ。
檻の中でムシャクシャしたときは、意識してあいつの笑顔を思い出すようにしている。俺が血を分けた唯一の天使だ。そろそろつかまり立ちでもできるようになったのかもしれない。知らない輩に人殺しの罪を被せられたことには怒り心頭だが、幸いにも娘の命は護られた。
誓って俺は殺してねえ。何度訴えようが警察は動かなかった。ーーこの国に正義はねえのか。叫べば叫ぶほど締め付けは厳しくなり、ついに宝石島送りとなった。
一度決まった罪は覆らず、世界一厳重な警備により脱走など不可能。だが大人しく終わる俺ではない。顔も知らない誰かに命を強制終了されられるなんてごめんだね。華々しく散る道を選ぶ、それが男ってもんよ。
食堂での食事終わり、追いかけてくる職員らを次々とぶん殴って真っ直ぐひた走る。その先に、何でも粉砕してくれる大型処理機があることを俺は知っている。ああこれが俺の一生か。ああなんとも呆気ねえ。だが終わり良ければ全てよし。一瞬脳裏にちらついた娘の顔を、無理やり忘れようとした。できなかった代わりに熱いものが目を濡らしていた。
嬉しくも悲しくも部屋の鍵は空いている。馬鹿か。一目散に駆け寄って大型処理機に片足を掛けた。空いた宝箱のような形をしており、中で何連にも連なった鉄の羽みたいな機械がウィンウィン回っている。
「死んでも宝石になって晒されるだなんてごめんだね俺は! 死者への冒涜もいいところだ、考え直したほうがいいぜあんたら…………。はーーい皆さんさようなら! お元気でぇ!」
職員らの安い悲鳴。怒号。もう俺には関係ないね。飛びこんだ俺を機械は容赦なく受け入れてくれたんだから。痛いというより、熱い。身体のあちらこちらで何かが弾けていく音がする。
薄れゆく意識の中で赤いのが宙に噴出するのが見えたから、俺はそこそこ満足して目を閉じた。今四方八方に好き放題飛び散っているであろう俺の血液は、どんな宝石よりも美しく輝いていることだろう!