7話
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
いよいよ、乙女ゲーム的な展開になります。
そんなこんなで、明日は受験日。辛い受験勉強もようやく終わる。自分だけ落ちたら、とか嫌な考えが浮かんでくる。こんな時は身体を動かすのが一番だ。
「明日、試験だろ。」
その日の勤務を終えて、酒を飲んで寛いでいるヒューバートを訓練場に連れ出した。受験勉強が始まっても夕食前の30分は稽古をつけてもらっていた。今日もつけてもらったのだが、もう一度つけてもらうことにしたのだ。
身体をほぐしたあと、基本の型を一通りする。もう、何年もやっているので、意識しなくても体が自然に動く。
何も考えない。ただ、真っ直ぐ前を向き見えない敵と対峙する。不思議と気分が落ち着く。
「それにしても、王立高等学院か。騎士学校の学科をなんとかクリアした俺と違って、お前は頭いいもんな。
ギルベルト、剣と同じだ。剣を交える前、相手と対峙した時相手の方が強いかもと思った瞬間に、負けている。
お前なら、大丈夫だ。汗をながして、もう、寝ろ。
合格したら、褒美にいいところに連れて行ってやる。」
と、頭をグリグリ撫でられた。
翌朝、試験当日。いつものように起きて、朝食をとった。不思議と心穏やかだ。どちらからともなく、グロリアと手を繋いで玄関まで行った。
ドアの外、止まっている馬車を見た時、「ああやっぱり」と思った。止まっていたのは王太子の馬車だった。
「おはよう。」
「おはようございます。アーサー殿下とグロリア様、ギル殿と私は警備の関係上、別室で試験を受けるんだそうです。別々に行くよりは一緒に行った方がいいだろうとアーサー殿下が仰って。」
まともな理由だ。王太子と婚約者のグロリアが別室で受けるのはわかるが、なんで俺とウィルも別室なんだろう。
馬車は正門ではなく、横手の西門から入る。警備の都合上、一般の受験生とあわないようにしているらしい。
一般の受験生と動線が交わらないようにしてあるとは言え、全く見かけないわけではない。中庭を囲む回廊にも一人いる。迷子か?不安げにキョロキョロしている。俺たちの姿を見て、「あ〜!」と手を振りながらこちらに走って来た。警護の騎士がすぐ間に入り彼女を拘束したが、王太子が拘束をとくように手振りで示しため、案内の教師のひとりが一般の受験会場の方へ連れて行った。連れて行かれる時も「え〜、なんで〜」と騒いでいる。
滅多に自分から話をしないウィリアムが心底呆れたように言う。
「学校は広いから迷子ですかね。しかし、いきなり警護の騎士を連れている人物に大声を出しながら駆け寄ってくるのはどうなんでしょう。結果はわかりそうなものですが。」
グロリアも話し出す。
「突然大声を出して駆け出されて、どうなさったんでしょう。嫌なものでも、みつけられたのでしょうか?」
「グロリアは何か嫌なものがあるの?あるなら俺に言って。グロリアの嫌なもの、全部無くしてあげる。俺が一生、守ってあげる。死んでからも。」
「アーサー殿下、先生方が困っていらっしゃいます。早く、行きましょう。」
二日にわたる試験は別室で無事に終了した。試験科目の間の休憩時間に「グロリア成分が足りない」と王太子がグロリアの手を頬に擦り寄せていたりとかしていたが、ことごとく無視した。と、いうか日常茶飯事だった為、逆に平常心を取り戻すことができた。
一週間後、学院から封筒が届いた。中には合格通知が入っていた。俺はすぐにヒューバートに見せに行った。伯父上には報告したのかと聞かれたので「まだ」と答えたところ、順番が違うと苦笑と軽いゲンコツをもらった。
グロリアも王太子もウィリアムも合格したようだ。一安心。
合格通知をもらってから十日後、ヴェストニアから上の兄のミヒャエルが来た。
「ギル、おめでとう。お祝いを言うのが遅くなってすまない。弟がエルメニア王国の王立高等学院に合格なんて、私も鼻が高いよ。父上も義母上も喜んでおられる。
お祝いは是非とも、はずまないとな。念のため、伯父上と父上の許可はとってある。軍資金も分捕ってきた。」
許可のいるお祝いってなんだ?軍資金?俺の心だけでなく、魂もアラートを鳴らしている。
「あ、お気持ちだけで。」
「まあ、遠慮すんな。たまには、兄らしいことをさせてくれ。」
その日の夜、俺は強引にある店に連れて行かれた。
兄上とヒューバートからのお祝いがなんだったかは話したくない。