おまけ
エピローグを62話にして、こちらをエピローグにしようとしましたが、やめた話です。
鬱展開です。
ガタンと大きく揺れて、俺は目を覚ました。ここはどこだ。俺は辺りを見回す。ガタガタと車輪が回る音に、流れていく景色。どうやら、馬車の中のようだ。俺はさっきまで、領の自分のベッドに横たわっていたはずだ。どういうことだろう?
女の子が話しかけてくる。
「ギル、ガタンってなったから、ビックリしちゃったの?」
この屋敷に俺のことを「ギル」と呼んでくれる者は、もう、誰もいない。なのに何故、この女の子は、子供の頃のグロリアにそっくりなその女の子は、俺のことを「ギル」と呼ぶのだ?
「グロリア、結婚したい人はいる?ギルベルトと、、、」
懐かしい声だ。しかし、俺を「ギルベルト」と呼んでくれる人間も、もう、この世にはいない。なのに何故?俺は声の主の顔を見る。
伯父上だ!伯父上はもう、何十年も前に亡くなったはずだ。俺が柩の釘を打った。しかし、目の前の男性は伯父上だ。俺がまだ子供の頃の伯父上。俺は隣の女の子を見る。子供の頃のグロリアにそっくりなんじゃない、子供の頃のグロリアだ。俺がグロリアを見間違えるはずはない。どういうことだ?それに、俺の目の高さは、ほとんどグロリアとかわらない。俺は自分の手を見る。シワもシミも何一つない、綺麗な子供の手だ。
グロリアが答えている。
「・・・におっしゃるのなら、ギルと結婚する。ギルが私のこと、嫌じゃなければだけど。ギルのこと、、、」
俺はこの場面を知っている。これは、あの場面だ。あの、王太子との初めての茶会の帰りの馬車の中だ。どういう事だ?人間は死ぬ前にそれまでの人生を走馬燈のように見るという。それなのだろうか。
それにしては、すべてが現実的だ。もしかして、生まれ変わり?しかし、生まれ変わっても、俺自身だ。遠い国には「魂は何度でも生まれ変わる」という宗教があり、時に前世の記憶を持った者がいるという。俺自身もそういう人に会った。もしかして、俺自身に生まれ変わったのか?
伯父上が俺に話しかける。
「ギルベルト、お前はどう?」
この後の事はよく知っている。俺は「グロリアは大好きだけど、結婚するのは違うと思う」と答える。グロリアは王太子と婚約、結婚。幸せな人生を送るのだ。けれど、今世でもそうなるとは限らない。もともと、グロリアと王太子は政略結婚なのだから。王太子はグロリアのことを愛さないかもしれない。好きな女性ができて、婚約破棄するかもしれない。一旦結んだ婚約を破棄する為に、グロリアに濡れ衣を着せて、処刑するかもしれない。けれど、婚約しなければそれらを全て回避できる。
俺はグロリアがどんなに王太子を愛していたか知っている。また、王太子がグロリアをとても愛していたことも。俺も、妻と子供達を愛していた。けれど、今世でも王太子がグロリアを愛するかわからないし、俺も妻や子供に会えるかもわからない。ならば、今いる方を取るべきではないか?
俺はこう、返事をした。
「俺は、グロリアと結婚したい。グロリアが世界で一番好きだから。」
「本当?私もギルが、世界で一番好き。お父様、私もギルと結婚したい!」
伯父上は「そうか」と微笑んだ。
それから、俺達は婚約し、年頃になったら結婚した。基本的に領で暮らしたので、王宮に行くことはなく、王太子に会うこともなかった。
伯父上が「そろそろ引退をしたい」と言い、俺に爵位を譲った。ノーザンフィールド公爵となった俺は、挨拶のために王宮に行き、王太子、すでに国王になっていたので、陛下に謁見した。
陛下は、
「以前、一度会ったのだが、覚えておられるか?あの茶会は見合いだったのだが、私はフラれてしまったよ。グロリア嬢、失礼、今はノーザンフィールド公爵夫人だったな。お元気でおられるか?是非、お会いしたかったのだが。」
と言われた。俺は「息災でおります。先月、初めての子を出産しましたので、本日は失礼しました」と答えると、「幸せなのだな」と言われた。その顔はどことなく寂しそうだった。
陛下は建国以来の廷臣であるサンタナ伯爵令嬢ドロシア嬢と結婚されたが、殿下には想い人がいて、あまり夫婦仲はよくないとの噂だ。その想い人が誰かは色々な噂があったが、もしかしてグロリアだったのだろうか?前世ではグロリアに一目惚れだと言っていたから、今世でも、そうだったのかもしれない。
領に帰った俺は、代々のノーザンフィールド公爵のように中央の政治とは距離をおいて過ごした。グロリアはあの茶会以来、王太子、今は陛下だが、に会っていない。俺は何度も陛下に「今度は夫人も一緒に」と言われたが、「妻は領が好きなので」とその度に断った。実際、グロリアは領が好きで領からでるとしたら、アルトドラッヘンに行くくらいだ。
「ギル、私、ギルと結婚できて幸せだったわ!生まれ変わってもギルと結婚する!」
グロリアの最後の言葉を思い出す。俺も幸せだったよ。グロリアと王太子の幸せな未来を俺が奪ってしまったという罪悪感に苛まれ続けたことを除いては。けれど、これは俺の罰だ。グロリアと王太子の幸せを奪った罪の。
もう、身体が動かない。瞼も重い。
グロリア、もし生まれ変わったら、今度は間違えないよ。だから、許して、、、
ガタンと大きく揺れて、俺は目を覚ました。
何度目だろう?今度こそ、、、
これで、本編は全て終了です。
作者の思いつくままに書いた拙い文章を読んでいただき、ありがとうございました。
見返したつもりでも見落としていた誤字脱字、また、間違った言葉の使い方もご指摘くださり、ありがとうございます。
本来なら、ここで終了ですが、まだ書き足りない気がしたので、本編で書ききれなかった事を、続編として、書くことにしました。よろしければ、引き続きお読みいただければと思います。