3話
永遠とも思える長い時間がながれた。侍従がトレイに綺麗な壺を乗せてきた。
「ノーザンフィールド公爵、公爵令嬢、辺境伯令息、今日はご苦労だった。これは先程の紅茶だ。
ノーザンフィールド公爵令嬢、この紅茶を飲むたび、私のことを思い出してほしい」
そう言って、グロリアの前にひざまづき、指先にキスをした。
帰りの馬車の中で、先に口を開いたのは、伯父上だった。
「グロリア、結婚したい人はいる?ギルベルトと結婚したい?正直に答えて。」
なんで、今更そんなことを聞くんだ?先程の茶会はグロリアの見合い、いや、顔合わせだろう。今更聞いてもどうにもならない。それに、社交界にも出ていないグロリアに結婚したい相手の候補がいるとも思えない。
外を見ていたグロリアが伯父上の方に向き直る。
「お父様がギルと結婚するようにおっしゃるのなら、ギルと結婚する。ギルが私のこと、嫌じゃなければだけど。ギルのこと、一番好きだけど、他の方と結婚する様におっしゃるのなら、その方とする。ただ、ギルと離れたくない。ギルと会ったらダメっていうような人とは、いくらお父様が決められた方でも結婚しない。」
伯父上が俺の方を向く。
「ギルベルト、お前はどう?」
「俺も父上や伯父上がそう望むなら、そうする。他の人と、と言われるのなら、それでもいい。グロリアのこと大好きだけど、世界で一番好きだけど、結婚したいかと言われたら、よくわからない。違うように思う。ただ、結婚したからといって、グロリアと会えなくなるのは嫌だ。」
俺は正直に答えた。世間は俺のことを「グロリアの婿になって公爵家を継ぐ人物」と言っているけど、俺の身近にいる大人でそんなことを言っている者は誰もいない。だいたい、俺とグロリアはよく似た容姿だ。小さい頃はこっそり服を変えてメイドを混乱させる悪戯をよくやったものだ。自分と同じ顔と結婚するって、どうなんだ?
伯父上は「そうか」とだけ答えた。
伯父上にききたいことはいろいろあったけど、茶会で疲れていたらしく、すぐに寝てしまった。