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ある公爵の若き日の思い出   作者: 桂木
本編
39/176

34話

 ルイス伯爵夫人のお茶会に呼ばれた。グロリアだけでなく、俺も招待を受けた。結論から言うと、また騒ぎになった。グロリアに対して「よく来てくれた」と言うルイス夫人の言葉が終わらぬ内に突然喋りだした夫人がいたのだ。

「本当によく来れたわね。あれだけのことをしておいて、恥というものをご存知ないのかしら?」

グロリアに喋る間を与えず、次の言葉を繰り出す。

「まあ、都合の悪いことになるとダンマリですの⁈貴女のせいでどれだけの人間が不幸になったかご存知なのかしら⁈王太子殿下のご寵愛をいいことに人を陥れて!殿下は本当は男爵令嬢を愛してらっしゃるのよ!」

言っていることが矛盾しているが、さらに話し続ける。

「なんて憎たらしいんでしょう!身分をかざして、いやらしい!こんな女と婚約なんて殿下がお可哀想ですわ!あんな騒ぎをひきおこしながら、ご自分から婚約の解消もせず、なんて厚かましい!なんか言ったらどうなの!」

さらに暴言を続けようとするクラーク子爵夫人をルイス伯爵夫人が嗜めようと声をかける。

「まあ、なんて礼儀のなっていない!確かに貴女の方が年上ですけど、たかが伯爵夫人。次期侯爵夫人の私の話を遮るなんて!」

止めようとするルイス夫人を振り切って、まだ喋っている。叫んでいる?すごい、その一言に尽きる。よくここまで矢継ぎ早に喋れるなぁ、いつ息継ぎしてるんだろう?昔、歴史の本で見た外国の連射式のクロスボウの矢を言葉にしたら、こんな感じだろうか?俺だったら、絶対、息切れして脳貧血で倒れる。

 グロリアの方を見ると、目を輝かせてクラーク夫人を見ていた。俺はあの目を知っている。小さい頃、王都の動物園に行った時。領地で大きなワニの剥製を見た時、蛇を見つけた時、蛙を捕まえた時、図鑑で外国の珍しい動植物を見た時、他にもいろいろ、あんな目をしていた。アレは珍獣を見る目だ。グロリアにとってクラーク夫人は同じ括りらしい。まあ確かにそう思えなくもない。だとするとアレを制御できないルイス伯爵夫人は猛獣使い失格だな、夫のクラーク子爵は制御できるんだろうか?もし出来ているなら俺もそんな日がくるかも知れないので、来て欲しくはないが、弟子入りしといた方がいいんだろうか?とかそんなことをボンヤリ考えていた。

「なんか言ったらどうですの、グロリア!」

名前を呼び捨てのうえ、扇子で指差された。次期侯爵夫人と現公爵令嬢で未来の王太子妃、どっちが身分が高いんだっけ?一瞬とはいえ、本気で考えてしまった。

 ガタン!と大きな音と同時に、突然、紅茶が降ってくる。紅茶をかけられそうになったグロリアを控えていた騎士が咄嗟に後ろにさがらせた際に椅子が倒れたらしい。あちこちで悲鳴があがる。けれど、紅茶をかけられるはずだったグロリアの反応は違った。

「ねえ、ギル、きいた?私に話しかけてくれたわ!」

ソウダネ、珍獣ニ話シカケラレタラ嬉シイヨネ。俺はちっとも嬉しくないけど。昔「女同士の争いに決して口を出してはいけない。沈黙こそ金」とヒューバートは言った。兄貴の言葉には従う事にしたい。話しかけるな。

「どうして、そんな女庇うのよ!その女は極悪人なのよ。その女のせいで妹はあんな男と結婚させられたのよ!」

クラーク夫人がケーキ用のフォークを手にしている。紅茶ならまだしも、フォークは流石にまずい。しかし、夫人がフォークを投げる事はなかった。もう一人の護衛の騎士に取り押さえられたのである。

 あのエヴァンズ侯爵家の件以来、王太子からグロリアの外出にはブルーローズ家の騎士だけでなく王宮の騎士も複数護衛につけられており、どんな場所にも必ずついて行くように厳命されている。この件は王太子に過不足なく報告される。グロリアと王太子はまだ結婚していないので反逆罪の適用はないだろうが、クラーク子爵夫人には刑法が適用され、前科がつくかもしれない。

 俺がそんなことを思っているとグロリアが間抜けな発言をする。

「あの、離してくださらない?ケーキが食べられないわ。」

あまりにも間抜けな発言に騎士の手が緩む。グロリアが騎士の陰から出てきて、倒れた椅子をなおし腰掛ける。

「クラーク子爵夫人、その格好は新しい体操かなにかですの?できれば先にお茶をよばれましょうよ。ケーキ、美味しそうですわ。

ルイス伯爵夫人、紅茶が冷めてしまいましたわ。申し訳ないけれど、新しく淹れていただけるかしら。」

「え、ええ。ケーキもお取り替えいたしますわ。」

みんな、グロリアの能天気発言に引きずられている。

 いち早く我に帰ったのは護衛の騎士だった。

「グロリア様、すぐに退出を。」

「どうして?まだ、ケーキをよばれてないわ。それからクラーク夫人の体操を手伝うのは後にしてもらえるかしら。」

不思議そうな顔をするグロリア。

「あの、夫人が紅茶を、、、フォークも、、、」

「初めて知ったわ。紅茶って結構飛ぶのね。でも一番驚いたのはクラーク夫人ではないかしら。手が滑ったらあんなに紅茶が飛んだんですもの。少し、ご気分ごすぐれないのかしら。」

 グロリアの意図に気づいた騎士が素早く部屋の外に出て行った。侍女を呼びに行ったのだろう。クラーク夫人はテーブルに押さえつけられながらも少しは自由になる顔をあげる。

「何、馬鹿なこと言っているの!この馬鹿な女に妹も他の令嬢も将来をめちゃくちゃにされたのよ!皆様、騙されないで!」

夫人は喚き続けている。ここの騒ぎは伝えられていたのか、控え室から侍女はすぐに来た。騎士が夫人を侍女に渡す。夫人は侍女二人に宥められ、引きずられるように連れて行かれた。

「クラーク子爵夫人はご気分がすぐれないご様子でしたので、夫人の侍女をお呼びしました。勝手な行動をとって申し訳ございません。」

騎士が謝る。

 グロリアが真っ青な顔のルイス伯爵夫人に声をかける。

「ルイス伯爵夫人、夫人もご気分がすぐれないのでは?ご気分のすぐれないままではご招待いただいた私達も心配です。せっかくのお茶会ですけれど、日を改められた方がよろしいかと。皆様、どうでしょう?」

「ええ、そうですわ。ご無理をなさる必要はありませんわ。」

賛同の声があがる。次回夫人の体調が戻ったらということになり、解散となった。

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