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ある公爵の若き日の思い出   作者: 桂木
本編
25/176

21話

 歴史の授業。何故か隣にはチェイサー嬢が座っている。他に空いている席があるのに。

「あっ、歴史地図帳がないわ!確かに入れたはずなのに。どうしましょう!」

俺の方を見て言っている。一緒に見せろということか。

「私のをどうぞ。」

グロリアが歴史地図帳を持ってやって来た。

 助かった。グロリアが貸さなかったら、流れ的に俺が見せてやらなければいけなくなるところだった。グロリアに対するいろいろな件もあって、チェイサー嬢のことは好きではない。しかし、歴史地図帳が無ければ授業にならないのも事実だ。まあ、見せてやるくらいは別に構わないんだが、後からしつこくお礼に誘われるのが嫌だ。以前しつこく誘われて閉口した。

「あ、ありがとうございます。」

貸してもらったのに、顔を歪ませながらお礼を言うチェイサー嬢。

 グロリアは王太子の隣の席に戻って行った。グロリアの横にピッタリとくっつき腰を抱く王太子。歴史地図を見せるという口実ができて良かったですね、と周りの視線。最初の頃こそ王太子のグロリアに対する自重しない(俺から見ればかなり自重していたが)溺愛ぶりに驚いていた級友も、最近は慣れてしまったようだ。近頃は少し離れているだけで、「喧嘩した?」と聞かれるほどである。多分、あの二人は喧嘩なんてしない。喧嘩になる前に王太子が謝りまくり、グロリアの機嫌をとりまくる。だから、喧嘩にならない。

 授業中、何故かチェイサー嬢が俺の方をチラチラ見る。やはり俺と一緒に見るつもりだったのか。もしかして、わざと忘れた?もう、諦めて前を見て授業に集中しろ。

 歴史の授業が終わって、チェイサー嬢が歴史地図帳を返しに来た。

「ありがとうございました。」

事務的にそう言って歴史地図帳をグロリアの前に置くと、さっさと行ってしまった。以前、俺が見せた時は「お礼に」としつこく誘われたが、今回は言葉だけだ。けれど、それが普通だろう。

「ギル殿の時とお礼の態度がひどく違いますね。」

ウィリアムが苦笑いしながら言った。

 ナタリー嬢がグロリアに話しかける。

「あれも、思うことの一環なの?」

「あれ?」

「歴史地図帳を貸してたじゃない。ほっとけばいいのに。」

「別の思うこと?」

「なんで、疑問系なのよ。ホント、グロリア楽しいわ。

今度、お茶会しようと思うのよ。正式なものにするといろいろ面倒だから、ごくごく内輪で。また、案内するから、来てね。」

 

 放課後、グロリアが鞄の中を探している。

「グロリア、どうしたの?」

「ミヒャエル兄様から頂いたペンが無いの。」

「え、今日はペンは3本持って来てたよね。午後一番の授業までは3本ともあったよね。どれが無くなったの?濃い青い方?薄い方?それとも花の絵が書いてあるヤツ?あ、あれはミヒャエル殿からのじゃなかったから違うか。どっちが無いの?」

 グロリアの筆入れの中身を全て把握してるのか?別々に暮らしているのに何故、知っている?と思ったが、朝、王太子がグロリアの筆入れの中身を確認してたことを思い出した。筆入れだけではない。他の持ち物も登下校時、我が家に上がり込んで確認している。多分、ハーウェイのメモの件があったからだ。

 ハーウェイの父親は実力派の舞台俳優だ。ハーウェイ自身は本人がいうには才能が無いらしく、作家兼脚本家を目指しているらしい。それもあって、物知りだ。本もよく読んでいて、それこそ古典から現代物、物語から科学論文まで。調べ物をしていたグロリアが相談をしたところ、いくつかの本をピックアップしてメモ書きをくれた。書いてあるのは「本の題名、作者、出版社。所蔵している図書館や個人。自分が貸せる本の題名」だった。なのに、それを見つけた王太子が「俺が借りて来てあげるよ」とそのメモを取り上げた。

 ハーウェイの教えてくれてた本はどれも出版部数が少なく絶版になっているものもあり、公爵家と言えども手に入らないものもある。それで、借りられそうなところもメモしてくれていたのだ。

 グロリアのいない王太子の執務室。

「グロリアにあんな不快な物を寄越すなんて。グロリアが他の男の書いた物を持っているなんて耐えられない。だいたい、ハーウェイも執事や侍女も通さず直接手紙を渡すなんて何を考えているんだ。

まさか、ハーウェイもグロリアの事を。だから、か。取り敢えず、アイツの父親の演っている演目を不敬罪で禁止、逮捕させるかな。」

 婚約者がいる女性に遊びで手を出す男もいるし、条件のよい場合は横取りする男もいる。けれど、王太子のグロリアへの溺愛と執着ぶりを知っている級友がグロリアに手を出すことは絶対にないと思う。よくて自分だけが、多分一族が破滅させられるとわかっているから。王太子にはそれだけの権力と頭脳がある。級友がグロリアに向ける視線は恋愛感情ではない。まったくないわけでは無いだろうが、王太子の独占欲の対象にされていることに対する同情と級友への友情くらいだ。王太子が心配するようなことをする連中は学校や登下校時に連絡を取らない。警戒する範囲が間違っている。登下校時にグロリアの持ち物を確認しても意味無いと思う。本当にこの王太子、グロリアのことになると残念になるな。ただ単にグロリアの持ち物を知りたいだけ?

 さすがに演目禁止、逮捕など周りがさせないだろうが、この王太子、下手に優秀なので油断はできない。ここでなんとかしなければ。

「庶民に人気の演目です。多少、不敬なところもありますが、芝居に目を向けさせている方が得策でしょう。下手に禁止すると事実だと疑われかねません。放っておくのが良いでしょう。」

さすがウィリアム、長年王太子の側近をしているだけある。

「そうか、それもそうだな。」

王太子もウィリアムの提言は採り入れる傾向にある。なんとか、収まってよかった。

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