19話
屋敷に帰ると王太子が一生懸命グロリアの機嫌をとっていた。
「ああ、ウィル、ギルも。侍従長の奴がグロリアが私に毒を盛ろうとしたと言うんだ。」
「どういうことです?」
ミヒャエル兄上の声が怖い。
「せっかく、グロリアが私のために料理をしてくれたというのに。」
俺もウィリアムも兄上も頭の上に疑問符が飛び交う。王太子のために料理したのなら、侍従長も承知なのでは?なのに、毒を盛ろうとしたと言うのはおかしくないか?何か怪しい行動をとった?それとも侍従長に言わずにグロリアが独断でした?
そこへ侍従長がやって来た。俺たちが帰って来たのを聞き、急いできたのだろう。息があがっている。
「違うんです。私もグロリア様が殿下に毒を盛ろうとしているなんて思ってません。ただ、たとえグロリア様の料理されたものでも、毒見無しにお召し上がりになるのはおやめくださいと申し上げたんです。」
侍従長の話によると、グロリアの調理した魚のムニエルを王太子が毒見無しに食べようとした。問題なのはその魚はグロリアが自分で釣って、自分で捌いて調理したということ。その魚の種類や調理過程を王家の人間は誰も見ていない。グロリアが毒を盛ったとは思わないが、さすがに毒見なしに王太子に食べさせる訳にはいかない、ということらしい。それならば、侍従長が正しい。
やはり、グロリアの独断か。王太子の毒見のこと、知らないはずもないのに何か変だ。
「私のムニエル、、、」
グロリアが無念そうにつぶやく。なんか、真相がわかってきた気がする。
「グロリアが殿下に食事をお出しした経緯を伺いたい。」
兄上は侍従長に聞いたのに、王太子が答える。
「今朝、少し寝坊したんだ。朝食を取ろうと食堂にいったら、グロリアがムニエルを持ってきてくれた。それなのに、侍従長が毒見が必要だとかぬかすから、グロリアが非常に傷ついてしまった。せっかくのムニエルは冷えるし。あんなに落ち込んで可哀想に。
グロリア、俺はグロリアが俺に毒を盛ろうとするなんて思ってないよ。グロリアはそんなことするはずないもの。でもグロリアが俺に毒を盛ろうとするなら、それなりの理由があるよね。他の男が好きになったとか。
マクミランか。アイツなのか?アイツのどこがよかったんだ?ああ、アイツの家はもともと宝石商だったな。宝石でグロリアの気を引こうとしたのか?マクミラン商会を徹底調査させよう。何か落ち度があるはずだ。無ければ作って取り潰しにする。
グロリア、グロリアが欲しいならどんな宝石でもプレゼントするよ。「青い星」も「海の精霊」だってあげる。だから俺だけを見て!」
侍従長が青ざめている。マクミラン商会は王家をはじめ多数の貴族の御用達だ。外国の要人にも顧客がいる。そんな店を粗探しして、落ち度が無ければ冤罪を捏造してまで取り潰そうとしている。そして、「青い星」も「海の精霊」も王家の秘宝だ。この王太子、本当に優秀な人物だが、グロリアが絡むとこれ以上ないくらい残念な人物になる。
キョトンとしてグロリアが言う。
「ミスター・マクミランがどうかしましたか?別に宝石はいらないですよ。それにどうして、私がアーサー様を嫌いになるのです?いったい、急にどうなさったのですか?」
「グロリア、、、」
王太子は嬉しそうな顔をしている。
俺と兄上は顔を見合わせて苦笑する。グロリアはけっこう食いしん坊だ。自分が食べるつもりでムニエルをつくったのだ。それを勘違いした王太子が食べた。多分、そんなところだ。けれど、幸せな勘違いはそのままにしておこう。
次回は【閑話】恋する王太子のぐだぐだ日記、です。王太子から見たギルベルトの話です。読まなくても、本編には影響しません。
次次回はまた、本編に戻ります。




