16話
お読みくださり、ありがとうございます。
今回はカーライル嬢が王立高等学院に入学した理由です。
後半は婚約者が好きすぎて、思考がちょっと残念になっている王太子の話です。
読まなくても、次からの話の続きには影響しません。
結局、ピンクの髪のカーライル嬢はフーランディア公のお話されたゲームのヒロインではなかったようだ。ただのそそっかしい令嬢だった。
仲良くなったグロリアがそれとなく聞いたところ、「あ〜、たまに聞きますよね、前世の記憶がある話。でも、あれって、何で揃いも揃って王様だったとか、聖女だったとか特別な職業や、波瀾万丈な人生なんですかね。人口の割合で言ったら普通の人の方が多いんだから、一人くらい平民だった、平凡な人生だった、って人がいてもいいと思うんですよね。」と言われたそうだ。そそっかしくとも王立高等学院に受かるだけあって、論理的な思考をしている。グロリアは「平凡な人生の人はわざわざ、言わないだけなんじゃないかな」と言っていた。俺もそう思う。
さらに、驚く話をグロリアから聞いた。かの令嬢、婿養子を取って家を継がないといけないらしい。しかし、本人には相思相愛な人が王都にいて、意に沿わぬ結婚をさけるために進学したと。それで、アルバラ校でなく学院を選ぶとか、根性すごいなと思う。しかし、王立高等学院なら、ご両親も文句は言えないだろう。将来のエリートが通っているので、田舎男爵の自分達が用意できる見合いより条件が良い相手が見つかることのほうが多いと思われる。カーライル嬢は農業経営を学ぶ予定らしい。
一緒に昼食を取っていて、その話になった。
「相手、平民なんですよね。それで、父が反対してて。ウチ、貴族と言っても男爵家のさらに末席の方だし、どちらかじゃなくてはっきり貧乏だし、婿養子に来てくれるんだったら平民でも構わないと思うんですよね。でも、彼、父に認めてもらえるよう、この王都で頑張ってるんです。なのに、私だけがのほほんとしてる訳にはいかないです。基本、うちの領地は農作物が主体なんで、私が領地経営頑張って少しでも豊かになれば彼との結婚を認めてくれるんじゃないかと。
母ですか?とんでもない親ですよ。どうせ何やっても父が認めないんだから、駆け落ちして子供でも作ればいいじゃない。そうすれば認めない訳にはいかないでしょ、って私を送り出す時に言いましたもん。
もう、貴族令嬢がというより、普通、娘に言います?そんなこと。」
ナタリー嬢は頬に手を当て「キャー」なんて言ってるが、嬉しそうだ。グロリアは「そう言う説得方法もあるのですね」と感心している様子。ウィリアムは苦笑して、王太子は固まっている。俺は「グロリアは子供が欲しいの?」と王太子が言いださないことに安堵していた。
合格以来、公爵家に滞在しているミヒャエル兄上にそのことを言ったところ、「お母上の案が一番手っ取り早いし、認めて貰える可能性も一番かな。」と言ったので俺は変な顔をしていたんだと思う。
「女は現実的で、男の方がロマンチストなんだよ。」
と頭をポンポンされた。兄上はしばらくこっちにいると言う。理由は知らない。聞く気もない。絶対、聞かない方がいい。
しかし、そこまで心配していたわけではないけど、少なくともこれで、俺や王太子、オールドベリー公爵がヒロインに攻略される心配はなくなったわけで、グロリアもナタリー嬢も悪役令嬢にならなくて済んだ。もっとも、そんな事態になったら、ナタリー嬢は相手の不貞を申し立てて自分から婚約破棄しそうだ。グロリアはどうするだろう。
王太子の前でそんな失言をしてしまった。
「俺がグロリア以外の女性を愛するわけないだろう。俺がどんなにグロリアのことを思っているか、一緒にいるお前にはわからないのか。本当はグロリアの姿を他の男が見るのも嫌なのに。声も聞かせたくない。他の男がグロリアの名前を口にするのも許せない。もう、どこかに閉じ込めて、俺だけがグロリアを堪能できたらいいのに!
先日、マクミランがグロリアの万年筆に触っただろう。あれ、不敬罪が適用できないか、法律学を学んでおられる兄上に相談したんだ。」
マクミランはグロリアが図書室に忘れた万年筆を届けてくれただけだ。親切にして王太子に睨まれるって不憫すぎる。
どこが不敬罪なんだ?適用できるわけないだろうと思いながら、一応聞いてみる。
「で、適用できるんですか?」
「無理、と即座に言われた。あの万年筆、合格祝いにお前の兄上のミヒャエル殿から貰ったものらしいので、捨てろとも言えないし。言ったら、確実に俺が嫌われる。けど、他の男が触った物をグロリアが使っているかと思うと。」
先日王宮の廊下ですれ違った時、「迷惑かけるね」と苦笑いされたのはこれの事かと合点がいった。フーランディア公もそんなことを相談されて、さぞ、驚かれたことだろう。
王太子とグロリアは政略結婚の婚約だけど、王太子は本当にグロリアのことを大事に思って、実行してくれているのを知っている。ただ、非常に、本当にはなはだしく大事に思ってくれているだけだ。俺はそう、思い込むことにした。
次回から、また、本編に戻ります。