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ある公爵の若き日の思い出   作者: 桂木
悪役令嬢と噂話
147/176

6話

 放課後、グロリアも乗せたままま、馬車は王宮へ行った。今迄いた王太子の執務室付きの役人が休んでいるから、平日も毎日行った方が良いと思ったからだ。新しい役人は来たが、彼ほどは慣れていないから、どうしても仕事の効率が悪い。

 新しい役人は王太子とグロリアのことが気になるようだった。それはそうだろう。王太子は合間に「グロリア、手を出して」と言ってグロリアに手を出させ、グロリアの手を自分の手で挟んだり、頬に当てたりしているからだ。俺もウィリアムも無視しているが、そういうことは、人のいない場所でしてもらいたい。侍従長がいれば注意もするのだろうが、今日は彼はいなかった。聞けば私用で休みだと言う。

 宰相が部屋に来て、俺を廊下に呼んだ。

「何ですか?」

「エディはいつこっちに来るんだ?」

唐突な質問に戸惑う。伯父上は今は領に帰っている。今日の船で帰ってくる予定のはずだ。船は夕方に着くだろう。


 家に帰ると伯父上はもう帰っていた。思いの外,船が早かったらしい。既に宰相は来ていて、俺とグロリアは伯父上の書斎に呼ばれた。椅子に座ると宰相が話し出した。

「ギルベルト、お前も十分理解しているだろうが、貴族の結婚は個人のものじゃない。家の問題だ。外国との、それも王族となると、家だけでなく、国の問題となる。」

そんなのは当たり前だ。なんでそんなことを今更言うんだ?

その言葉に続けて、宰相は

「トレア大公国のユーグ殿下はお前に妹君のロクサーヌ殿下の降嫁を打診してきた。是非、エヴァンズ侯爵の力でまとめて欲しいと。

やられた。妹君二人の留学はこのためだったんだ。承知したと正式な書面を送ってしまった後なので、取り消すにしても難癖をつけられる。」

と言った。

 俺には婚約者がいるが、まだ交渉中で公になってはいない。先日の長期休暇で初めて会ったくらいだ。なので知っている者は限られる。ユーグ殿下が知らなくても無理はない。しかし、妹君二人の留学が伏線として、なんでユーグ殿下はそんな提案をしてきたのだろう?その話はグロリアとユーグ殿下の結婚と同じことでは?むしろ、トレア側が人質を取られたのと一緒のこと。ユーグ殿下はなんでそんな話をしてくるんだ?俺は困惑した。

 俺は伯父上を見る。

「酷い言い方だけど、トレアはロクサーヌ殿下を人質に出すと言ってるのと同じことですよね。今、そんなに仲が険悪でしたか?それとも、トレア大公の後継で揉めているのでしょうか?グロリアとの話がだめになったから俺と、ということでしようか?

それと、俺とあの方との話は無くなったのでしょうか?

伯父上と王宮の方が承知なら、俺に異存はありません。」

俺はそう言った。小さい頃から、俺はグロリアと結婚しなければ、家に利のある相手と政略結婚をするんだろうと思っていたからだ。それにグロリアとの結婚も政略結婚の一種だと言えなくもない。一族で結婚することが多いが、それも権力や財産を分散させないための政略結婚と言えるだろう。それにグロリアと王太子は今でこそ相思相愛だが、政略結婚だ。王太子はグロリアを条件で選んだと言っていた。貴族で恋愛結婚の方が珍しい。

 伯父上は一度頷いてから、話し出した。

「まだ細かなところを詰めなければいけないが、大まかなところは両王家とも合意している。あの方との話はこのまま進めていく。」

「でしたら、この話は断るしかないですね。

伯父上が『ロクサーヌ殿下と結婚を』と仰るのなら結婚しますが、俺の意見が通るなら遠慮します。容姿端麗と外国であるこの国まで聞こえてくるくらいですから、人質になるような嫁ぎ先の俺よりも、条件の良い嫁ぎ先はいくらでもあるでしょう。

留学の件ですが、『見聞を広めるため』と聞いているので、それで通しましょう。見聞を広めるためなら、俺と会う必要はありませんね。学者に説明を聞いた方がいいですから。」

俺は嫌そうな顔をしていたと思う。実際、初めて会った時からユーグ殿下には嫌な印象を受けたから、その妹も会ったことはないが嫌いだ。「嫌いな人の家に咲いていれば珍しい花でも見たくない」ので、仕方ない。

 伯父上はうなずきながら、

「留学の件はそれで良いとしても、問題は結婚の件だ。

お前も言ったように、この結婚はトレア側が人質を差し出すような形になる。この話が公になれば、今のトレアの状況を考えずに、エルメニア有利と推し進めようとする者がでてくるに違いない。

トレアと縁を結んでも我が家にはなんの利もないし、お前個人にとっても良いことはない。迷惑な話だ。

なんとしてでも良いところをあげろと言われれば、あの方よりは美人かもしれないというくらいだ。けれど、身分ある娘は周りがもちあげるし、肖像画なんていくらでも美人に描けるし、実際のところはわからんよ。」

と伯父上は眉間に皺を寄せた。

 隣を見れば何か言いたそうにグロリアが頷いている。聞いて欲しそうにしているので聞くと「お化粧でも変わるよ」と。ナタリー嬢の家にカーライル嬢と試験勉強に行った時、夫人に化粧で変身させてもらったそうだ。その家の夫人と仲良くなるのは良いことだが、何しに行ったんだ?ちゃんと勉強しろ、特にナタリー嬢。

 宰相が「女性は化けるからね。別人になるよ」と笑った。それから、うんざりした顔で

「エルメニアにとっても良いことはないよ。大公は体が弱いのに、息子は二人ともまだ幼いうえに凡庸だし、ユーグ殿下は切れ者で野心家だ。これで、大公妃の父親に人望があればまだ良かったが、権力欲ばかりが強い。どのようなことになるか、火を見るよりも明らかだ。

けれど、エディの言うように、この話に飛びつく連中は出てくるに違いない。まあ、飛びつく連中は『使えない』という判断には使えるがね。

ユーグ殿下がまとめて欲しいと持ちかけた先がエヴァンズ侯爵で良かった。」

そう言って、ため息をついた。

 ユーグ殿下は直接は動かない。前回はサンタナ伯を唆した。今回はエヴァンズ侯爵を唆して、自分は黒幕に徹するつもりに違いない。そして今回は妹もけしかけてきた。

 エヴァンズ侯爵はまだ若いし、侯爵家は王太子の婚約者の我が家と揉めたので、婚約者のいない俺との結婚をまとめる話に飛びつくと思ったのだろう。

 ユーグ殿下の中でエヴァンズ侯爵はどのような人物になっているのか知らないが、非常に優秀な人物だ。現在のトレアの状況から纏めるべきでないと判断、「そのような大役は若輩の自分には無理なので宰相に言って欲しい」と断り、すぐに宰相に報告したらしい。サンタナ伯の二の舞は演じないだろう。

 伯父上は「接触されないよう気をつけるように」言った。寄り道をしないので、接触される恐れは少ないだろう。

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