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ある公爵の若き日の思い出   作者: 桂木
本編
12/176

10話

 入学して一か月が経った。最初のころは俺たちを遠巻きにしていたクラスメイトとも、それなりに話をするようになった。

 グロリアは侯爵家のナタリー・オルブライト嬢とよく楽しそうに話をしている。上位貴族の令嬢同士で話が合うのだろう。さすがの王太子も女子二人の会話には入り難いようで、羨ましそうに二人を見ていた。それでも、時々頑張って、お菓子で釣って会話に参戦しているようだ。


 クラスがそれなりに打ち解けて来たなか、ピンクの髪のマリアンナ・カーライル嬢は明るくて小さいことには拘らないおおらかな性格をしていて外見も可愛らしい。話しかければ気さくに答えてくれるのに、少し浮いていた。浮いているというより、どう、付き合ったら良いのかクラスメートが悩んでいるといった方が正解に近いかもしれない。何しろ、よく怪我をしている。持ち物を無くす。先日は破れた教科書を持っていた。グロリアの話によると、グロリアの近くでよく転ぶらしい。その場面は俺も何度か見かけた。


 その頃、クラスに4人いる女子学生の最後の一人が復学して来た。体調が良くなったらしい。マーガレット・チェイサー男爵令嬢だ。領地経営以外に何か良い副収入があるのか、羽振りがいい。同じ男爵家でもピンク頭のカーライル嬢は寮に入っているが、チェイサー嬢は元々のタウンハウスとは別に王都の一等地にちょっとした邸宅を購入して使用人を数人置いているとの噂だ。彼女に興味がないのでどうでもよいが。

 服にも持ち物にもやたら金をかけてこれ見よがしに身につけている。貴族としてはある程度の見栄をはることが必要とは言え、多くの貴族の通うアルバラ校でもそこまで露骨には富を見せびらかさないだろうし、ましてや此処は王立高等学院。そのような行為は羨ましく思われるどころか、軽蔑されるだけだ。実際、彼女もクラスメイトから浮いている。カーライル嬢と違い、此方は関わり合いたくないのだ。彼女に対しての嫌悪感すら感じられた。

 世の中には権力にすり寄ることで甘い汁を吸おうとする人間がいる。残念なことにチェイサー男爵令嬢はそんな種類の人間らしかった。

 王太子とその婚約者で公爵令嬢、次期公爵候補の俺たちは良い標的だった。なるべく彼女と関わり合わないようにしていたが、同じクラスなので完全に避けるのは難しかった。出先でも出会うことがままあったし、また、馴れ馴れしく王太子や俺の名前を呼んだ。

 グロリアの前で何故かつまずき、グロリアにぶつかりそうになることも何度かあった。その度に近くにいる俺や王太子、護衛のヒューバートが彼女をささえる羽目になった。王太子は「グロリアの前で転けるのが流行っているのか⁈グロリアが怪我をしたらどうする!」と憤慨していた。

 グロリアは一人でいるときによく話しかけられていた。何を話しかけられていたのかグロリアに聞いたことがあるが、「私の髪型とか服とか?何をいいたいのかよくわからないし、多分、大事なことではなさそうなので聞いていない」とのことだった。

 俺もひとりの時に何度か話しかけられたことがある。やたら上目遣いや小首をかしげる。猫なで声で語尾を伸ばし、馴れ馴れしい言葉遣い。おまけにどうでもよい内容。グロリアの言うように「聞いていない」が正解なのだろう。

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