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ある公爵の若き日の思い出   作者: 桂木
シュバルツ辺境伯
116/176

26話

 長期休暇も半ばを過ぎた頃、突然王太子が王宮に泊まることを提案してきた。

「せっかくの長期休暇だったのに、俺の執務に付き合わせて、公爵領にも帰れずに悪かった。せめてものお詫びに、王宮に泊まってくれ。」

なんでそれがお詫びになると思うのか?

 さらに王太子は続ける。

「取り敢えず、客間の一つをグロリア専用にしたんだ。バスルームが付いている部屋だから、好きな時にお風呂に入られる。

グロリア、ごめんね。家具は変えられなかったけど、ベッドカバーやクッションはリッツェンにしたんだ。寝衣もガウンもタオルも全部リッツェンにしたんだよ。」

リッツェンは可愛いデザインが特徴で、ちょうど、グロリアくらいの年頃の女の子に人気だ。休みに入る前、ナタリー嬢がリッツェンの寝衣を買ってもらって自慢するのをグロリアが羨ましがったのを覚えていたのだろう。だからって、全部リッツェンにするのか。

 それから、宰相の部屋で仕事をしていた伯父上を呼んだ。

「公爵、ギルベルトとグロリアは本来なら公爵領に帰るはずだったのに、俺の執務に付き合わせて申し訳なく思っている。せめてものお詫びに、二人には王宮に泊まってもらおうと思っている。しかし、グロリアの部屋だが、客間のひとつをグロリア専用にしたとはいえ、本来なら王太子妃の部屋を使ってもらうべきなのに、改築がなかなか進まないので、申し訳ない。

さ、グロリア、早く部屋に行こう。グロリアは可愛いから、可愛いリッツェンを着たら、もっと可愛くなってしまうな。俺の心臓がもつと良いが。」

そう言って、手を取って連れて行こうとする。

 何を言ってるんだ?グロリアは父親である伯父上の監督下にある。その伯父上はまだ、外泊を許可していない。堂々と拉致宣言か?侍従長は驚いた顔をしている。今日、泊まることは知らないみたいだ。リッツェンを手配したのは侍従長だろうから、部屋のことは知っていたはずだ。今日、泊まることは突然の王太子の思いつきらしい。

 それに全部リッツェンにしても、まだ結婚していないから、王太子はグロリアのいる部屋には入られないし、リッツェンの寝衣を着て寝る姿なんか、絶対に見ることができない。想像するだけだ。気付いていないのか?

 伯父上が苦笑しながら、返事をする。

「殿下、娘の為に部屋を用意していただいて、ありがとうございます。しかし、今、我が家はサンタナ伯との間に問題を抱えておりまして。娘が王宮に泊まるのは少し問題があるかと。殿下が我が家に肩入れしているとサンタナ伯に思われてもいけませんし。」

 意外そうな顔をする王太子。

「休みを返上して、俺の執務を補佐してくれる側近を労うだけだし、婚約者が泊まりに来るだけだ。何の問題がある?ああ、まだ、結婚していないから、問題と言えば問題だな。しかし、ギルも一緒に泊まるし、問題は無いと思うが。それに、明日は公爵邸から来る時間が無い分、朝もゆっくりできるだろうし。」

本当に何を言っているんだ?問題にしているところが違うし、体よく反対されていることに気付け!気付いているが、気付いていないふりか?それとは別に、常に監禁疑惑があるので、王宮には泊まりたくない。

 ノックがあり、宰相が入ってきた。入ってくるなり、「ああ、良かった。帰っていなかった。エディ、早く執務室に帰って、仕事に戻ってくれ。今日は徹夜だって言ったじゃないか。殿下にもお願いしたい仕事を持って来ています」と言った。

「宰相、その仕事は、後ではダメか?今からグロリアを部屋に案内しようと思うのだが。」

突然の王太子の言葉に宰相は王太子の言っていることが理解できない様子だ。

 王太子が再度、同じことを詳しく繰り返す。

「客間の一つをグロリア専用の部屋にしただろう。今日、グロリアとギルは泊まるので、グロリアを部屋に案内しようとしたところだったんだ。まだ結婚してないが、ギルも泊まるからいいだろう?」

「ああ、そう言うことでしたか。構いませんよ。父親も王宮に泊まりますし。さきほども申し上げたように、殿下にもお願いしたい書類がありますので、案内なさったら、ここに帰ってきてください。」

そう言うと伯父上に早く仕事に戻るように促した。

 伯父上が「今日はもう少しなら仕事をしても良いが、王宮に泊まり込んで仕事をさせるなら、今すぐ帰る。もう、二度と仕事は手伝わない」と言い出したので、宰相は徹夜をさせることを諦めたようだ。したがって、俺とグロリアの王宮に泊まると言う話もなくなった。良かった。

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