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ある公爵の若き日の思い出   作者: 桂木
本編
11/176

9話

 この国では「女性に学問は必要ない」という風潮がまだ残っている。建前上はそんなことはないが、この学校の学生の男女比がその風潮の存在を示している。このクラスには女子学生が4人しかいない。グロリアとあのピンクの髪の女子学生とスタンフォード侯爵令嬢ナタリー・オルブライト嬢だ。あそこは男女の双子だったはず。男の方は見当たらない。あまり仲良くしたい人物でなかった記憶があるのでどうでもよいが。最後の一人は体調が悪く、休んでいる。

 何事もなく、下校時間となる。オルブライト嬢は俺たちに会釈するとサッサと教室を出て行った。平等ということで、カーテシーもおかしいと思う。会釈が妥当だろう。もう一人、ピンクの令嬢は上級生が迎えに来るまで担任に残されていた。どうやら寮生のようだ。上級生が寮につれて帰るらしい。

 俺たちも西門から馬車に乗る。なるべくことを荒立てたくないし、憶測で今後活躍するであろう女性を潰したくない。そこで、受験勉強をした部屋で状況を整理し、対処方法を話合うことになった。勉強部屋になったのは公爵家のサロンを使用することを護衛の騎士が頑として承知しなかったからだ。人に聞かせたい話でもないので、部屋のドアを閉めようとしところ、騎士が慌てて侍女を呼んだ。しょうがないので部屋のドアは開けて、外にグロリアの侍女を立たせてある。

 ウィリアムが話し始める。

「あの、ピンクの髪の令嬢はカーライル男爵家の一人娘、マリアンナ・カーライル嬢です。男爵自身は真面目に領地経営をしているようです。今のところ、王太子派、第一王子派のどちらの派閥にも属してないようです。」

「あの御令嬢からは特に悪意を感じませんでしたが。殿下やグロリア様に危害を加えようとしているなら、悪意を完全に隠し切っているということですので、相当な手練れということになります。もし、そうなら、もう少し護衛の人数を増やしたほうがよいかもしれません。」

公爵家の騎士のヒューバートが発言し、王太子の護衛の騎士がうなづく。ちなみに王太子の護衛の名前はベン・ノーマンといい、俺に王立騎士養成学校の話をしてくれた人だ。

 王太子が暗殺対象になるというのはわかる。が、カーライル男爵が王太子暗殺を目論む理由がわからない。カーライル男爵はどちらの派閥にも属してない。属していても、貴族の末席の男爵家にそんなリスクを犯すほどの旨味があるとは思えない。上位貴族と何か、約束している?

 それとは別に、男爵家の令嬢が手練れの暗殺者なんて有り得るのか?調査では実子で、養女ではない。それなら、幼少の頃より暗殺者の訓練?替え玉?う〜ん、どれも、しっくりこない。なんか、とんでもない勘違いをしている気もする。

 みんな考え込んでいると、王太子がすっと席を立ってドアの方へ行く。外にいる侍女に何かを話している。侍女が慌てて「ただいま、すぐに」とどこかへ行った。

「グロリア、今、お茶とお菓子のお代わりを頼んできたからね。気づかなくて、ごめんね。」

いつのまにか椅子をグロリアのすぐ横に持って来ている。当然のようにグロリアの手を握ってキスをしたり、髪で遊んでいたりする。ヒューバートとベンは視線をよそにやり、見ないようにしている。俺とウィリアムにとっては日常茶飯事であるが、およそ王太子たるもの、人前でイチャつくのはまずいだろう。王太子でなくてもどうかと思うが。しかも、婚約者とは言え、結婚してない男女だ。王宮騎士で王太子の護衛のベンは初めて見るその姿に困惑が隠せないどころではなく、激しく動揺しているのがまるわかりだ。

 それはそうだろう。常に冷静に判断をくだし、一切の感情を表に出さない「氷の貴公子」。王宮騎士はその姿を見慣れている。というより、その姿しか見たことがない。入試の時は別の騎士だった。あの時の騎士は「疲れているのか幻覚が見えるようになった」と長期休暇を取って療養中らしい。

 侍女がお茶とお菓子のお代わりを持って来た。王太子が奪うように受け取り、侍女を追いだす。そしてグロリアのカップに茶を注ぐ。

「さ、グロリア。お茶が入ったよ。熱いから気をつけてね。クッキー、どれがいるの?俺が取ってあげる。全部にする?」

 俺はポットに入った残りのお茶を、他の人に配る。

「ベン、お茶のおかわりどうぞ。」

「え、あ、ありがとうございます。」

声がひきっっている。ヒューバートとも仲よさそうだ。俺はこの人がずっと王太子の護衛だったらいいな、と思った。


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