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ある公爵の若き日の思い出   作者: 桂木
シュバルツ辺境伯
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14話

 部屋を出ると、王太子の侍従が待っていた。侍従について行くと、温室に案内された。テーブルにお茶の準備がしてある。

「公爵、ご苦労だったな。」

グロリアもいるが、流石に伯父上を呼ぶからか、いつものように髪で遊んだり、抱きしめたりしていない。それどころか、席も離れている。それでも、常識的とされる距離よりは随分、近い。伯父上はちょっと苦笑しただけだった。多分、二人のいつもの距離は、ヒューバートや目撃している宰相から聞いているだろうから承知しているのだろう。それよりも離れてすまして座っているのが、おかしかったのかも。

「いえ。しかし、殿下、これは少々、よろしくないかと。何分、私は審議会に呼び出されている身です。我が家に肩入れしていると取られかねません。」

 王太子は「ふん」と鼻で笑った。

「婚約者の父君、言い換えれば将来の義父殿が我が家に来ているので、もてなすだけだ。何の問題がある?それとも、無視するほど、俺は礼儀知らずの人間と他の者に印象付けたいのか?それに、無言で茶を飲むわけにもいくまい。茶を飲みながら、世間話のひとつもしようというもの。

審議会に呼び出されたのは辺境伯の件だろう?先日『審議会に訴える』と王宮で息巻いていたからな。他家の夜会でも、ギルベルトとグロリアにその事で絡んだらしいし。どうせ、治めきれずに泣きついてくるくせに。自領の管理も怪しいのに、辺境伯領など無理に決まっている。審議会に訴えても、自分が恥をかくだけだ。

しかも、兄上を審議会のメンバーにに加えるよう要求する厚かましさ。王位継承のことで一応対立していたということになっていたから、意趣返しに自分の味方になってくれると踏んだんだろうが、そんなわけがあるか!」

王太子は一気に捲し立てるように言った。ちょっと、感情的になっている。

 一呼吸おいて、続ける。

「さっき、ウィリアムとグロリアが歩いていたら、サンタナ伯に会って『この簒奪者め、辺境伯も王太子妃の座も我が家の物だ。昔からそう決まっている。わしも鬼ではない。教えてやろう。もうすぐ、そう、発表される。恥をかくまえにさっさとローゼニアに帰れ。

それから、小僧、お前も、法服貴族のくせに殿下の側近とは厚かましい!』と言ったらしい。」

と忌々しげに言った。

「グロリア、大丈夫か?何かされなかったか?ウィルも。」

「ええ、大丈夫よ。でも、ノーザンフィールドに帰って良いなら、帰りたい。」

なんて発言するんだ、グロリア。また、王太子がおかしな言動を取り始めるじゃないか!

「グロリア、長期休暇でもないのにノーザンフィールドに行くのは無理だよ。でも、行く時は私も一緒に行くよ。」

 ウィリアムが首を傾げながら言う。

「サンタナ伯、大変に強気で、決定事項のように仰ってましたが、どなたかの後ろ盾があるのでしょうか?殿下がそういう贔屓をなさるとは思いませんが、殿下はご婚約者であるグロリア様の後ろ盾と言えなくもないです。また、ブルーローズ家の後ろにはアルトドラッヘンが控えてますし、ヴェストニアもサンタナ伯よりは公爵につくでしょうし。それよりも、強力となると、国内のほとんどの貴族が合従連衡しているのでしょうか?それなら、エルメニア内では、敵わないかもしれませんが。けれど、国内でノーザンフィールド公爵家を敵に回してサンタナ伯側につく貴族がいるとは思えませんが。まあ、どこまで本気かはわからないですけど、百合派はそうだと言えばそうですが。」

 グロリアが伯父上に話しかける。

「お父様、どうかなさったの?難しい顔をなさって。」

「いや、何でもないよ。サンタナ伯のことだけれども、何を言ってきても、相手にしないように。さ、そろそろ、お暇をしよう。」

 伯父上がそう言うので、お茶を一杯だけ飲んで帰った。

 帰りの馬車で伯父上は「辺境伯は手放したいが、サンタナ伯では治めきれまい」と言って、目を瞑った。俺とグロリアは顔を見合わせた。

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