新章74 湿っぽいのは似合わない
NO.90湿っぽいのは似合わない
「よっ……んだよ。元気そうだなって言いに来たのに、死にそうな顔しやがって」
「――リズか」
不意に投げかけられた声に、そちらの方を見てみると、開いている扉を不思議がりながら部屋へ入ってくるリズが見えた。
「悪いけど、今は誰とも話したくねぇんだ」
「あぁ、そうかよ」
そう言い残し、リズは来た道を戻っていく――と、思ってたんだけど、なぜか椅子を引っ張り出してきてベッドの横に置いて座り出す。
「ちょっと待て、話聞いてたか?」
「話したくねぇんだろ?」
「普通そのセリフ聞いたやつは出直すんだよ!」
思わず起き上がってツッコんじまったけど、リズの奴は悪びれもせず、全く動こうとしない。
「はっ! 普通なんて知るかよ」
なんだってんだこいつは……今はひとりになりたいってのに、一息つかせてもくれないのかよ。
「それに、んな顔してるやつ放っとけるかよ。人に文句言う前に、自分の表情見てみろや」
そう言うと、リズはたまたま近くに置いてあった手鏡を向けてくる。
「ひっでぇ顔」
そこに映った自分の顔は、目も当てられないほど酷いものだった。
虚な目に、感情が抜け落ちたかのような無表情。涙も鼻水も垂れ流しで、セリカのことを言えたもんじゃない。
「さっきのセリカの様子を見るに、喧嘩でもしたんだろ?んで、8割方お前が悪いと見た」
「残念ハズレだ。10割俺が悪い。俺が一方的に……傷つけた」
「やっぱな」
あまり興味なさそうな空返事と共に、リズはボーッと窓の外を眺める。
本当に何がしたいんだこいつは。まぁ、ちょっと話したおかげで落ち着きはしたけどさ。
ってか、落ち着いたら落ち着いたで、さっきまで自分がどれだけ最低だったのかが身に染みて分かるな。
冷静じゃなかったとはいえ……いや、どんな場面だったとしても言っていいことと悪いことがあるだろ。
「王花のこと、正直俺は特になんとも思ってねぇんだよ。元から信用してなかったし、俺やガキどもは付き合い短かったしな」
「いきなりだな、おい」
「けど、お前やセリカは違げぇだろ?」
「――」
「割と長いこと……それも、協力関係だったってんなら、なおさらキツイに決まってる」
目線は外に向け、あくまで無関心――を装おうとしてんだろうけど、全く隠しきれてないのがリズらしい。
「俺は話に聞いただけから、知ったようなことしか言えねぇけどよ。少なくとも俺には、お前が責任から逃れてるようにしか見えねぇよ」
……返す言葉もないな。
実際、自分は逃げてるつもりじゃなくても、側からはそう見えるし、心のどこかでは現実から逃げてるんだろう。
でも――
「じゃあ、どうしろって言うんだよ! もうどうやって向き合えばいいか分かんねぇんだよ!!」
「別にそのままでいいんじゃねぇの?」
「……は?」
『何言ってんだこいつ』というか内心が顔に出ていたのか、クスッと笑みをこぼしてから、リズが続ける。
「逃げ続けんのがいいって話じゃねぇぞ? ただ、そんな簡単に答えを出していい問題じゃねぇだろってことだ」
「けど――」
「悩むだけ悩め。お前がどう受け止めんのか。王花の奴がどう受け止めて欲しかったのか」
被せるようにそう言い放つと、リズは席を立ってしまう。
そして、そのままドアへと手をかけ、一度だけ振り返り、
「お前なら大丈夫だ。ちゃんと受け止められる。少なくとも、俺は信じてるから」
「リズ……」
そう言い残すと、さっさと出ていき、おそらくドアの前で聞き耳を立てていたんだろう、イナルナに後で来るように促していた。
「王花がどう受け止めて欲しかったのか……か」
考えもしなかったな。あいつは、俺にどうして欲しいんだろうか……
『帝国に行け』
その瞬間、ふと思い出した、王花が最期に放った言葉。
なんで忘れてたのかは分からないけど、今全て思い出した。
そうだ。王花が伝えたかったこと、帝国――『南帝』に行けば分かるんじゃないのか?
確かに王花もういない。けど、そこにあいつが伝えたい何かがあったって言うなら――
「ったく、手厳しいな。落ち込む時間もくれないのかよ」
リズはああ言ってくれてたけど、悩んだって仕方ねぇ。
実際にとどめを刺したのは俺じゃないかも知れない。けど、何もしてやれなかったのは確かだ。
王花の『死』って言う事実を受け入れて生きるしかない、と思う。
そして、王花をあんな目に合わせた奴を絶対ぶちのめす。そのためにも、こんなとこで落ち込んでるわけにはいかない。
「絶対、仇を取ってやるからな」
腹は括った。もう大丈夫だ。
……となると残る問題は――
「セリカ、怒ってるだろうな」
そりゃそうだよな。酷いこと言った……なんて簡単に片付けられないほど、酷い態度をとって傷つけた。
口も聞いてもらえないかも知れない。
それでも謝りたい。きっかけがなんであれ、あいつが好きでいてくれることに、嘘はないと思うから。
今さら疑う余地なんて無かったはずなのに、疑心暗鬼になってしまったこと。傷つけて、遠ざけようとしてしまったこと。
全部謝りたいし、謝らなきゃいけない。じゃなきゃ、もう二度と顔向けできなくなる。
それは絶対に嫌だ。だって――
よろめきながらドアを開け、セリカの所へ行こうとしていたが、どうやら必要なかったらしい。
「あれ? 真宗くん、どこに行くの?」
よく見覚えのある相手が、すでにドアの向こうでやけにソワソワしながら待っていた。
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To be continued
どもども!ひっさびさにお昼更新した雅敏一世でございますよ〜!!
やーっとこさ暗めのお話が終わりそうですね〜
こっから先はほぼほぼいつも通りおふざけ全開…に、なると思うので、気楽にお楽しみくださいませ!
ではでは、また会いましょ〜♪




