新章73 知らない天井
NO.89知らない天井
「知らない天井だ」
ここはどこ? 俺は……真宗だ。うん。記憶はあるみたいだな。
まぁ、記憶以外――具体的には現状が全く持ってわからないんだけど。
一応、ベッドの上だから安全っぽいけど、まだ東共なのか? あー、でも東共だったらベッドは主流じゃないか。
ってことは、西公に戻ってきたってことだろうな。
で、体は……よし。大丈夫、両手足ちゃんとついてる。筋肉痛はひどいから、死んでるってわけでもなさそうだ。
ってことは――
「終わったぁ」
任務が成功したのかどうかは分かんないけど、とりあえず無事に戻ってはこれた。
みんなが無事なのかは、起きて確認しないとな。まぁ、リズたちは脱出するって言ってたし、俺が戻って来れてるってことはセリカも無事だろう。
となると、問題は王花か。思いっきりぶっ飛ばしちゃったけど……いや、あいつめちゃくちゃ頑丈だったから大丈夫か。
「真宗くん!!」
ドタバタと騒がしい足音を立てて、セリカが部屋へと入ってくる。
「よっ、セリカ。無事みたいでよかった」
「こっちのセリフだよぉ!!」
「おっととと」
入ってくるなり、真っ先にセリカが抱きついてくる。
小さく震えてるところを見るに、心配かけてたみたいだな。
「よがっだ! し、死んじゃっだがどおぼっでだがらぁ!」
「心配しすぎだって。めちゃくちゃ元気だから大丈夫だぞ。あと、冷たいから涙拭いてくれ」
全く。しょうがないなぁ、セリカは。心配してくれるのは嬉しいけどさ。
……ん? なんか首がネチャネチャする気が――
「って、鼻水まて伸びてるじゃねぇか!」
「ごべんねぇ」
どうすんだよこれ。多分借り物の服なんだけど。まぁ、どうせ洗濯して返すわけだし別にいいか。しばらく肩が冷たいのに目を瞑れば。
「なぁ、セリカ」
「ん? なぁに?」
「みんな無事なんだよな?」
問いかけた瞬間、セリカの表情が明らかに曇ったのが見て取れる。
この時点で嫌な予感はしていたが、気のせいだと自分に言い聞かせておこう。
「う、うん。みんな無事だよ。王花くんの部下が避難させてくれてたみたい」
「そうか。よかったぁ」
なんだ、ただの思い過ごしか。一瞬変な空気になったから何かあったのかと思ったじゃねぇか。
「で? 王花は?」
「えっとね、王花くんは……」
「お、おいまさか――」
そこまで言いかけて、重大なことを思い出した。そして、思い出した瞬間、身体中から血の気が引いていく。
そうだ。俺が殺したんだ。いや、実際には俺ではないんだけど、俺が殺したようなものだろう。
なんでこんな大事なこと忘れてたんだ? 意識が朦朧としてたとは言え、絶対に忘れちゃいけない事だっただろ。
「俺が……殺した、のか」
「真宗くん? いきなりどうしたの?」
「俺のせいで、王花は死んだのか」
「ちがうよ! 真宗くんのせいじゃ――」
「俺のせいじゃないって言うなら、じゃあなんで王花は死んだんだよ」
セリカは気休めを言ってくれてるけど、今回ばかりは弁明のしようがない。
あの時は、後でどうとでもなると思ってた。けど、結果はこの通り、どうにもならなかった。
「笑えるよな。結局目を逸らすための言い訳だったじゃねぇか」
「そんなこと……」
そこまで言って、セリカは苦しげに俯き、押し黙る。
自分が現実を受け入れ切れなくて、偏屈になっているのはわかっている。それでも、やっぱり気持ちの制御ができない。
「俺がもっと強かったら、王花が苦しんでることにもっと早く気付いてやれてたら、こんな結末にならなかったはずなんだ」
「そんなことないよ! それに、私が魔法以外も使えてたら、王花くんを救えてたかもしれないのに……」
セリカが慰めようとしてくれてるけど、正直全く頭に入って来ない。
仲間を自分の手で殺めた。その事実だけが、重くのしかかって体を動かせなくする。
気づけば、起こしていた上半身を再びベッドへと逆戻りさせ、腕で目を覆っていた。
さっきからセリカがずっと何かを言い続けているけど、それすらなんの慰めにもならず、俺の心をチクリと刺しては通り過ぎていく。
もういっそ、『お前が殺したんだ』って、罵ってくれた方が楽なのにな。
だって、さっきセリカが言った言葉。その通りだって思っちまったんだから。
弱くて情け無い自分も嫌だけど、こうやってすぐに言い訳を探しだす自分が、本当嫌になる。
「無理しなくて良いよ。セリカ」
「え?」
「心にも思ってない事言って、慰めようとしてくれなくても、ちゃんと分かってるから。お前も俺のこと、役立たずのクズだって思ってんだろ?」
あぁ、何言ってんだろ俺。セリカがそんな風に思ってないことなんて分かってるのに……これじゃただの八つ当たりじゃねぇか。
「ねぇ、真宗くん何を言ってるの? そんなこと思ってるわけないじゃん! 好きな人のこと、そんな風に思うわけないよ!」
「それも本当なのか?」
「……どう言う意味?」
「普通、初対面の奴をいきなり好きになったりしねぇだろ。なんで好きなのかも聞いたことねぇし」
口に出した瞬間、言ってはいけないことを言ったのだと悟った。
けどもう遅い。一度発した言葉は引っ込んではくれない。みるみるうちにセリカの血の気が引いていき、無言のまま立ち上がる。
「ごめん。ちょっと席外すね」
セリカは小さく言い残すと、小走りで外へと出ていってしまう。
それに対して引き止めることもできず、ただ天井を見つめることしかできない。
「最低だ……俺」
自分ても驚くほどか細く、消え入るような声でそう呟く頃には、もう何もかもがどうでも良くなっていた。
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To be continued
どもども!ちょいと遅刻の雅敏一世です!
ってなわけでー? 祝!新章第二幕、開幕!!
なんですけど、おっっっもいですね!内容が!けどご安心を。後少し。後少ししたら色々分かりますのでお楽しみに〜
ではでは、また会いましょ〜♪




