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ヘタレ魔王の英雄烈伝!  作者: 雅敏一世
新章第一幕 東共奪還作戦編
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新章71 クロスくんの後始末




NO.87クロスくんの後始末


 真宗とヒルデガルドの勝負が決した頃、クロスは執務室にていつものように書類整理を行っていた。


「グリム。僕ちょっと東共に行ってくる」


「はぁ」


 心底面倒そうに応じるのは、書類整理に付き合わされていたグリムだ。

 本来ならば「!?」が最後に着きそうな場面だが、クロスの突拍子のなさに慣れ切っているグリムは、もはや驚きもしない。


 『まーた意味わからないこと言ってるよこの人』という本音を顔に貼り付けて、クロスの顔を見つめるのみだ。


「いや、何か言ってよ。これじゃあただの大きい独り言じゃないか」


「別にいいんじゃないですか? ギルマスは元々変ですし」


「僕が変であることを前提で話さないでよ!」


 そう言いつつ、いそいそとデスクの横にあるクローゼットから隊服を引っ張り出してくる。

 その様子に、さしものグリムも先程の発言が冗談ではなかったことに気づく。


 だとしてもクロスの行動が意味不明なのには全く変わりない。

 おそらく草薙小隊の元へ向かおうとしているのだろうが、今更向かったところで何になると言うのか。


「そもそも、東共のことは丸投げでいいと言ったのはギルマスじゃないですか」


「いや、そんなこと言ってられないくらい嫌な予感がするんだよ」


「だからって……第一、今行ってももう間に合わな――」


 書類片付けをしていた手を止め、クロスの方に目をやる。

が、時すでに遅し。すでにクロスの姿はなく、ただ窓の一つが開け放たれているのみだ。


「はぁぁぁ……まぁ、あの人ならなんとかなるか」


 単なる現実逃避だが、妙に説得力のあるひと言で自分を無理やり納得させることにしたグリムは、再び書類整理に戻る。


 心の隅で、皆の無事を祈りながら――


♦︎♦︎♦︎


「やぁ、楽しそうだねぇ……僕も混ぜてよ」


 突如として戦地へと降り立ったクロスに、両者驚きを隠せないまま膠着状態となってしまう。

 それに対して、優しげな笑みを浮かべたクロスも特に何か言うわけでもなく、ぴょんと軽い調子で斧の上から飛び降りる。


「ギルマス……」


 先程まで極度の緊張状態だったセリカは、安心感からかその場にへたり込んでしまう。


「セリカ。真宗くんは?」


 斧から飛び降りたクロスが、ゆっくりと歩みを進めながら問いかけると、セリカはゆるゆると力なく首を振る。


「じゃあセリカ。ちょっと目を瞑ってて。僕がいいって言うまで開けちゃダメだよ」


「でも――」


「いーから。あとは僕に任せてよ。ねっ」


 渋るセリカだったが、勢いに押されて、立ち膝のままゆっくりと目をつぶる。

 一方、クロスは何故か全く微動だにしない『金星』の方へと向かう。


「あと、君は邪魔」


 低く、そして小さく言い放つと同時に、『金星』の鳩尾へと正拳突きを叩き込む。


 その威力は、拳を振るう速度と全くもって比例しておらず、軽いジャブに対してあり得ない程の暴力を持って、『金星』の体を後方へと勢いよく吹き飛ばす。


 先程セリカが使った重力攻撃から抜け出すため、謎の力で筋肉をはち切れんばかりに膨張させていた『金星』だ。耐久力が並大抵ではない事は、想像に難くないだろう。


 にも関わらず、驚くほど簡単にねじ伏せられた。

 その事実こそがクロスの異常性をこれでもかと物語っている。


「あーあぁ、こりゃまたこっぴどくやられちゃったねぇ。真宗くん」


 『金星』を軽々と殴り飛ばしたクロスは、真宗の元に戻ってくると、指示通り目をつぶったまま座っているセリカの目の前に座り込む。


 そして、ゆっくりと真宗の胸に手を当てると、真宗の体が淡く発光し始める。 


「『死者蘇生(リザレクション)』……なんちゃって」


 ふざけた詠唱だが、効果は確かにあり、発光が収まる頃には再び真宗の心臓が動き出していた。

 まさに神業。しかし、クロス自身は大して気にも留めておらず、真宗の回復に安堵すると共に、セリカの方に目を向ける。


「もう目開けていいよ。セリカ」


「ギルマス、さっきリザレクションって――」

「はーい、ストップ。言いたい事は色々あるだろうけど、それは帰ってからで。とりあえず、今は真宗くんを連れて逃げて」


 口ではあくまでお願いという体だが、その行動は手早く、真宗をセリカの背に乗せると、さっさと自分の上着で固定する。


「いいかい? 僕は大丈夫だから、全速力で走るんだよ。この部屋を出て、右手に向かってまっすぐ走れば外に出られるから」


「……わかった。ギルマスも、絶対無事で戻ってきてね」


「誰に言ってるのさ。あと、外でリズくん達が待ってるから、合流したら先に西公に戻ること。わかった?」


「うん!!」


 叫ぶと同時に、セリカが扉へと向かって走り始める。

 その様子を見届けたクロスは、満足げに微笑むと、先程殴り飛ばした『金星』の方へと歩き出す。


「やぁ、久しぶり。オルフェン。あっ、『金星』って読んだ方がよかったかな?」


 その声からは、軽い挨拶のような内容とは裏腹に、普段の明るさは一切感じられず、ただ重く響くのみだった。


………………………………………………………………

To be continued


どもども!ちょい久しぶりでございます!雅敏一世です♪

いやぁ、前回「次で終わりです!」なんて言った手前、なんとか1話でまとめようとしたんですけど…はい。無理でした!

4000字ならギリギリいけるかと思ってたんですが、超えやがりましたので大人しく分割させていただきました。

ではでは、また会いましょ〜♪

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