新章69 奇襲
NO.85奇襲
溢れ出て止まらない涙が、倒れ伏すヒルデガルドを覆い隠していくが、今の俺にはそれすらも気にしている余裕がない。
緊張が解けたせいか立ってられねぇ。あっ……やばい。倒れ――
「真宗くん!」
膝から崩れ落ち、地面とキスする寸前、駆け寄ってきたセリカに無事受け止められる……
「へぶっ!」
「あっ」
と思ったんだけど、どうやら間に合わなかったらしく、そのまま地面に追突する。
いってぇ。でも、痛みで少しは頭が冴えたから、これはこれでよかったのかもな。
「大丈夫?」
その言葉と同時に、ゆっくりと頭が持ち上げられ、セリカの膝の上に置かれる。
大丈夫か大丈夫じゃないかと聞かれると、どう考えても大丈夫ではないが、声に出そうとすると嗚咽に上書きされてしまい、返事をすることもできない。
たぶん、頭で理解してはいるけど心が納得していないせいだ。
「俺はいい。けど、王花が、王花がしん――」
「でないが? 勝手に殺すな」
「え!? 生きてたの!?」
マジか、生きてたのか。足元見えないからかんっぜんに早とちりしてたわ。すまん。ヒルデガルド。けど、おかげで涙引っ込んだ。
ってか、あんだけやっても気絶すらしてないなんて、頑丈すぎだろこいつ。絶対倒しちゃったと思ってたから、地味にショックなんだけど。
「ふっ、そんなに死んでいて欲しかったか?」
「ちが――」
からかうような口調で、自嘲気味に笑うヒルデガルドに、思わず起き上がって足元のほうに目をやる。
そこでは、血を吐いて息も絶え絶えになっているヒルデガルドが、仰向けに寝転んでいた。
「って、やっぱボロボロじゃねぇか。こんだけやって無傷だったらどうしようかと思ったぞ」
「別に自分は無敵でもなんでもないからな」
こっち目線だと十分無敵みたいなもんだった気がするけどな。まぁ、今あえて言うことでもないし、口には出さないけど。
「なぁ、真宗」
「なんだよ。改まって」
若干すねたような口調で返すと、ヒルデガルドはそのまま黙り込んでしまう。
……こいつ笑ってやがる。何が面白かったのか知らないけど、肩震えてんのばれてるからな?
「おい。何笑ってんだ」
「ふくく。いや、すまない。やっと素で話せたのがうれしくてな」
思ってたより切ない理由だった。やめろよ。そんな風に言われたらちょっと嬉しいだろうが。
そんなことを思いつつ、激痛を振り切って立ち上がり、ヒルデガルドの頭の横に座り込む。
「先ほど言いかけたことだが、自分はもう長くない。こうして話していられるのも、恐らく見捨てられたからだろうな」
「はぁ!? な、何とかならないのか?」
「無理だ。が、最期に伝えておきたいことがあるから、それまでは持たせる。セリカもこっちに来てくれ」
「私も?」
呼ばれたセリカが、不思議そうな顔をしながら、ちょこちょこと近づいてきてヒルデガルドの左側に座り込む。位置的には、俺がいる真反対の場所だ。
「自由意志が戻ったとはいえ、いまだ重要なことは話せん。言える範囲で伝えるから聞き逃すなよ。いいか? 絶対にだぞ?」
「わかってるって」
俺らどんだけ信用ねぇんだよ。
そんなことを思っている間に、ヒルデガルドはぽつりぽつりと話始める。
「本意ではなかったとはいえ、裏切ったのは本当にすまない……真宗、貴様に辛い役目を押し付けてしまったこともな」
「いや、あれは俺が決めたことだ。お前が気にすることじゃねぇよ。むしろ時間かけて悪かった」
平然を装って笑いかけると、ヒルデガルドは一瞬苦い顔をしたものの、同じように笑い返してくる。
やっぱごまかされてはくれないみたいだな。
「ふっ、話しておきたいことがあるなんて言ったくせに、案外話せることは少ないな。面倒な呪いだけ残されたか……」
「でも、解放されたんじゃねぇの?」
「精神はな。口止めはされたままだ」
そういうことか。てっきりスキルの影響がなくなったのかと思ってたけど、どうやら洗脳そのものが解かれたわけではないらしい。
いや、別に自分で考えたわけじゃないよ?疲労で頭ボーっとしてるから、そこまで考えられるわけないっての。ヒルデガルドがボソッとつぶやいてたのを聞いただけだ。
「自分に言えることは2つだけ……『神古龍』に気をつけろ。それから――」
そこまで言いかけた時、突如として現れた赤い光が、ヒルデガルドの胸を貫く。
「ヒルデガルド!? おい! しっかりしろ!!」
くっそ! 誰がやったのか知らねぇけど、今絶対大事なこと言おうとしてただろ!
せっかくヒルデガルドが命削ってまで話そうとしてくれてんのに!
ってか、心臓マッサージってこれで合ってんの? そもそも、出血してんだから意味ないんじゃね?
「……ぃ……に、いけ」
「はぁ!? なんて言った?」
必死に蘇生処置をしながら聞き返すと、今度は小さいながらもはっきりと聞こえた。
『帝国に行け』
その言葉がどういう意味だったのかは分からない。
南帝に、黒幕に関する“何か”があるのか、それとも別の理由なのか。しかし、その答えが紡がれることは二度となく、ヒルデガルドはそのまま動かなくなってしまう。
「しっかりしろ! ヒルデガル――」
『ピシュン』という軽い音とともに、目の前を閃光が駆け抜ける。
「真宗くん!!」
セリカの悲痛な叫びが耳に届く頃には、胸に衝撃を受け、地面に突っ伏していた。
「はいっ、お仕事完了っと」
意識を失う直前、聞きなれない男の声が、不快な笑い声と共に響いたのが聞こえた。
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To be continued
どもども!スマホぶっ壊れたせいで週一投稿を阻まれた雅敏一世です!おかげで、久しぶりに深夜投稿を免れましたけども。
pcもいいんですが、持ち運べ無いのがねぇ…
どうでもいい作者の端末事情はさておき本編ですが、ちょいと重苦しい展開が続いております。
けどすみません。もうちょっとだけ続くんじゃあ状態なのでもうしばしお付き合いを。
ただ一つ。ヘタレつなのでご安心くださいとだけ言っておきます。ここまでお付き合いいただいた皆さまなら、今後どうなるかはお分かりいただけるかと。
ではでは、また会いましょ〜♪




