新章67 決意の後押し
NO.83決意の後押し
「セリカ、危ない!!」
「えっ!? ……って、わぁぁぁぁあ!!!」
間に合え間に合え間に合え!!
あとちょっと!あともう少しで――
「間に合っ……たぁ!!」
すんでのところで、さっき避けたはずの大岩に追いつき、『百花繚乱』で粉砕する。
「ありがと――」
「何やってんだ!バカ!! 油断しすぎだぞ!」
思わず怒鳴りつけると、セリカはたじろぎ、そのまま萎縮してしまう。
「ご、ごめんね?」
そんな中でも、健気に謝ってくるセリカをみて、安堵感が溢れ出し、身体中の力が抜けていく。
そのまま、セリカの肩に手を置いたまま、へたり込んでしまった。
「……無事でよかったぁ」
「真宗くん……本当にごめんね。足引っ張っちゃって」
別に、足引っ張られたなんて思ってないけど、そこまで怯えられると怒鳴ったことへの罪悪感が凄いな。
けど、間に合わなかったらと思うと、ゾッとしたんだからしょうがなかったってのもわかってほしい。
危うく仲間が粉微塵になる様を見届けることになるところだったし。
「いや、こっちこそいきなり怒鳴って悪かった」
「ううん。それは大丈夫。ちょっとびっくりしちゃっただけだから」
「けど、だ」
ぐっと顔を近づけて、少し強めに力を込めて言葉を紡ぐ。
セリカの顔が一気に赤くなるが、今は気にしない。と言うか、ヒルデガルドがいるからそんな余裕はない。
「申し訳ないけど、今はお前まで守ってやれる余裕がない。頼むから、自分の身は守ってくれ。俺のことは心配しなくていいから……わかったか?」
「ひゃ、ひゃい!」
「ならよし!」
若干返事が怪しかった気がするが、セリカの返事に満足した俺は、再びヒルデガルドの方へと向き直る。
「悪いな。待たせちまって」
「別に構わ……いや、構うな。最悪だ」
途中まで言いかけ、後半から真逆のことを言い始めるヒルデガルド。
しかも、さっきまでの雰囲気とは全然違う。この部屋に入ってきたときのような、冷たい雰囲気へと一気に変わっていく。
『はぁ〜い☆大丈夫かしらん♪』
「うぉお。びっくりしたぁ」
ヒルデガルドの雰囲気が変わったのも束の間、今度は頭の中に聞き覚えのある声が響く。
この妙に胡散臭い声、絶対に『試練』のときの奴だろ。
「真宗くん? どうしたの?」
「いや、なんか変な声したからびっくりしただけ」
「変な声? 何にも聞こえなかった気がするけど……」
『あら☆ごめんなさいねん♪驚かせちゃったかしらん♪あっ、返事は頭の中で念じてねん☆勘づかれたくないからねん♪』
『で? 何の用だ?』
正直、怪しさ全開すぎて警戒心しか湧かないんだけど?
『あっちょっと遮らないで――』
『あー、真宗聞こえるか?』
『リズ!?』
なんでリズの声がするんだ? ……同じ場所にいるとか?
じゃあ、あの怪しい声のやつは敵じゃない?だめだ。混乱してきた。
『わりぃけど、今はマジのマジで説明してる余裕がねぇ。こいつの話聞いてやってくれ』
『わ、分かった』
いや、声を変えて騙してるだけなのかも知れないけど、不思議とそんなことはない気がした。
ヒルデガルドが動かないってことは、結託して隙を作ろうとしてる訳じゃなさそうだしな。
『演技じゃバレる可能性があったから、アンタに言うつもりはなかったんだけどねん☆そうも言ってられる状況じゃなくなってしまったからん♪』
声の主――デスピナ曰く、ヒルデガルドは操られていて、バレないように解除するため奮闘していたらしい。
その上、解除しようとしていることを気取られないように、本心を打ち明けるわけにはいかなかったみたいだ。
ヒルデガルドの行動に矛盾が多かったのは色々と複雑な状況に置かれてたからなのか。
裏切られた訳じゃないって分かったのは嬉しいけど、解除する為には死ぬしかないって極端すぎだろ!
『他に方法はないのか?』
『ないわよん☆』
即答かよ。いや、そんな甘い話じゃないってのは分かってたけどさ。
『ってか、なんで今更それを言うんだよ。演技だってバレたらまずいんじゃねぇの?』
正直、上手く演技できる自信なんてないから、騙すなら騙し通して欲しかったんだけど。
『いやぁ、ガルド様を操ってる方にバレちゃったみたいでねん☆体の主導権を奪われた上に、応援まで来るみたいなのよん♪』
「はぁ!?」
おっと、思わず声出しちまった。
にしても、最悪の事態すぎるだろ。ただでさえもう既に手一杯なのに。
『あたくしは、『爆炎王』とおチビちゃんたちを避難させるから、そっちはそっちでうまくやってねん♪あたくし、そっちには干渉できないのよねん☆』
『おい、ちょっと待てよ!』
……聞こえなくなった。あの野郎! 顔も知らないけど、会ったときぶん殴ってやる!!
まぁ、リズたちを避難させてくれるのはありがたいけどさ。
『真宗!』
『……真宗』
握り拳を作り、天井を睨みつけていると、今度はよく聞き覚えのある2人の声が頭の中に響く。
『どうした? イナ、ルナ』
『えっと……大丈夫よね?』
若干震えながら問いかけられた大丈夫は、どの大丈夫なのか、正直よくわからないけど、ここで大丈夫じゃないと返すわけにはいかないだろう。
『あぁ、大丈夫だ。お前らも、リズにあんま面倒かけるんじゃねぇぞ』
『面倒なんてかけないわよ!』
『……約束は、できない』
2人して真逆な反応なのに、どっちにも安心できないのはなぜだろう……日頃の行いか。
さてと、あいつらももう行ったみたいだし、さっさとケリをつけるか。
「真宗くん!」
「おっとと、どうした?」
決意を固め、踏み出そうとした瞬間、セリカが呼び止めてくる。
危ない。一歩目を踏み出す途中だったから、よろついちまった。
「いってらっしゃい! 王花くんなんてボコボコにしちゃえ!」
「おう。行ってくる」
ちょっとどうかと思うセリフと共に、満面の笑みで送り出してくれるセリカに笑いかけ、再びヒルデガルドの方へ向けて足を進める。
殺すとかどうだとか、この際関係ない。あいつが苦しんでるんだったら、俺は救ってやりたい。
急がないとさらに敵が増えるみたいだしな。
開戦の合図は、ヒルデガルドとの掛け合いでやった気がするけど、改めてもう一度。
サクッとフルボッコにして分からせてやる。
そして後悔させる。死のうとしていたなんて絶対許してやらないね。
一歩、一歩とゆっくり歩みを進めていき、救うべき敵を真正面に見据え、再び開戦の合図を。もう既に掛け合いでやった気がするけど、改めてもう一度宣言しておこう。
当の本人は、ネジが切れたように動かなくなってしまったが、そんなものお構いなしだ。
「絶対助けてやる。死なせてもらうなんて思うなよ!」
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To be continued
はい。はいじゃないですけども。雅敏一世です。
お分かりの通り、ヒルデガルド戦は次週まで続くんじゃ〜
本当は終わるつもりだったんですけど、流石に長くなりすぎるので伸びました。
次回は絶対に終戦ですので、お楽しみに!
ではではまた会いましょ〜♪




